「女性との対話をシミュレーションするAIチャットボット」が独り身に悩む男性の恋愛スキルを向上させる可能性

近年はChatGPTやGeminiなどのチャットAIをトレーニングして、まるで理想の恋人やパートナーと話しているようにやり取りをして楽しむ人が増えています。また、最初から異性との恋愛的なやり取りを目的としたAIコンパニオンも登場しており、多くの人々がAIとの疑似的な恋愛関係を楽しんでいます。独り身に苦しむ男性を対象にした新たな実験では、女性のふりをしたAIチャットボットとのやり取りで独り身の男性の心理的負担が軽減され、恋愛スキルが向上する可能性があると示されました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10508-025-03356-3

Therapists test an AI dating simulator to help chronically single men practice romantic skills
https://www.psypost.org/therapists-test-an-ai-dating-simulator-to-help-chronically-single-men-practice-romantic-skills/
孤独は深刻な公衆衛生上の危機として認識されており、うつ病・不安・心血管疾患・糖尿病などのリスクを高めることがわかっている世界的に問題となっています。信頼できるパートナーの存在は生活満足度や身体的健康を向上させる保護的な緩衝剤として機能しますが、世界中のさまざまな層で「本当は恋人やパートナーが欲しいのに恋愛関係を築けない人」が増加しています。多くの人々にとって、絶え間ない恋愛の失敗は強い劣等感や悲しみを引き起こし、長期的な欲求不満につながります。
しかし、不本意な独身生活を送る男性の多くは、従来のメンタルヘルスケアを避ける傾向があります。その理由には、セラピストへの不信感や経済的な問題、性的な不安について話すことへの抵抗感などがあると考えられます。恋人を作りたくても作れない男性の中にはデジタル空間のコミュニティに傾倒し、ジェンダーロールへの硬直した考えを抱き、自分の恋愛がうまくいかない責任を女性に求めるようになってしまう人もいます。
そこで、カナダのケベック大学モントリオール校で性科学について研究しているデヴィッド・ラフォーチュン博士が率いる研究チームは、独り身男性に従来の臨床現場のような抵抗感を抱かせずに介入する方法として、「AIチャットボット」が役に立つかどうかを調べる実験を行いました。
近年はチャットAIが急速な発展を遂げており、記事作成時点では数百万人を超える人々がユーザーの好みに適応し、パートナーがいるような体験をシミュレーションする恋愛AIチャットボットと会話しています。ラフォーチュン氏らの研究チームは、独り身男性に向けて設計されたAIチャットボットとのやり取りが、「恋愛コミュニケーションのための安全な訓練の場」として機能する可能性があるとの仮説を立てたとのこと。

研究チームは実験のために、一般的な出会い系アプリのような外観と機能を持つ「Kindling」というカスタムウェブプラットフォームと、Kindling上でやり取りできる「マリー」という女性を模したAIチャットボットを開発しました。マリーは膨大な量のテキストデータで訓練されており、背景としてのストーリーや趣味、共感性、積極性、そして寛容さといった特性が与えられました。また、敵対的な発言や難しい会話にも柔軟に対応できるように、心理的リソースのライブラリも搭載されています。
実験には、少なくとも1年間は独り身であり、恋愛関係を持てないことに悩みを抱えている異性愛者の男性32人が募集されました。被験者はマリーとのチャットを始める前に、Kindlingでスマートフォンの出会い系アプリを再現したスワイプ操作を行い、20代後半〜30代前半のリアルで多様な女性を模したプロフィールを閲覧。その中から好きなプロフィールを選択することで、マリーとテキストベースのやり取りがスタートする仕組みになっていました。
実験は、資格を持つ臨床心理士が同席した研究室内で行われ、被験者は2時間未満の構造化されたセッションに参加しました。臨床心理士は被験者の感情的な苦痛を監視し、課題の合間に短い内省を促すようにしました。被験者はマリーがAIチャットボットであることを知っていましたが、まるで実際のデート候補者であるかのように接するように求められていたとのこと。

マリーとのやり取りは、現代のデートの典型的な流れを反映した、15分間の3つのステップに分けられていました。1つ目のステップでは、被験者はマリーに連絡して世間話をするように求められました。マリーもシンプルかつ親しみやすいあいさつを返し、「こんにちは。今日の気分はどうですか?ちなみに私はマリーです」といったメッセージを送りました。
2つ目のステップでは、被験者はマリーに自己開示をして、個人的な価値観や感情、過去の恋愛経験などを共有することが求められました。このステップでは男性たちが自らの防御を緩め、AIチャットボットに弱みを見せる必要がありました。これにより、AIチャットボットが感情的な親密さを育むことができるかどうかが検証されました。
3つ目のステップでは、被験者は「恋愛に発展する可能性があった相手からの拒絶」という経験を乗り越えることが求められました。マリーはこのステップで、被験者に対して恋愛感情がないことを明確に示すようプログラムされており、被験者は制御された環境下で女性との関係が絶たれた痛みを体験できたとのこと。
被験者は各ステップの間で短い休憩を取り、臨床心理士と話をしました。この際、臨床心理士は被験者のネガティブな思考について質問し、マリーとの対話中に生じた劣等感を処理できるよう支援したとのこと。この内省的なプロセスは男性たちが感情的な認識を高め、デートにおける自滅的なパターンを認識するのを助けることを目的としていました。
研究チームは実験前と実験後3カ月間にわたり、被験者の精神的な幸福度を追跡調査しました。その結果、男性の心理的不安や孤独感、性生活に関連する苦痛が明らかに減少していることが判明。この効果は実験から1カ月後と3カ月後の追跡調査でも、ほぼ維持されていたとのことです。

多くの男性はマリーとのシミュレーションがリアルであり、実際の出会い系アプリで直面するハードルを正確に反映していると報告しました。何人かはこの実験が非常に楽しく、普段のように恥を恐れることなく女性といちゃつく練習ができたと述べていたそうです。被験者らはこの実験により女性への警戒心が薄れ、以前よりも自分を表現しやすくなったと感じていました。
被験者の気分には、3つのステップを進むにつれて明確な変化がみられました。自己紹介や自己開示のステップでは、被験者は相手に受け入れられている感覚があり、自分の魅力や自信が高まったと報告していました。しかし、恋愛関係の拒絶を受けた最後のステップの後は、予想通りこれらのポジティブな感情は低下しました。それでも被験者はこの経験をうまく乗り越え、心理療法士がパニックや激しい悲しみに対処する必要はなく、セッション後も心理的苦痛の急増は見られなかったとのことです。
一方で、被験者の一般的な敵意やジェンダーロールに対する硬直した信念、恋愛の失敗を女性のせいにする傾向といった心理プロファイルには、マリーとの対話を経ても変化がありませんでした。こうした深く根付いた信念を変えるには1回のセッションでは対応できず、より長期的で集中的な介入が必要な可能性があります。
今回の研究には、「サンプル数が少ない」「被験者のほぼ全員が高学歴で白人の異性愛者だった」「対照群が含まれていなかった」「AIチャットボットとの対話ではなく心理療法士との話し合いが効果をもたらした可能性がある」など、さまざまな限界があります。また、長期的かつ日常的にAIチャットボットとやり取りするようになった場合の影響も不明です。
研究チームは今後、音声機能とビデオ機能を備えたKindlingのより高度なバージョンを開発したいと考えています。また、デジタル空間で培った恋愛や社交のスキルが、現実世界におけるより良い人間関係の構築に役立つかどうかも検証する予定です。
