「一緒になれないなら死のう」千葉・ネパール人男性死亡事件 “殺人”で逮捕の女が裁判で語ったこと
男性の胸を包丁で刺した疑いで逮捕
「ベッドで横になって2人で泣きながら話をしていると、突然、彼が起き上がって『一緒になれないんだったら死んでやる』と言って、テーブルに置いてあった包丁を手にもって胸のあたりを刺しました」
交際相手が自殺を図った瞬間について、殺人を疑われた32歳の女はこのように話した──。
「’25年10月28日、千葉県警捜査1課は交際相手のネパール人男性、チャンタール・バダルさん(21)を殺害したとして、千葉市のアルバイト・浅香真美被告(32)を逮捕しました。浅香被告は船橋市内のホテルでバダルさんの胸を包丁で刺した疑いがもたれていました。
10月5日の午前8時ごろ、浅香被告が『男性が自分で刺した』と119番通報し、駆け付けた救急隊員が血だらけでうつぶせの状態で倒れているバダルさんを発見。その場で死亡が確認されたということです」(全国紙社会部記者)
現場からは包丁2本が発見され、浅香被告が「(包丁を)万引きした」と供述したことから、県警はその場で窃盗の容疑で逮捕した。浅香被告は逮捕当時、殺人の容疑について「間違いです」と否認していたという。
「その後、検察は浅香被告を殺人ではなく、自殺幇助と窃盗、銃刀法違反の罪で起訴しました。理由を『証拠に照らして判断した』としています」(前出社会部記者)
’26年2月19日、千葉地裁で浅香被告の初公判が開かれた。公判にはバダルさんの親族も参加し、ネパール語の通訳を通じて、浅香被告の供述を聞いていた。
裁判では、その日に何があったのか、少しずつ明らかになった。
周囲から結婚を反対された
日本語学校の学生だったバダルさんと浅香被告が職場の工場で知り合ったのは’24年の12月。11歳年が離れた2人が交際を始めたのは、’25年3月だったという。浅香被告は交際が始まった3月には、結婚を求められていたと振り返る。
「最初に彼(バダルさん)が、『結婚』というフレーズを入れた熱いメッセージを送信してくださいました。また実際に会ったときにも、『結婚したい』というようなことを言われたりもしていました。私は好きでしたが、その頃はまだ結婚までは考えていませんでした」
バダルさんには学校があり、浅香被告もダブルワークをしていたため、会うのはもっぱらホテルだったという。被害者代理人弁護士の「2人で映画を見たり、アミューズメントパークに行ったことはありましたか」という質問には、「ありません」と答えている。
9月ごろには浅香被告はバダルさんとの結婚を考えるようになったが、周囲からは反対されていたという。浅香被告は自殺を考えるようになったきっかけが3つあるとして、こう述べていた。
「家族に反対されたこと、2人で生活するお金がなかったこと、そしてバダルさんが職場を変わったために顔を合わせる時間が減ったことです」
家族からの反対については、弁護人の質問に答えるかたちで、このように話していた。
「私の親からは、互いの文化や育ってきた環境が違うので、一緒に生活するのは難しいのではないかと反対されていました。彼(バダルさん)も『あなたは何をしに日本に行ったのか』と父親から電話があり、結婚を反対されたと話してくれました」
浅香被告によると、バダルさんは「『一緒にいたい』『結婚したい』と非常にショックを受けていた」という。
そして、どちらからともなく、自殺を考えるようになった。
「『一緒にいられないんだったら死のうか』とバダルさんがネパールのククリナイフの画像を見せてくれました」(浅香被告)
ククリナイフの画像を見せられたことを、「刃物を準備してほしい」というメッセージだと受け取った浅香被告は、「どうせ死ぬのだからわざわざ買う必要はない」と、10月3日、100円ショップで出刃包丁を2本、窃盗した。
10月4日の夜、ホテルでバダルさんと会うと、部屋のテーブルの上に包丁2本を並べ、「刃物を準備した」ことを告げたという。
そして、冒頭のようにバダルさんは自殺を図ったのだと、浅香被告は供述している。
食い違う遺族の証言
検察官はバダルさんの体に十数ヵ所の刺し傷や切り傷があったことを指摘し、「これだけの傷がどうやってできたのか、わかりますか」と質問すると、浅香被告はこう答えた。
「私はベッドの上にいたのでバダルさんの背中しか見えませんでした。バダルさんは前かがみになっていたので、実際にどのような動きをしていたのか、わかりませんでした」
そして、バダルさんの後を追わなかった理由をこう話していた。
「頭が真っ白になったため、行動することができませんでした」
しばらく逡巡した後、119番通報したのだという。
公判で、バダルさんとの楽しかった出来事を思い出しながら、「毎日、冥福を祈っています」と述べた浅香被告。一方、日本でバダルさんと一緒に住んでいた親族は、事件後の取り調べで、このように供述していた。
「バダルさんと被告人の交際を知っていましたが、’25年10月2日の夜にバダルさんから被告人に別れ話をしたと聞きました。バダルさんは殺されたと考えています。バダルさんの死に関与した人については、厳しく処罰してほしいと思っています」
遺族は「殺された」と考えているようだが、浅香被告がこの裁判で問われているのは「自殺幇助」などの罪で「殺人」ではない。裁判を通じて遺族の疑念を晴らすことはできるのだろうか。そして、司法は浅香被告にどのような処罰を下すのだろうか。
引き続き、審理が行われる予定だ。
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取材・文:中平良
