フクチマミさんが語る「学びのきほん」──教養との距離を、もう一度生活の側へ 【学びのきほんが聞いてきた】

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「教養」という言葉には、どこか緊張感があります。
知らなければならない、理解できて当然、身につけていないと恥ずかしい――そんな空気を、私たちはいつの間にか吸い込んでしまっているのではないでしょうか。

一方で、日々の生活は忙しく、仕事、家事、子育てなど、まとまった時間を確保するのは難しく、体力も気力も限られています。

NHK出版の〈学びのきほん〉シリーズは、そんな状況のなかで、「教養を、もう一度生活の側に引き寄せる」ことを試みてきました。

薄く、軽く、手に取りやすく。その佇まいは、一見すると「教養書」らしくないかもしれません。しかし、ページをめくると、そこには――。

今回は、『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』をはじめ、今日本で一売れている性教育本シリーズの作者であり、「学びのきほん」を創刊当初から読んでくれているというフクチマミさんに、本シリーズの魅力についてお話を伺いました。

マンガ家・イラストレーターとして活躍するフクチマミさん

「待ち時間にちょうどいい」という実感

編集部:
「学びのきほん」シリーズを創刊してしばらく経ったころに、特に印象的だった感想があります。それが、小さい子どもがいるお母さんからの、「習いごとの待ち時間に読むのにちょうどいい」という感想でした。

フクチ:
その感覚、ものすごくリアルですよね。このシリーズはカバーが付いてないし、薄いのでバッグに入りやすい。文字も大きいから、たとえば少し薄暗いスイミングの待合室なんかでも読みやすいんです。
スイミングやピアノの待ち時間って、1時間くらいあることが多いじゃないですか。でも、疲れているから集中力は続かない。かといってスマホを眺めているだけだと、「時間を溶かしてしまった」感じが残るんです。

このシリーズは、バッグからサッと出して、数ページ読むだけで「ちゃんと読書した」という感触が残ります。なので、生活の隙間に、無理なく入り込んでくる感じがある。「読書しなきゃ」じゃなくて、「今なら読めるかも」と思わせてくれるんですね。
 

「スタバのラテ感覚」で買える教養書

編集部:
価格については、できるだけ多くの人に手に取ってもらいたかったので、「安い」ということにかなりこだわっています。

フクチ:
1,000円出してお釣りがくる、というのは本当に大きいです。教養書は、「買うぞ」って気合を入れないと手が伸びないことが多い。でもこの価格だと、「気になるから買ってみようかな」と思えます。考えてみると、スターバックスでラテを頼むのとあまり変わらない感覚で、本が1冊買えるんですよね。「安い」っていうのはすごくいい。

私は一番はじめに、『本の世界をめぐる冒険』を書店で手に取って「あ、かわいい!」と思って買いました。デザインもイラストもかわいいし、紙の手触りや大きさもいいし。そして「安い!」と思って(笑)

最近は分厚い本がちょっと読めなくなってきているというか、コンテンツが多すぎて積み上げているものがいっぱいあって、一つ一つに時間をじっくり割けなくなってきています。そんな中で、この分量で「読み切れる」というのは、すごく達成感があります。

すごく興味があるわけではないけど、知っておくと賢くなれそうというか、それもこの薄さでこの値段なら手を出せる。正直、私は積読でもいいと思っていて、買って読めるタイミングが来たら読もうって感じです。薄いので本棚の幅も取りませんし。
 

 
編集部:
どういったタイミングで読んでいますか?

フクチ:
「あいま」に読んでいます。たとえば、料理をしていて何かを煮込んでいる10分、とか。それこそ習いごとのあいまとか。

 子育てしていると、忙しくて時間が取れないので本をじっくり読めない。だけど学ぶ楽しさにはすごく飢えることがあるんです。実用的な情報はネットにもあるけど、大学の講義みたいな話はすごく遠くなってしまう。そういう、「すぐに役立つわけではないけど面白い知識」みたいなものを摂取したい気持ちがわいてくるときがあって。パワーがある人は子育てしながら大学院に行っちゃう人もいますけど、私にはそんなパワーもない中で、大学の楽しい先生の講義を2時間聞いた気持ちになれる。そんなところが、このシリーズの魅力だと思います。

意味のない学びがしたい

編集部:
一番印象に残っている本はありますか?

フクチ:
『自分ごとの政治学』です。本書で書かれている「保守」と「リベラル」の定義がすごく衝撃的で、自分自身はすごく適当に使っていたんだな、と何度も読み返しました。

なんだろう、このシリーズって「きほん」といいつつ、どうやって著者に企画を持ちかけているのか不思議に思うことがあるんです。かなり著者の色が強く出ていて、その著者ならではの視点が見えるというか、その人の視点を借りられるというか。その研究者はどうその世界を見ているのか、その視点を一瞬借りられる感覚があって。特に最後の第4章あたりでそうした色合いが強くなっていると思います。そういった著者の視点が見えた瞬間、その学問の面白さがグーっと自分の中に入ってくる感じがします。
 

 
このシリーズを読んでいると、水が地面に沁み込んで源流にさかのぼると、ぜんぶが同じところにつながっている、みたいな感覚になるところも面白いです。「あ、ここはあの本とつながっているんだな」と、メタ的な見方を得ることもできる。

あと、巻末についているブックガイドは、学校の先生に教えてもらったあとに「こういう本もあるから、読んでみな」と言ってもらっている感じがします。このシリーズって、著者と読者との距離感が近いというか、「この先生の授業、面白い」みたいな、そういう空気がありますよね。
 

編集部:
どういう人にお勧めしたいですか?

フクチ:
教養の入り口に正面から入るほどのパワーはないけれども、学ぶことには飢えている人でしょうか。学びたいけど、時間はないし疲れてるし……でも2時間だけならアカデミックな空気に浸ってみたい。高校や大学で「あ、この先生の授業おもしろかったな」って、学んだ時の快感を感じたことのある人にはドンピシャじゃないかなと思います。

学ぶことで快感を感じたことのある人って一定数はいて、そうした人たちは、生活スタイルが変わっても「やっぱりまた学びたい」っていう感覚を持っている気がします。だから、学びは「子どもの手が離れてから」とか「仕事がひと段落着いたら」とかではなくて、今でもできるよ、と伝えたいです。

 
編集部:
このシリーズは、女性の読者がかなり多いように感じています。

フクチ:
育児をしていると、自分のことではないことにたくさん時間を使わなきゃならないじゃないですか。子どもが小さいときに私が思ったのは、それで何かになるとかではなくて、意味のない学びをしたいということだったんです。

それで、ある時バレエを習いに行ったことがありました。そこからバレリーナになることは絶対にないんだけど、何か新しいことをインプットして、できなかったことができるようになる体験をしたいと思ったんです。役に立たないかもしれないけれど、何か学びたい。自分だけのために、成果を出さなくてもいい学びをしたい。

このシリーズは、ただただ読んで、知らないことを知って、「あ~、そうなんだ!」っていう体験をしたい人にはすごくちょうどいいシリーズだと思います。いますぐに役に立つようなものではないんだけれど、この種の学びが欲しくなるときってあるじゃないですか。しかも、別にそのジャンルの深いところまで知りたいわけではなくて、入り口のところまででいい。運動することに気持ちよさがあるように、学ぶことで感じる気持ちよさもあって、それを刺激してもらえるためのシリーズだと思います。

編集部:
今後「学びのきほん」シリーズで取り上げてほしいジャンルはありますか?

フクチ:
お金の基本とか、経済系の話とか、あとは性教育です。性教育でいうと、『まじめに語るセックス』みたいな企画はやってみるとおもしろいのでは、と思います。そこに、このシリーズならではの哲学が入ってくるといいな。あとは、法律とか裁判とかは仕組みが全然わからないので、ぜひ読んでみたいです。

編集部:
貴重なお話、ありがとうございました!

『学びのきほん』では、NHK出版の教養書『世界史のリテラシー』『別冊NHK100分de名著』と合同で「2時間で学べる教養」フェアを開催中です(2026年3月31日まで)。

お話を伺った人

フクチマミさん
マンガ家・イラストレーター。「わかりにくいものを、わかりやすく」をモットーに、“実はよくわかっていないこと”を取材し、紐解いて伝えるマンガを多数刊行。

<フクチマミさん公式HP>

※刊行時の情報です