こちらの6つの天体は、すべてハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測データから見つかった特異な天体たちの姿です。


左上の赤く輝くリングは、銀河が銀河を突き抜けるように衝突したことで形成された「環状銀河」。中央下や右下のゆがんだ光の弧は、時空間のゆがみが光の進行方向を変えることで生じる「重力レンズ効果」によるものです。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった特異な天体の一例(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のDavid O’RyanさんとPablo Gómezさんは、AI(人工知能)を使用して、こうした特異な天体を新たに数百個も発見することに成功したとする研究成果を発表しました。二人の成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています。


およそ1億枚の画像をわずか2日半でチェック

銀河は整った楕円形や円盤形をしているものばかりではありません。銀河どうしの重力を介した相互作用で形が乱れたり、重力の影響で像がゆがんで見えたりするものもあります。こうした特異な形態の銀河は、銀河の進化や宇宙の物理法則を知る上で重要な手がかりになります。


とはいえ、この宇宙には数え切れないほどの銀河が存在しています。観測された膨大な銀河の中から特異な銀河を見つけ出すのは、まさに「干し草の山から針を探す」ような、大変な作業でした。


今回、O’RyanさんとGómezさんは「AnomalyMatch」と呼ばれる新しいニューラルネットワークを開発し、HSTが何年もかけて取得してきたアーカイブデータを分析しました。対象となったのは、データから切り出された天体の画像、実に9960万枚です。


人の手作業では数年を要したであろうチェック作業を、AIはわずか2日半で完了し、約1400個の特異な天体の候補がリストアップされました。そのうち811個は、これまで文献に記載されたことがない、新発見の天体であることが判明したのです。


発見された“特異な天体”たち

今回発見された天体には、いくつかの興味深いパターンが含まれています。


まずは「銀河の合体」です。今回見つかった特異な天体の多くは、複数の銀河が接近・衝突し、重力を介して互いの形態をゆがめ合いながら合体しつつある現場を捉えたものでした。


星やガスが長い尾のように引き伸ばされた姿は、銀河が決して不変の存在ではなく、長い宇宙の歴史を通じてダイナミックに変化していくことを物語っています。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった環状銀河(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった、銀河の合体で形成されたとみられる楕円形の銀河(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった、ゆがんだ形態をした複数の銀河(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】

次は「重力レンズ効果」です。重力レンズ効果とは、遠方にある天体から発せられた光の進行方向が、手前にある天体の質量によって時空間がゆがむことで変化し、地球からは像がゆがんだり分裂して見えたりする現象のこと。画像の弧状に光り輝く天体は、重力レンズ効果によってゆがめられた銀河の姿なのです。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった、重力レンズ効果を受けた銀河の像。ゆがんだ遠方銀河の像が手前の銀河の中心近くで弧を描いている(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった、重力レンズ効果を受けた銀河の像。遠方の青い渦巻銀河の像が手前の赤い楕円銀河の質量がもたらす重力によってゆがんでいる(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】

また、「クラゲ銀河」と呼ばれる銀河も含まれていました。クラゲ銀河とは、移動する銀河が銀河団ガスから動圧(ラム圧)を受けて内部のガスを少しずつ剥ぎ取られ、尾を引くような姿になったもので、ガスの尾をクラゲの触手に見立ててこう呼ばれています。クラゲ銀河は星形成のプロセスを理解する上で重要な研究対象になっています。


さらに興味深いことに、検出されたものの中には既存の分類に当てはまらない、いわば「正体不明」の天体も含まれていたといいます。Gómezさんは「素晴らしい結果です。すでに多くの天体が発見済みだと思われていたハッブルのデータから、これほど多くの特異な天体が見つかったのですから」とコメントしています。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータから新たに見つかった、分類不明の銀河。中心部の小さな渦巻構造と、左右に伸びた弧状の構造が特徴(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. O’Ryan, P. Gómez (European Space Agency), M. Zamani (ESA/Hubble))】

AIは未来の天文学を支えるツールになるか

今回の研究で注目すべきは、人間がAIと協調して作業を行ったところにあります。AIが「特異な天体だ」と判断した候補を研究者が確認し、フィードバックを与えて学習させることで、AIはより正確に天体を見分けられるようになりました。


2023年に打ち上げられたESAのEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡や、2025年から観測を開始したベラ・ルービン天文台などが携わる広範囲の宇宙を観測するミッションでは、膨大な量のデータが生成されることになります。


私たちの身近なところでも、仕事やプライベートで生成AIを利用する場面が増えています。今後の天文学でも、未知の天体や現象を発見するための有効なツールとして、AIが用いられるようになるでしょう。今回のような特異な天体の発見が加速すれば、宇宙のさまざまな謎が解き明かされていくことにつながるかもしれません。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


関連記事3つの銀河が引き合う特異な相互作用銀河「Arp 195」溶け合う2つの渦巻銀河 ハッブル宇宙望遠鏡が観測した特異銀河「NGC 3256」渦巻・楕円・重力レンズも ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた“とけい座”の銀河たち参考文献・出典NASA - AI Unlocks Hundreds of Cosmic Anomalies in Hubble ArchiveESA/Hubble - Researchers discover hundreds of cosmic anomalies with help from AIO’Ryan and Gómez - Identifying astrophysical anomalies in 99.6 million source cutouts from the Hubble legacy archive using AnomalyMatch (Astronomy & Astrophysics)