パチンコにのめり込み、義母には暴言、夫と義父を「夫が建てた二世帯住宅」から追い出した妻。耐えかねた夫が離婚訴訟も、家庭裁判所が「認めない」ワケ【ルポ】
厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」」によると、日本では同居20年以上の「熟年離婚」が、統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けているそうです。しかし、離婚は決して簡単ではありません。朝日新聞取材班による著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、「どうしても離婚したい夫」と「どうしても離婚したくない妻」によるドロ沼の離婚劇をみていきましょう。
家を追い出され、離婚も拒絶…“呪いの館”に居座った妻
東京都立川市の住宅街。
2年前に売りに出されたその家は、あとかたもなく取り壊され、跡地に別の住宅が立っていた。
「まるで呪いの館でした」
あるじだった男性(70)は、そう漏らす。足かけ4年を費やし、2度にわたった離婚訴訟。
「離婚はしない。家からも出ていかない」
元妻(74)は、そう主張し続けた。周りの家々より一回り大きく見えたという「館」は、男性の両親の世話もできるから、という元妻の発案で建てた二世帯住宅だった。
ともに40代のときに結婚。子どもはもうけなかったが、元妻は専業主婦のかたわら、男性が営む建設会社を手伝うなど、結婚して10年ほどは穏やかな暮らしが続いた。た。
暗転したのは、50代後半になって元妻がパチンコにのめり込むようになってからだ。
パチンコ仲間との会食やカラオケに時間を使い、家事を顧みなくなった。同居していた男性の母は、元妻にしばしば暴言を吐かれ、息を殺すように暮らしていた。
その母も他界した。耐えきれなくなり、60歳歳を前に離婚を切り出したが、元妻は激怒し、「もう帰ってくるな」と、男性のほうが家を追い出された。
話し合おうにも取りつく島がなく、80代の父と二人でアパート暮らしをするようになった。
結婚生活の継続は困難…離婚調停を申し立てた結果
別居が始まってほどなく、結婚生活の継続は困難だとして、家庭裁判所に離婚調停を申し立てた。
しかし不調に終わり、訴訟へと進んだが、元妻は一貫してモラルハラスメント(精神的な暴力)などは認めず、「離婚したくない」と繰り返した。
別居後も、元妻が住む家の住宅ローン(月15万円)や水道光熱費などは男性が支払っていた。
その上、別居中も配偶者に対して支払う義務がある婚姻費用として毎月15万円ほどを要求された。
離婚が「認められなかった」理由
判決で、離婚は認められなかった。別居期間が2年程度と短く、婚姻関係が破綻しているとは言い難い、というのが主な理由だった。
そこへきて、不幸も重なった。建設現場で起きた事故をきっかけに従業員の退職が続出し、会社をたたむことになった。
知人のつてで事務の仕事に就いたが、収入は激減した。同居の父は自宅に戻ることなく亡くなった。
5年の別居を経て、2度目の訴訟へ
やりきれない思いは、元妻への恨みをいっそう募らせた。反撃の一手として、住宅ローンの返済を停止した。
返済が滞れば、金融機関が家を競売にかけ、元妻も出て行かざるを得なくなると考えた。さらに別居が5年を経過した時点で弁護士を立て、離婚協議を再開した。
一般的に別居が3〜5年続いていれば、訴訟で離婚が認められやすくなる、と聞いたからだ。2度目の訴訟。元妻は離婚を拒み続けたが、裁判官の心証は変わってきたようにみえた。
「家に住み続けたいなら、買い取るなり、賃料を払うなりしないと」と元妻を諭した。
一転、妻が離婚に応じたワケ
決着は意外な形でついた。
訴訟のさなか、家の屋根が壊れ、屋内が水浸しになるトラブルが発生した。多額の修理費がかかることに嫌気がさしたのか、元妻は手のひらを返して離婚に応じてきた。
金融機関の同意を得て家を売り、そのお金で残りの住宅ローンを完済。弁護士費用の約80万円を払うと、預金はほぼ底をついた。ほかに分け合う財産もなく、年金分割の手続きをして離婚が成立した。
男性「離婚のために家も、金もすべて失った。年金で細々と生きていくだけです」
熟年離婚の財産分与は「家」が争点に
高齢な夫婦ほど、妻が専業主婦の世帯は多くなる。総務省の2022年の労働力調査によると、専業主婦世帯の妻の年齢は「55歳以上」が5割強を占めた。
職業経験が乏しい高齢な女性が離婚し、働こうとしても、給料が高い職に就くことは難しい。賃貸物件で暮らすとなれば、家賃負担はさらに重くのしかかる。
そのため、熟年離婚の財産分与をめぐる協議では「家」が争点になるケースが多い。
専業主婦の妻側は離婚後の収入を計算しにくい分、家にこだわる傾向があるという。
弁護士法人ガーディアン法律事務所の園田由佳弁護士は「家を売って現金にして分けるのではなく、そのまま住み続けることを望む女性が少なくない」と話す。
財産分与は「しない」が多数派!? 熟年離婚の実態
財産分与とは、離婚にあたって婚姻期間中に夫婦が築いた「共有財産」を分け合う制度だ。
浮気など非がある側の「有責配偶者」は慰謝料を求められるが、財産分与は非のあるなしに関係なく、原則として半分ずつ分ける。
ただ親から相続した遺産は、夫婦の協力とは無関係に形成された「特有財産」にあたるため原則、財産分与の対象にならない。
財産分与の認知度は必ずしも高くないようだ。法務省が21年、10年以内に離婚を経験した3060代の男女700人に行った調査で、財産分与の取り決めをしたかを尋ねたところ、約6割の人が「取り決めをしていない」と答えた。
その理由として「請求/支払いをする必要がないと思った」が5割超を占め、「相手から話し合いを求められなかった」「制度を知らなかった」と続いた。
分与の対象となる財産は、現金や不動産、退職金や保険金など多岐に及ぶが、完済前の住宅ローンなど「債務(負の財産)」も分け合うことになる。
法務省の調査では、「現金・預貯金」の分与額で最も多かった回答は「100万円〜500万円未満」だった。
[図表]財産分与の取り決めをした人の「現金・預貯金」の分与額出典:『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)
相手が財産を開示しない場合、裁判所から金融機関に照会をかけ、口座などの履歴を取得することもある。
財産分与の請求は離婚後でも可能だが、離婚から2年の期間制限があるため注意が必要だ。
朝日新聞取材班

