社会的に成功した人物はしばしば「いかに並外れた才能をもっているか」という点が取り沙汰されます。個人の認知能力と年収の関係に着目した研究により、ある一定の年収を超えた場合、認知能力が頭打ちになることが分かりました。

plateauing of cognitive ability among top earners | European Sociological Review | Oxford Academic

https://academic.oup.com/esr/advance-article/doi/10.1093/esr/jcac076/7008955

スウェーデンのリンショーピング大学に所属するマーク・キューシュニック氏らは、スウェーデンの統計局から認知能力や賃金、職業上の地位に関するデータを収集し、能力と名声の関連性を調査しました。この調査において、対象者は1991年から2003年の間に何らかの職に就いた18歳から60歳までの67万203人の国民でした。認知能力のスコアは徴兵制の対象となる男性のデータのみ入手可能だったため、対象者は全員男性でした。

スウェーデン人男性は18歳になると兵役に服さなければならず、入隊の歳に身体的・心理的・知的テストを受けます。スコアが低いことは入隊を回避する言い訳にはならないため、キューシュニック氏らは兵役への参加動機がスコアに影響するものとは考えずに調査を実施。対象者の入隊時のスコアと、対象者が労働市場に参入した後の賃金等を比較しました。



その結果から、認知能力の高いスウェーデン人男性は能力の低い他の人よりも多くのお金を稼ぐことが期待できると判明。しかし、最も成績が悪い部類の男性であっても、最も成績が良い部類の男性の3分の1以上は稼いでいるため、実質的な差は大きくないとキューシュニック氏らは述べています。一方で、最も成績が良い部類の男性は収入的に多大なリターンを得ることは期待できないということが分かりました。

高賃金で働く男性の認知能力を調べたところ、ある一定の水準までは認知能力と収入の多さとの関係が見られたものの、賃金が年間60万スウェーデン・クローナ(約750万円)という閾値(いきち)を超えると、認知能力と収入が有意に関連しないということが分かったそうです。このため、ある賃金水準を超えた場合、収入が多いことが必ずしも認知能力が高いということを意味しなくなる可能性があると、キューシュニック氏らは論じています。

また、キャリアの成功の指標として賃金の代わりに職業的地位を用いた場合でも、賃金と同様の結果になったそうです。キューシュニック氏らは「認知能力と賃金の関係は全体として強いものの、賃金が一定水準を超えると認知能力は頭打ちになります。収入上位1%の人々は、一つ下のレベルの所得層よりも認知能力でわずかに悪いスコアを出すことさえあります。認知能力に関しては、並外れた賃金を受け取る上位職の人々が、その半分の賃金しか得ていない人々よりも価値があるという証拠は見いだせません。我々の分析から得られる主な成果は、理論的にも実証的にも、労働市場における2つの階層構造を明らかにしたことです」と述べました。