1988年西ドイツ大会から連続して取材してきたユーロだが、ユーロ2020はコロナの影響で取材を断念していて、国際的なトーナメントを海外で現地取材するのは2018年ロシア大会以来4年半ぶりとなる。日本で観戦する試合とどこが違うかと言えば、スタジアムの観戦環境だ。カタールW杯のスタジアムも、ロシアW杯で使用されたスタジアムも、これまでユーロやチャンピオンズリーグで観戦したスタジアムも、おしなべて視角が急で、眺望に優れていた。

 観戦後の充実感、満足感は、国内で観戦した試合より当然、高くなる。記憶に残る試合もおのずと増える。試合のレベルの問題もあるが、よいスタジアムで観戦する喜びをいま、カタールW杯取材を通して改めて実感している次第だ。

 急傾斜のスタンドからピッチを見下ろしたとき、目に飛び込んでくるのはそれぞれの布陣だ。4-3-3、4-2-3-1、4-4-2など4バック同士の対戦なら、さほど違和感を抱かないが、少数派である3バック(5バック)の場合は目立つ。今大会ではメキシコ、コスタリカ、デンマーク、チュニジア、エクアドル、オランダ、カタール、ウェールズ、セルビア、ガーナなどおよそ10チームが3バックで戦っている。試合の途中から導入する日本のような国もあるが、シェア率に換算すれば全体の3分の1弱になる。

 前回はコスタリカ、ベルギー、イングランドの3チームに過ぎなかった。10%未満だったので、シェア率は3倍以上増えた計算になる。

 それは前回発行のメールマガジン(有料記事)でも記したが、選手交代5人制への移行と深い関係がある。3バックにも様々あるが、多くを占めるのは相手に両サイドを突かれると、5バックに陥りやすい守備的な3バックだ。両サイドに張り出すように構えるウイングハーフは、縦幅105mを1人でカバーするので、潜在的に体力的に不安を抱えている。時間の経過とともに脚色は鈍る。後半30分を過ぎても元気いっぱいに上下動を繰り返す選手はまずいない。大抵は最終ライン付近に取り込まれ、専守防衛を強いられる。背後を取られることを恐れ、文字通りウイングバックと化す。

 しかし90分間、上下動を繰り返すことは難しくても、60分限定ならばハードルは下がる。攻撃的サッカーの代名詞であるプレッシングを行ないながら、一方で、守備的サッカーの代名詞である5バックで後方を固める一員にもなれる。相反する行為を1人でこなすことができるのだ。

 交代枠3人制から5人制に代わった今回は、ウイングバックを交代候補として計算する余裕が生まれたのだ。交代枠3人制の時代には、実現不可能だった命題を、出場時間に制約を加えれば、精神論に頼ることなく合理的に使命をこなすことができる。守備的なスタンスを保ちながら、同時にプレッシングという攻撃性を発揮することができる。5バックになりやすい3バックは、攻撃的とは言えないものの、かつてほど守備的ではなくなっている。

 しかし5バックになりやすい3バックが、最終ラインを常時、高く保つことは難しい。そのトップと最終ラインの間は間延びしやすい。カウンターサッカーならば、その穴は目立ちにくいが、遅攻がメインのサッカーでは、ボールを奪われた瞬間、相手にスペースを与えることになる。スカスカになるので相手に攻め返されやすくなる。1回攻めたら1回守るオープンな撃ち合いに持ち込まれやすい。

 今大会ではオランダが、そうした撃ち返されやすいサッカーに陥っていた。2戦目のエクアドル戦はその典型的な試合で、1-1で引き分けることになった原因そのものだった。

 オランダと言えば攻撃的サッカーの国として知られる。3バックを敷く場合も、最も5バックになりくい攻撃的な3-3-3-1を伝統的に敷いてきた。現オランダ代表監督のルイス・ファンハールはその代表的な人物だったが、2014年ブラジルW杯には、それまでとは180度異なる5バックになりやすい3バックで臨んだ。アリエン・ロッベン、ファンペルシを走らせるカウンター攻撃を最大の拠り所に3位に入った。攻撃的サッカーの看板を下ろすという代償を払いながら。