日産「ノート」の新型が2020年12月に発売された。月間目標の約2.5倍を受注するなど好調だが、購入者の約7割は50代以上だという。モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏は「新型ノートが高齢者の人気を集めるのには2つの理由が考えられる」という――。
新型「ノート」 - 提供=日産自動車

■日産車ナンバー1の根強い人気

現在の日産を代表するモデルといえば、コンパクトカーの「ノート」だ。2012年8月に発売開始となった先代モデルは、翌2013年には年間販売台数で4位につけ、それまでセレナが持っていた「日産車で最も数多く売れるクルマ」の地位を奪取した。

その後も、日産車ナンバー1を守りながら、2016年11月にはハイブリッド・モデル「ノートe-POWER」を追加。販売台数はさらに増え、2017年の国内販売でコンパクトセグメントの1位を獲得。2018年は登録車ナンバー1。2019年もコンパクトカーでナンバー1、登録車として2位を記録。根強い人気をみせていた。

そんなノートがフルモデルチェンジを行った。新型の発売は2020年12月23日。発売1カ月で、月間販売目標の約2.5倍となる2万台を受注。その初期受注で興味深いことが判明した。それが購入者の年齢だ。なんと、ノートの購入者のうち、約7割が50代以上となっているというのだ。

■そもそもクルマ購入者全体が高齢化している

なぜ、ノートのユーザーは、ここまで高齢化しているのだろうか。そこには「高齢者ユーザーのニーズ」と「日産のラインナップ戦略」という大きな2つの理由が挙げられる。順を追って説明していこう。

クルマの購入者の高齢化はノートには限らない。特にトレンドとなっているSUVや、子育て世代に人気のミニバンを除くと、その傾向は顕著だ。さらに歴史が長く、ファンが長く乗り継いできたモデルの高齢化は、どのメーカーにとっても頭の痛い問題である。

ちなみに、2018年よりトヨタがスタートしたクルマのサブスクリプションサービス「KINTO」は若年層へのアピールに熱心だ。CMなどのコミュニケーションに登場するタレントはどれも若い世代だ。実際に「ディーラーに行かなくてよい」「WEBで契約できる」という「KINTO」の手軽さは、若い世代から注目を集めている。これも、ユーザーの高齢化対策のひとつと言える。

■セダンのラインナップが大幅に削減されてきた

一方、高齢者ユーザーのニーズの変化もある。かつては、高齢者にはステータス性の高い大型セダンなどが人気だった。しかし、現在では、ダウンサイジング指向が強まっている。「もう大きなクルマはいらない。使いやすい小さなクルマが欲しい」というわけだ。

その結果、大型セダンどころか、ミドル・セダンも含めて、セダン自体の人気がすっかり下火となってしまった。トヨタをはじめ、多くのメーカーはセダンのラインナップを大幅に削減してしまったのだ。

現在の日産のラインナップを見ると、そうした傾向がはっきりと表れている。現在、販売される日産のセダンは、下からシルフィ、スカイライン、フーガ、シーマの4モデルのみ。かつてあった、ティアナもプリメーラもローレルもセフィーロもなくなってしまった。シルフィはすでに生産終了という報道もある。

さらに日産は、コンパクト系の整理も進めており、キューブもティーダもサニーもパルサーも、すでにない。300万円以下という予算で、SUVとミニバン、軽自動車ではない“普通”の日産車を買いたいとなると、マーチ、ノート、シルフィの3択となってしまうのだ。

こうした現状の日産のラインナップを見れば、ノートに高齢者が集中するのも仕方のないことだろう。これまで数多くのクルマに乗ってきたユーザーからすれば、マーチはさすがにチープ過ぎる。つまり、残ったのがノートというわけだ。

■走りの質感、インテリアの質感が良い

そして、新型ノートは、その内容で、高齢者の熱い視線に応えたのだ。

新型ノートは「高品位」なクルマだ。パワートレインをはじめ、走りの質感、インテリアの質感が良い。

新型ノート デザイン インテリア - 提供=日産自動車

特に日産の「e-POWER」というハイブリッドは、駆動をモーターが担い、エンジンは発電に徹する。この新型ノートからは、新世代となったモーター&インバーター&制御を採用しており、パワフルかつ効率化されただけでなく、走行中の静粛性も驚くほど向上している。電動化が話題となり、ハイブリッドやEVに注目が集まる昨今、モーター駆動という最先端の走りを新型ノートは実現した。ルノーと共同開発する最新のプラットフォームは、直進性など走りのレベルを高めている。

さらに、先進運転支援機能も充実している。日産自慢の運転支援システム「プロパイロット」はナビゲーションとの連携機能を採用。もちろん、前方との衝突被害を軽減する自動ブレーキをはじめ、後方や斜め後ろを警戒する機能、アクセルとブレーキの踏み間違い衝突防止アシストなど「360度セーフティアシスト」と呼ぶ安全サポート機能も備えている。

■高価格帯に絞ったことで、質感の向上を実現

こうした充実の機能や質感のアップの理由は、新型ノートがハイブリッドの「e-POWER」専用車になったことにある。

これまでのノートは、100万円台前半からのガソリン・エンジン車と200万円以上のハイブリッドという2層の価格帯から構成されていた。しかし、ハイブリッド専用となることで、安いガソリン車はなくなった。この決断は、数を販売する上では不利となるが、1台あたりの価格は上昇する。そして価格が高まれば、それだけ開発や生産にコストがかけられることになる。

つまり、新型ノートは、価格帯の低いガソリン車をやめて高価格帯のハイブリッド車に絞ったことで、クルマの骨格から細かい部品まで、コストをかけられるようになり、その結果として質感が向上させられたのだ。新型ノートの内容は、ダウンサイジング指向の目の肥えたユーザーを納得させた。

また、価格帯の上昇は、2020年5月に発表された日産の再建プランとなる日産ネクストに合致する。このプランでは数を追わずに、利益を高めるという方針であったのだ。高価格帯への移行は、ブランドのイメージアップにもつながる。

実際に、発売1カ月後の受注内容を見ると、その84.2%を占めるのが、最も価格の高いXグレードであった。アダプティブLEDヘッドライトやインテリジェント・アラウンドビューモニターといった先進技術のオプションは約7割のユーザーが選んでいる。車両価格だけでなく、オプションの販売状況を見ても、1台あたりの売上額が高まっていることが推測されるのだ。

ノート X ボディカラー ビビッドブルー・スーパーブラック 2トーン - 提供=日産自動車
ノート X 内装色 ブラック2 - 提供=日産自動車

■日産の「数少ない普通の車」となっていた

時代背景と日産の現状、新型モデルの内容を考えれば、新型ノートのユーザーのうち7割が50代以上になったというのも、おかしな話ではない。

日本社会の高齢化が進むにつれ、高齢ユーザーはダウンサイジング指向を強めていく。それに合わせるように、日産はラインナップを整理。ノートは、SUVでもなく、ミニバンでもない、日産の数少ない普通のクルマとなっていた。

そうした中で、高品質&高機能&高価格の新型ノートが登場。静かでパワフルなモーター駆動式のハイブリッドと、高安全性と快適性を提供する先進運転支援システムを搭載する新型ノートは、目の肥えた高齢ユーザーの目にも、納得の内容となった。

■NISMO仕様車が投入されるのではないか

とはいえ、日産が高齢者を獲得して終わりと考えているはずはない。なんといっても先代ノートは、日産の歴史に残る「登録車ナンバー1(2018年)」の偉業を達成したモデルなのだ。2020年2月の販売ランキングは、日産車トップとはいえ、全体の7位に留まる。再生プランの日産ネクストは“数を追わない”という方針を掲げているが、少しでも上位に行きたいのが本音のはずだ。

そこで予想できるのが、スポーティ・バージョンとなるNISMO仕様車だ。過去のノートにも、販売のカンフル剤としてスポーティなNISMO仕様が投入されている。新型ノートに、スポーティという新たな魅力をプラスすることで、より若い世代や、ホットな走りを求める新たなユーザーを獲得することが狙いだ。

先代のノートも、モデルライフ中期になってハイブリッドを追加して、販売を大きく伸ばした。新世代のノートも、先代と同様に長いモデルライフが予想される。ノートの進化と戦いは、まだまだ続くだろう。

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鈴木 ケンイチ(すずき・けんいち)
モータージャーナリスト
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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(モータージャーナリスト 鈴木 ケンイチ)