現役生活を南米で過ごしてきた亘崇詞氏(左)。ガブリエル・バティストゥータ氏(中央)、ボラ・ミルティノビッチ氏(右)との1枚【写真:本人提供】

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【亘崇詞の“アルゼンチン流”サッカー論|第4回】中国女子チームに指相撲を駆使して説いた現代サッカーの概念

 アルゼンチンやペルーなど長く現役生活を南米で過ごしてきた亘崇詞は、東京ヴェルディの指導現場に立ってみて言語化が整理されていることに感心した。

「もともとヴェルディは、読売クラブ時代に(与那城)ジョージさんやラモス(瑠偉)さんたちが南米の良いものを持ち込み、日本人なりに解釈して形にしてきた歴史があると思うんです。だから当時お世話になった川勝(良一)さん、都並(敏史)さん、松田(岳夫=現福島ユナイテッド監督)さんなどが話す言葉を聞いていて、南米で感覚的に分かっていたことが『なるほど日本語ではこう話せば伝わるんだ』という発見が多々ありました」

 例えば「剥がす」と「かわす」では、まったく意味が違う。

「剥がす、というのは、ずらすとも違うし、かわすだけの動作でもなく、決して逃げではありません。引いてブロックを作った相手に対しドリブルやパスで背後を奪い崩すと、カバーリングをするために次の1枚(選手)が出てくる。だから“剥がす”なんですよね」

 2015年には中国女子2部の広州女足の監督に就任。5面の天然芝のピッチを備え環境には恵まれていたが、ボールを繋いだり、相手を崩して攻める概念がまったくなかったという。

「最初はボールの持ち方から修正しようとしたら、クラブの役員から物凄く文句を言われました」

 そんな時に亘は指相撲を駆使して導く。

「無理やり力づくで相手の指を押さえに行くのが、昔のパワープレーやキック&ラッシュです。一方敢えて相手の仕掛けを誘発する。例えば相手の人差し指をくすぐるように牽制すると、向こうも攻めてきますよね。こうして意図的におびき出して親指を押さえ込む。相手が引いているならドリブルやパスで揺さぶってセンターバックを引き出せば、組織を崩せるわけです。これが現代サッカーだと伝えてきました」

 当時中国女子代表を率いていたのがフランス人の監督だったが、亘が指導する広州女足でしっかりとボールを繋ぐスタイルを導入しているのを聞きつけ、リオデジャネイロ五輪予選直前に練習試合にやってきた。当然狙いは「日本対策」だった。亘は広州女足の主将で、中国代表として五輪予選へ向かうタン・ルーインに言った。

「日本に勝つなんてまだ10年早いぞ! 思い切って良い経験をしてきなさい。きっと勉強になる。それに大阪には美味しいものがいっぱいあるから」

 だが結果は中国が五輪出場権を獲得し、逆に日本はまさかの敗戦。広州女足からも2人の選手がリオ五輪に出場し、最初は不平を漏らしていた役員の態度も一変したそうだ。

“世界のトレンド”は学ぶが、疑いもなく取り入れるのは危険

 岡山にやってきた時も「相手にボールを持たせて、奪ったらだいたいのイメージでスペースへ蹴りセカンドボールを拾う。そんなリアクションが多かった」という。亘は考えた。

「もちろんそのサッカーも悪いわけではない。でも世界にも日本にもいろんなサッカーがある。リアクションだけではなく、アクションもできなければならない。それに監督の指示だけではなく、選手たちが相手を見て考えることは絶対に必要だ。それなしには、この先サッカーで食べてはいけない」

 少しずつでも意図的にボールを繋ぐテーマを軸に、丹念な指導を続けた。

「最初はカウンターを狙える局面でも、敢えて遅攻にこだわりました。前に運べるのに、再度アンカーやセンターバックに戻してやり直し。崩し方を教えたかったからです」

 敢えてトレンドを追わない。それが亘のモットーだ。世界の流れは学ぶ。ただし疑いもなくそれを取り入れるのは危険だ。

「(フィリップ・)トルシエ監督が日本代表にフラットスリーを導入した頃の話です。まだ代表でも完成していないのに、河川敷で行われている中学生の試合で監督が3バックを無防備に採用していた。選手たちは、ボールや相手よりベンチの監督の顔色を窺いながらプレーしている残念な光景を見ました。最近もバルセロナが常勝すればパス回しの流れが押し寄せ、今度はリバプールが前線からプレッシャーをかけ縦に速いショートカウンターで勝ち始めればそちらになびく」

 でも“それって本当に必要なのかな……?”と、いつも亘は自分に問いかけている。

「確かにこれまでは日本サッカーも経済も世界を勉強して真似することで成長してきました。でもトレンドは、真似して取り入れる頃には過ぎ去っているんです」

 アルゼンチンでは、こんな話を聞いた。

「その昔、アルゼンチン人はいち早くオフサイドトラップを考案しました。ところがそれを欧州勢が駆使してくると、今度は相手に体をぶつけてラインを上げさせないようにする“オフサイドトラップ破り”を編み出した人がいたそうです」

正解を追うのではなく、状況に応じて正解を探し出せる選手が理想

 つまり指導法も育成法も答えは一つではない。ボカ・ジュニオルスを指揮して世界一に輝いたカルロス・ビアンチは言っていた。

「コンパクトな陣形を保てている間はレアル・マドリードの時間帯。でも敢えて間延びさせてしまえばボカの時間帯になる」

 結局ボカは、流行とは真逆の方法でタイトルを奪取した。正解に固執するのではなく、常に判断に余白を設ける。そこが肝だと、亘は思う。

「トレンドを逆撫でするように、ウチはこれでいいじゃん、と言い切れるチーム、あるいはそんな選手を作っていくことが大切だと思うんです」

 正解を追うのではなく、状況に応じて正解を探し出せる選手――。それがおそらく亘が描く「食べていける」プレーヤーの定義だ。(文中敬称略)(加部 究 / Kiwamu Kabe)