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ラスヴェガスで今年1月に開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、各メーカーのスペックシートに新たに「Wi-Fi 6対応」という表記が見られるようになった。HP、デル、ASUSといったメーカーの新しいノートパソコンやルーターは、すべてこの新規格に対応することになる。

また、サムスンが2月に新型スマートフォン「Galaxy S10」を発表した際にも、さまざまな新機能にWi-Fi 6対応も含まれていた。それ以来、フラッグシップ端末はWi-Fi 6対応が主流になりつつある。

どのメーカーも、こぞってサポートしようとしているこの新規格。そもそも、いったい何なのだろうか?

デヴァイスで“混雑”した時代のWi-Fi

Wi-Fi 6は、無線接続の主要技術であるWi-Fiの最新世代となる。このため端末メーカーは今年に入ってから、先取りするかたちでデヴァイスをWi-Fi 6対応にしている。

新しい規格が出てくるときの決まり文句だが、Wi-Fi 6によってわれわれのテクノロジー生活は、これまでより素晴らしくて高速になるだろうと言われている。それは本当だろう。

だが心に留めておきたいのは、Wi-Fi 6の主な目的はネットワークレヴェルでの性能と信頼性を高めることにある。端末やアクセスポイントそのものに焦点が当てられているわけではないのだ。

もちろん、ストリーミング端末「Roku」や家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」のワイヤレス接続スピードは増すだろう。だが、Wi-Fi 6の技術的なメリットの多くは、複数の端末へのストリーミング性能を向上させる点にある。つまり、モバイル端末やIoT端末をはじめとする、ワイヤレス接続された機器で混雑した世界のための新しいWi-Fiなのだ。

Wi-Fiの新しいブランド展開

Wi-Fi規格は標準化団体のIEEEが策定しており、この規格に対応した機器は業界団体のWi-Fiアライアンスによって認定される。このアライアンスにはスポンサーやコントリビューターとして、アップルやマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、インテル、クアルコム、ブロードコム、サムスン、LGエレクトロニクスを含む800以上の企業がリストされている。

これらの団体は、だいたい5年おきに新しい無線通信規格を打ち出している。つまりWi-Fi 6は、2014年に現行の規格がリリースされたときから開発が続けられてきたわけだ。ちなみに、現行規格は「IEEE 802.11ac」と表記されている。新規格の正式な表記は「IEEE 802.11ax」だが、単に「Wi-Fi 6」と呼ぶこともできる。

Wi-Fi 6という略称の登場は、Wi-FiアライアンスがWi-Fi規格のブランド戦略を変えたことを意味する。今後すべてのWi-Fi規格には順番に名前が付けられるのだ。実際に「802.11ax」より「Wi-Fi 6」のほうがはるかに呼びやすいので、これはよいことだろう。

Wi-Fi 6でパラダイムシフトを起こすことに決めました」と、Wi-Fiアライアンスのプレジデント兼最高経営責任者(CEO)のエドガー・フィゲロアは語る。「技術的な話は終わり、現在は“世代”の扱いについて話し合っているのです」

つまり「Wi-Fi 6」という言葉は、どのヴァージョンのWi-Fiネットワークに接続しているのかを示すために、より広く利用されることになる。「Wi-Fi 4」「Wi-Fi 5」といった表記も同様だ。これに対して端末メーカーは、「Wi-Fi CERTIFIED 6」と呼ばれる認定プログラムをパスしなければならない。

安定性とスループットの向上が特徴

Wi-Fi 6は、2009年の「802.11n」の登場以来、デュアルバンド同時接続に対応した初の主要なアップデートとなる。

今後は「Wi-Fi 4」と呼ばれる802.11nは、2.4GHzと5GHzの周波数帯に対応していた。現行のWi-Fi 5(802.11ac)は、5GHzの周波数帯のみを使用する。これに対してWi-Fi 6(802.11ax)は、2.4GHzと5GHzの両帯域に最適化される。主な機能はマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)と、直交周波数分割多元接続(OFDMA)のふたつだ。

つまり、どういうことなのか?

基本的にはこの技術によって、同じWi-Fiチャンネルで同時により多くの端末を扱えるようになる。同時にワイヤレスネットワークの効率性やレイテンシー(遅延)、データのスループット(一定時間あたりのデータ転送能力)が改善される。

Wi-Fi 6はWi-Fiネットワーク全体の性能を向上させる技術だが、ユーザーの端末側でも速度とスループットが従来規格と比べて最大4倍になる可能性がある。Wi-Fiアライアンスのフィゲロアによると、最適な条件下ではデータのスループットが9〜10Gbpsになるという。

フィゲロアによると、Wi-Fiが届く100mほどの範囲のギリギリの位置で使われる端末も、ある程度はWi-Fiに接続できるという。こうした端に位置する端末の存在をネットワーク側が検知して、より強い信号を送る仕組みになっているからだ。

この接続性能は、一度に最大12ストリームに対応する「スケジューリング」という技術に裏打ちされている。同じネットワークに多数の端末が接続されても、強力な接続を維持できるわけだ。また認定プログラムの一環として、Wi-Fi 6対応を謳うあらゆる技術は、より個別化された暗号化を利用できるセキュリティ規格「WPA3」のサポートが求められる。

後方互換性への懸念もあるかもしれないが、安心してほしい。手元にある古い端末がWi-Fi 6認定を受けた製品でなくても、Wi-Fi 6のルーターには接続できる。認定された端末ほど最適化されないかもしれない、というだけだ。

サムスンの新しいスマートフォンのようにWi-Fi 6に対応した端末なら、どのタイプのWi-Fiに接続しているのか知ることができるのも利点だ。画面の上にある見慣れたWi-Fiアイコンに、4、5、または6という数字が添えられることになる。

本格展開は来年以降

Wi-Fi規格はそれほど頻繁にはアップデートされないので、Wi-Fi 6が公式に開始されることは非常に意義深い。そしてWi-Fiアライアンスの認定プログラムの開始は、Wi-Fi 6の普及に向けた転換点になるだろう。

だが繰り返すが、Wi-Fi 6そのものはまだ登場していない。メーカーがWi-Fi 6に対応したチップセットを本格的に採用するのは、おそらく2020年になるだろう。それにWi-Fi 6が登場してから恩恵をフルに受けるには、ユーザー側の端末とWi-Fiルーターの双方がWi-Fi 6で接続される必要がある。

これまでにWi-Fi 6対応を謳っている製品としては、Wi-FiルーターはASUSの「RT-AX88U」、ネットギアの「Nighthawk AX12」、TP-Linkの「Archer AX 6000」が発表されている。端末はHPのノートパソコン「EliteBook x360 830 G6」、デルのノートパソコン「Latitude」(7000、5000、3000シリーズ)、そしてサムスンのスマートフォン「Galaxy S10」と「Galaxy Note10」などがWi-Fi 6対応となっている。これから対応デヴァイスは、さらに増えていくことだろう。

ガジェットで満たされた“未来”へ

コストが高くなることも考慮しなければならない。すでにサムスンのハイスペックなスマートフォンは高額であり、HPのEliteBookは1,500ドル(約16万円)以上になるかもしれない。そしてルーターは、ASUSとネットギアの新しいWi-Fi 6ルーターが350〜400ドル(約37,800〜43,200円)と、昨年のモデルよりはるかに高額だ。

それでも、この新しいWi-Fi規格が利用できるようになれば接続スピードが速くなり、自宅でもオフィスでも、コーヒーショップでも、駅でも、たくさんのIoTガジェットを同時接続できるようになる。しかもバッテリーの持続時間が長くなるといったメリットも見込める。

これで世界がガジェットで満たされた“未来”へと一歩近づいた。こうした未来が理想的であると聞こえれば…の話ではあるが。