“声出しだけの新入生”がいない 日本とは大きく違う、米国の部活制度と上下関係
新連載「Sports From USA」―日本は入学シーズン、米国の部活の上下関係は?
東京五輪を翌年に控え、指導者のパワハラ、高校野球の球数制限など、スポーツの在り方を見つめ直す機運が高まっている日本。「THE ANSWER」は在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の新連載「Sports From USA」をスタート。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。第1回は「米国の部活の上下関係」について。
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日本では新年度を迎えた。中学校や高校に入学し、運動部に入部することを楽しみにしている子どももいることだろう。練習は厳しいのだろうか。先輩、後輩の上下関係があるのか。新入生でも試合に出られるのだろうか。そのような疑問や不安もあるのではないか。
米国にも中学校や高校には運動部がある。新年度が始まる8月下旬や9月になると、日本の中高生と同じように、そわそわ、わくわくしながら新しい運動部のシーズンを迎える。
米国でも、日本の運動部でみられるような先輩・後輩の上下関係はあるのだろうか。
日米の運動部では大きな違いがある。米国の運動部は、たとえ公立校であっても希望者全員を入部させることはない。トライアウト(入部テスト)をパスしなければ、部員にはなれない。ベンチ入りできない選手を多く抱えることはしないためだ。だから、集団種目では、部員数はおおよそベンチ入り人数になる。
中学校や高校の運動部は1軍に当たる「バーシティー」、2軍にあたる「ジュニア・バーシティー」という2チームに分かれていることが多い。生徒数の多い学校で、なおかつ、指導してくれるコーチを配置できる学校の運動部ならば、3軍チームまである。1軍、2軍、場合によっては3軍の振り分けも、トライアウト時に行われる。同じ学校の同じ運動部であっても、1軍と2軍は、全く別のチーム。それぞれにコーチがおり、練習時間、公式戦も一緒には行わない。
だから、米国では新入生は声を出しているだけで練習に参加できないということはない。練習に参加できない生徒はトライアウトではじかれる。トライアウトをパスすれば部員になり、練習にも参加し、ほとんどの選手が、何らかの形で試合に出場する。スタンドで応援するだけの部員はいない。全くいないわけではないが、ほとんどいない。
新入生にとっての難関はトライアウトだ。もしも、部員になれなかった場合には、次のシーズンまでに個人で練習を積んで、挑戦しなければいけない。中距離走のクロスカントリー部など、多くの部員が一度に練習し、レースにも出場できる競技では、トライアウトを課していないこともある。トライアウトにパスできないときには、トライアウトのない運動部を選ぶか、学校外のチームを探すか、帰宅部になるか。いくら特定の運動部に入りたくても、運動能力が低い、未経験者というだけで、入部できず、悔しい思いをしている子どもはたくさんいる。
新人いじめはもう昔? 「ルーキー・ヘイジング」は禁止傾向に
前述したように米国の運動部は1軍、2軍に振り分けられるので、どちらかといえば1軍には上級生が多く、2軍には下級生が多くなる。新入生や下級生に、ボール拾い、練習道具の片づけを任せようとしても、1軍には新入生が1人もいない、ということもあり得る。
だからといって、米国の運動部には上下関係が全くないわけではない。1軍でも、そのチームの中での下級生たちが、練習や試合終了後に片付けをしている。
これは、メジャーリーグでも同じことだ。昨年、オリックスから平野佳寿投手がダイヤモンドバックスに移籍した。日本では抑え投手として実績のあるベテランは34歳になっていたが、メジャーでは1年目。だから、中継ぎ投手陣の練習時にはボールの入ったバックを持ち運ぶという仕事があった。
また、これまで多くの日本人メジャーリーガーが「ルーキー・ヘイジング」と呼ばれる新人通過儀礼で周囲を楽しませてきたことを記憶している人も多いだろう。新人選手は、先輩選手が用意した衣装を着なければいけない。2016年にはドジャースの前田投手がチアリーダーに扮した。
しかし、メジャーリーグ機構は、選手に女装を強要すること、人種、国籍、性的指向、その他の特徴を強調する衣装を強制的に着用させることを禁止した。選手へのいじめであるとみなしたからだ。
「ルーキー・ヘイジング」は米国の学校運動部にもあった。1990年代の調査では米国の大学運動部員の80%が「ルーキー・ヘイジング」を経験しており、そのうちの42%は高校の運動部でも経験していたことが分かった。新人の通過儀礼を大義名分に、いじめが行われていたケースもあった。
メジャーリーグに先立って、米国の運動部も新人通過儀礼やいじめを以前よりも厳しく禁止するようになった。米国の運動部には上下関係が全くないわけではない。しかし、新人いじめやしごきは、学校側が禁止し、生徒たちの意識の変化もあって、前の時代のものになってきているようだ。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)
谷口 輝世子
デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。
