ホテルの客室に備え付けてある電気ケトル。まったく利用しない宿泊客もいるかもしれないが、部屋で湯を沸かして、お茶やコーヒーを淹れられるようになっている。

そんなケトルで、カニを茹でて食べたところ、ホテル側から損害賠償を請求された――。そんな一風変わったトラブル相談が寄せられている。

●「ニオイがとれず、部屋を貸せなかった」

数日間の滞在のうち2度、ケトルでカニを茹でて食べたという宿泊客。その後、ホテルからニオイがとれず、部屋を貸せなかったとして、損害賠償4万円を請求された。

「毎日予約が満室というわけではないはず」と交渉したところ、あらためて消臭業者を入れた代金1万7000円とケトル代5000円を求められたという。

カニを茹でている最中は、空気清浄機も回していたといい、ケトルの使用禁止事項も書かれていなかったとして、宿泊客は不満気味の様子だ。

はたして、ホテル備え付けのケトルをこのように利用をした場合、損害賠償を支払わないといけないのだろうか。寺林智栄弁護士に聞いた。

●ケトルの通常の使用方法は「お湯を沸かすこと」

――ホテルのケトルでカニを茹でた場合、損害賠償を支払わないといけないのでしょうか。

ホテルの宿泊客には、ホテル側に損害を与えないよう注意すべき義務が、契約上課されることになります。この義務に違反して、ホテル側に損害を与えた場合、宿泊客は損害賠償責任を負うこととなります。

そして、ケトルの通常の使用方法は「お湯を沸かすこと」です。これは通常の判断能力を持つ一般の人であれば、誰しもわかることです。

そうであれば、通常の使用方法に反して、ケトルでカニを茹で、これによって部屋を貸せないという損害が発生したのであれば、この宿泊客は、契約上の義務に反したといえるので、部屋代を請求されてもやむを得ないと思われます。

そして、宿泊客がカニを茹でたことにより、ケトルにもニオイが移り、交換すべき必要が生じたのであれば、ケトル代を損害賠償として請求されることもやむを得ません。

宿泊客は、カニを茹でることが使用禁止事項に書かれていなかったと不満を述べているようですが、先にも述べている通り、ケトルの通常使用方法が「お湯を沸かすこと」であることは通常の判断能力を持つ一般人であればわかることです。したがって、この点は請求を回避できる理由にはなりません。

――もし部屋のニオイがとれなくなった場合、消臭業者の代金を支払わないといけないのでしょうか。

損害賠償の範囲には、契約違反行為との間に相当な因果関係のあるものが含まれます。

部屋からニオイが取れなくなったためにホテル側が消臭業者に依頼せざるを得なくなったのであれば、その代金は、今回の宿泊客の契約違反行為との間に相当な因果関係がある損害ということになります。ですので、損害の範囲に含まれ、宿泊客は、消臭業者の代金を支払わなければなりません。

【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。東京弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)を経て、2014年10月開業。2018年11月から弁護士法人北千住パブリック法律事務所(東京都足立区千住)。刑事事件、離婚事件、不当請求事件などを得意としています。
事務所名:北千住パブリック法律事務所
事務所URL:http://www.kp-law.jp/