物足りない結果に終わったフッキ。ブラジル敗退の要因のひとつだ(写真/フォート・キシモト)

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 この衝撃を表現する言葉が、僕には見つからない。日本代表のグループステージ敗退とは違う意味で、パソコンのキーボードを弾けない。

 2014年7月8日に行われたブラジル対ドイツのブラジルW杯準決勝を、5年後、10年後、ブラジル人はどのように振り返るのだろう。

 悲劇ではない。1対7というスコアは、両チームの実力差をそのまま映し出したものだ。ドイツのGKノイヤーは、この日も決定機を阻止した。とはいえ、彼がいなくてもブラジルが8点を取ることはできなかった。開催国の敗退は必然だった。

 ドイツが素晴らしかったのは間違いない。

 停滞感のあった準々決勝のフランス戦を反省材料に、序盤から引き締まったゲームを展開した。「自分たちのサッカー」とかけ離れたゲームを、2試合続けないのは世界のトップ・オブ・トップならではの強みである。

 ネイマールチアゴ・シウバが出場していたら、結果は違っていたか?

 拮抗した展開にはなっただろう。スピードとアジリティを兼備するネイマールがいれば、ドイツの守備陣にかなりのストレスを与えられたはすだ。彼へのファウルが繰り返されれば、警告や退場のリスクも高まる。それによってまた、ネイマールの存在感が強まる。

 とはいえ、結果は変わらなかったはずだ。最終ライン全体がこれほどあっさりと揺さぶられたら、チアゴ・シウバがいたところでどうにもならない。

 攻撃では「7」と「9」の不振が、指揮官スコラーリを苦しめた。フッキとフレッジだ。

 メキシコ戦を除く5試合に先発したフッキは、得点もアシストもないまま大会を終えた。馬力のある突破力が生かされた場面は、ほとんどなかったと言っていい。2列目のプレーヤーとしては、明らかに物足りなかった。

 ドイツとの準決勝では、左サイドからスタートした。ネイマール不在の影響だが、スコラーリにはもうひとつ狙いがあったはずだ。対面するラームの攻撃力を封じるためである。サイドの刺し合いで背番号7が主導権を握れば、ドイツの攻撃力をパワーダウンさせられる。

 しかし、指揮官の思惑は空転する。右サイドを起点に失点を重ね、フッキは前半だけでピッチを去った。

 フレッジの不振も深刻だった。6試合に先発してわずか1ゴールは、ストライカーとして明らかに失格だ。1986年以降のW杯に出場したカレッカ、ロマーリオ、ロナウド、ルイス・ファビアーノは、2試合に1点以上のペースで得点をあげている。90年大会のカレッカは2ゴールにとどまったが、ブラジルは大会4試合目の決勝トーナメント1回戦で姿を消した。最低限のノルマは達成している。

 黄金の中盤を擁した82年大会で、攻撃陣で唯一のネックとなったセルジーニョでも、5試合で2得点をあげている。ドイツ戦の途中からフレッジにブーイングが浴びせられたのも、避けがたいものだっただろう。

 それにしても、である。

 世界で唯一第1回大会から連続出場し、最多5度の優勝を誇るサッカー王国のプライドは、2014年7月8日に粉々に砕かれた。世界の1・5流や2流の国が、大敗を喫するのはわけが違う。

 ブラジルだ。
 開催国だ!
 準決勝だ!!

 偉大なる先達たちが築きあげてきた歴史も、伝統も、畏怖の念を抱かせるカナリア色のユニフォームの〈見えざる力〉も、すべてが吹き飛んでしまったに等しい。許されざる大敗であり、決して忘れることのできない惨劇である。
 
 セレソン・ブラジレイラことブラジル代表は、これからどのようにチームを再建していくのか。ワールドカップの狂熱は急速に冷め、サッカー王国は重すぎる課題を突きつけられた。