連載「ふくびと」mintdesigns デザイナー勝井北斗&八木奈央
「mintdesigns(ミントデザインズ)」を手がけるデザイナーデュオ勝井北斗氏と八木奈央氏が、2010年度「第28回毎日ファッション大賞」において見事大賞に輝いた。ブランド創立から9年。ファッションをプロダクトデザインとして捉える「ミントデザインズ」独自の創作活動は、ポップでありながら精巧なテキスタイルやフォルム、ファンタジックな世界観に現れ、唯一の存在感を放っている。
そんな2人のルーツや独特なデザインプロセス、ブランドとして目指す姿やヴィジョンとは?2011年春夏の新作コレクション発表を控えたアトリエにて、勝井氏と八木氏に「ミントデザインズ」の全てを語ってもらった。
■八木奈央のルーツ
八木:デザインされているものやアートなど、漠然とそういったものが好きでした。その中でも洋服が一番自分の中で身近な存在だったんです。
高校生の時、ただ何か新しいものを見たいという思いでイギリスへ留学しました。一旦日本に帰国して大学に入ったんですが、美術芸術学を専攻して将来的にはキュレーターや美術評論家になるのが目標でした。でも、仕事として考えた時になんだかしっくりこなくて、自分が作る側にいた方が自然に感じたんです。そして2回目の留学でイギリスのセントマーチンズ(ロンドンの名門校 セントラル・セントマーチンズ・カレッジ オブ アート アンド デザイン)へ。その時にはもうはっきりと「いずれ自分のブランドをやりたい」という意志がありました。ちょうどその当時、フセイン・チャラヤンやアレキサンダー・マックィーンが活躍し始めた頃。街として見ても、モダンアートがすごく勢いが出てきて、単にファッションだけではない、デザインそのものが魅力的で面白かった時でした。
■勝井北斗のルーツ
勝井:僕も元々はアート関係やデザインのほうに進みたいと思っていて、美大に行くかどうかと悩んでいました。たまたまイギリスのセントマーチンズの卒業コレクションを目にする機会があって、その時に刺激を受けたのを憶えています。でも、海外の美大でテキスタイルやファッションを学びたくてアメリカ・NYのパーソンズ大学(パーソンズスクールオブデザインニューヨーク)へ。専攻はウーマンズウェアでしたが、ちょうど90年代中頃はロンドンが面白い時で、アメリカでもフィーチャーされていていたので気になり始めて。それで元々興味のあったセントマーチンズに編入しました。自分は自由なタイプなので、自由放任といった校風のセントマーチンズの方が合っていたんだと思います。
イギリスでは見るモノ全てが刺激的でした。八木と同じウーマンズウェア科で同学年だったんですが、僕は平面的にファッションを表現するテキスタイルにも興味があって。プリントなども面白くて、それでファッションプリント科にスイッチ。でもそれぞれの科で使える設備が違ったので、僕と八木はそれぞれの教室を頻繁に行き来して作品を制作していました。
八木:伸びるも伸びないも本人次第というか、セントマーチンズには手取り足取り教えるというシステムや縛りがない学校でしたね。辛いとか厳しいとか感じたことはなくて、その放任主義な感じが自分に合っていてすごく楽しかった。唯一「シビアだな」と感じたのは、日本みたいに就職活動のサポートとかそんなの無いんです。卒業制作でショーを開いて有名なデザイナーやジャーナリストも来るんですが、基本的には自分であたっていくしかない。インターンもたくさん経験しました。
■八木と勝井、はじめて共同で作った作品は
八木:セントマーチンズでは、卒業コレクションのスポンサーの為のコレクションを1学年下の学生が開くというのが恒例なんですが、私達の時のスポンサーはディズニーでした。その課題で一緒に制作したのが、たぶん初めてだったと思います。
勝井:他の学生はミッキーの耳がついていたりとか、割とわかりやすいディズニー作品を作っていたんですが、僕らはどちらかというと抽象的でした。シルエットで描く色面構成で表現したくて生地から作ったんです。加工に近いんですが、芯地に赤とか黄色などのガーゼを乗せて、それに熱をあててぐーっと伸ばしていくことによってモワレ模様ができるんですよ。それを洋服に仕立てたのが最初ですね。その頃からそういった色面構成に興味があってデザインしていました。
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(左から)04S/S"printing project"、05S/S"tri-combian project"、05-06A/W"moving in a square"、06S/S"3D lace project"
■ミントデザインズ誕生へ
八木:私が帰国した時、先に帰国していた勝井からの「ブランドを一緒にやらないか」という電話が始まりでした。最初は迷って、「じゃあちょっとやってみよう」くらいの軽い気持ちでスタートしました。
ブランド名を考える時、アメリカのアップル社のデザインに特化した感じやシンプルなネーミングだったり、フリーな感じがすごくいいね、という会話をしたのを覚えています。とにかく誰でもすっと覚えれるような名前で、もっと深く説明すると"ミント"という言葉には実は"希少価値のある"という意味が含まれている。入り口としてはものすごくシンプルで、ポップで簡単だけれど、ただそれだけじゃなくて深い意味もあるというブランド名にしたかった。そうして「ミントデザインズ」が生まれました。
デザインに関しては、立ち上げ当初から2人でやっています。私は、こういう洋服のデザインだからこういうテキスタイル、こういう柄や色がいい、と思えないと面白くないというタイプ。勝井の方は、いわゆるテキスタイル・アートといったように生地を生地としてデザインするというよりは、洋服としての生地の在り方を考えたいタイプなんですね。そういう考えが似ていたので明確に役割分担がなくて、たぶんそれが「ミントデザインズ」らしい空気感になっているのかなと思います。
■ミントデザインズらしさとは?変わらない理念
勝井:特にテキスタイルに特徴が出ていると思います。例えば、本来だったら柄をパターン化するところを余白を残して大柄を描いたり。普通だったら生産上ロスになってしまうような構図ですね。
八木:この形だからこの構図がいい。余白はここに持ってきたい。その行程にこだわることが、実はうちの中で重要な段階。なので柄単体ではなくて、形があって初めて成り立つデザインです。
心がけているのは、 一生懸命に打ち込み過ぎると作り手の目線だけになってしまうんですよね。自分の頑張ったっていう思いを込め過ぎると客観的に見れなくなります。実際に手に取るお客さんというのはその行程を見ているわけではないし、そこを買ってるわけでもないんですよね。自分の生活を豊かにするためのものとして、素敵かどうかっていう尺度だと思うんです。お客さんの立場からすれば、パッと見た時の印象だったり、実際に着た時の感じだったりが本当に良いかどうか。そういう客観的な気持ちのバランスに常に立てるようにしておかないといけません。その上で「もっと知りたい」という人がいたら、コンセプトであったり作り手の思いであったりとか、色んなものを読み解いていってもらえれば。
私たちは、どちらかというと日常生活の中で使ってもらいたいと思っています。モードコンシャスという人ではなくて、デザインコンシャスな人に対して好かれる、愛される服を目指しています。洋服を衣服というプロダクトのひとつとしてデザインしていく。これは、いちばん最初にブランドを立ち上げた時から勝井と私が共通して持ってる理念です。
次のページは、景観丸ごとデザインするファッションショーの魅力
(左から)06-07A/W"composing project"、07S/S"dame ni ikiru"、07-08A/W "MIDNIGHT BOOK CLUB"、08S/S"The Flying Girls 1808"
■ファッションショーの特殊な魅力
勝井:ブランドを立ち上げて最初のコレクションはギャラリーで展示会を開きました。2シーズン目からショー形式になるんですが、最初のショーは原宿の「オジヤンカフェ」、2回目のショーは閉店前の原宿「オーバカナル」、それから六本木ヒルズの建つ前の場所や、月島の倉庫とか。 どこも日常生活にある場所です。
八木:街の中の空間でその時々のコレクションに合う場所を探して、発表の場を決めています。私たちのコレクションはランドスケープデザインに近いというか、その洋服がその空間を彩るひとつの要素としてよく見えて欲しいという思いがあります。
同じ色や形でも、見る場所や空気、湿度とか色々なもので変わってくることがありますよね。その瞬間の空気感というのは、場所や音楽、それにひょっとしたら見に来る人もショーの空間を作り出すひとつの要素であると思うし、そのライブ感に特殊な魅力を感じています。同じショーは2度と出来ないんです。
■続けることが原動力
八木:1回だけのすごいクリエイションとかショーを作るのではなくて、ずっと続けていくことがブランドとしての原動力だと思っています。当然、シーズンによって良いと言ってもらったり逆に反応が良くなかったりということはこれから先も出てくるでしょう。でも、ブランドというのは続けることで、1回で終わるわけじゃなく繋がっている。ひとつひとつのコレクションが層になってブランドを作っていく。半年に1回の発表サイクルは短いし大変ではありますが、それに、ものすごい発明が毎回起きるわけではないんですが、でもやっぱり続けることが大事。この先も何かが起きるという準備段階だったりするのかな、と思っています。
勝井:全てが繋がってるんですよね。1回のそのショーで終わりじゃなくて、出し切れないことをいつか実現させたり。そういった意味では継続がモチベーションなんです。
■ジャンルを超えた挑戦から得るもの
勝井:最近、洋服以外のもの作りの機会が増えてきています。それを実現することによって普段知り合えないような人と出会えたり、技術的な事を知れるなど利点は多いですね。旭化成さんと動物の顔型のマスクを作った時、どうやって型を出せばいいのかという時に、マネキンを作る造形師さんのところに行ったんです。普段だったらそういう人たちとまず知り合えませんよね。そこからまた何かアイディアを得ることで、それらを洋服に反映したりといったこともあります。
八木:やはり視界を広くしておきたいという思いはすごくある。ファッション以外の分野にも刺激がたくさんあって。視界を広く持っておかないと、インスピレーションの幅もすごく狭くなってしまいます。
例えばユニクロさんとのコラボでは、規模やお客さんの層がものすごく違う。それはそれで挑戦しがいのあることだったんでんすよね。「ミントデザインズ」を知らないお客さんにも買ってもらわないと相手先の求める枚数が売れていかない。コレクションの世界観でなく店頭だけで売るとしたらどういうデザインがいいんだろう?という、普段と違ったアプローチでした。ダイナミックな数量と考え方でものを売っていくというのは刺激になる作業でした。
次のページは「ミントデザインズ」のヴィジョンに迫ります
(左から)08-09A/W"Trash, Slush and Flash!"、09S/S"Death Pop"、09-10A/W"mintdesigns no hankoki"、10S/S"kira kira・pika pika・hira hira・fuwa fuwa・suke suke・sara sara"
■ミントデザインズの今後
八木:「ミントデザインズ」はファッションブランドではありますが、将来的にはひとつの"デザイン会社"として機能していきたい、というのが理想です。洋服のブランドがメインの仕事ではあると思いますが、そこを軸に様々なカテゴリーのデザインを手がけていきたいですね。私たちの世界観を好きになってくれた方の中には、デザインは好きだけど着るのにはサイジングや年齢的に違うという方もいると思うんです。私達のデザイン感覚を、例えば家具であったり、大きいもので言えば建築であったり、様々なものに反映できる何かがあればやっていきたいなと思っています。
勝井:もちろん建築といっても、建築家とのコラボレーションとか、僕たちで独自のデザインアプローチとして空間をディレクションしたり、壁紙やプロダクトのテキスタイルをデザインしたり。そういったソフトを提供することで活動を広げたいですね。
八木: アパレルなんだけどデザイン会社のようなスタンス。 公共物などもデザインしてみたいと思っています。普段のなにげない生活が少しだけ豊かになるような、そんな「ミントデザインズの世界」をもっと広げて行きたいと思っています。
10-11A/W "A NEW HOPE"
■勝井北斗(Hokuto Katsui)■
1973年、東京に生まれる。
パーソンズスクールオブデザインニューヨークで学んだ後、セントラルセントマーチンズカレッジオブアート&デザイン(ロンドン)卒業。
帰国後、八木奈央と共にミントデザインズを立ち上げ、現在に至る。
■八木奈央(Nao Yagi)■
1973年、大坂に生まれる。
同志社大学にて美術芸術学を専攻し、卒業。
ロンドンに渡り、セントラルセントマーチンズを主席で卒業。
帰国後、ミントデザインズで活動、現在に至る。
■mintdesigns(ミントデザインズ)■
2001年 7月 mintdesigns 設立
2002年 10月 2003年春夏より東京コレクションに参加
2003年 7月 有限会社 mintdesigns 設立
2005年 モエ・エ・シャンドンデザイナ−新人賞受賞
2006年 12月 UNIQLO「DESIGNER INVITATION PROJECT」参加
2007年 3月 渋谷パルコに"ミントデザインズ ガレージ ストアー"をオープン
2008年 6月 サンパウロファッションウィーク2009S/Sのオープニングショウを飾る
2008年 9月 大阪成蹊大学客員教授就任
2009年 4月 TOKYO FIBER'09展(イタリア・ミラノ)で " to be someone "を発表
2010年 7月 第28回毎日ファッション大賞受賞
mintdesigns 公式サイト
〜インタビュアー・インプレッション〜
近くで見るとハサミを持った子供のプリント柄だが、遠目で見ると千鳥格子。ロングドレスの大胆に描かれた大輪の花柄や空気のように軽い素材感など、「ミントデザインズ」は服や空間を通じて常に新鮮な印象を与えてくれる。最近では衣服以外にも雑貨や家具、ユニークな立体マスクなど、もの作りのジャンルは多岐に渡り、その可能性を広げている。建築やプロダクトをデザインするように「ファッションをデザインする」というアプローチについて八木氏と勝井氏は「ある意味でファッション本来の主流とは異なるかもしれない」と話すが、人々の生活を豊かにしたいという思いやスタンスこそが「ミントデザインズ」のオリジナリティーであり最大の魅力だ。より日常に溶け込んだクリエーションで、家や街並みをデザインする日も近いかもしれない。
