再審制度を見直す刑事訴訟法改正案についての思いを語る前川さん(13日、福井市で)

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 「世の中が変わると思いたい」――。

 再審制度の見直しを巡り、検察官による不服申し立て(抗告)を原則禁止する刑事訴訟法改正案がまとまり、国会に提出される見通しとなった。無罪の確定まで長年苦しんだ冤罪被害者からは、無実の人を救える社会の実現に期待する声が上がった。

 「(抗告の)全面禁止を訴えてきたので本意ではなく満足できないが、本則で明確に定められたのは良しとしたい」。最初の再審請求から21年を経て、再審無罪判決が昨年確定した前川彰司さん(60)は13日、福井市内で取材に応じ、改正案に対する複雑な思いを吐露した。

 前川さんは1986年に福井市で起きた中3女子生徒殺害事件の容疑者として逮捕され、97年に実刑判決が確定。服役後の2004年に始まった第1次再審請求では、11年に名古屋高裁金沢支部が再審開始を決定したが、検察の不服申し立てで、13年に決定が取り消された。22年の2次請求を経て、24年に再審開始が決定した。

 今回の改正案について、前川さんは「検察官の判断によっては抗告できる余地がある。救済になったようでなっていないという捉え方もできる」と話す。

 昨年7月の同支部の再審無罪判決は、1審段階で有罪を揺るがす証拠が存在していたのに、検察が第2次再審請求審まで開示しなかったと指摘。判決は「不誠実で罪深い不正」と検察の証拠隠しを批判した。

 改正案では再審請求での証拠開示ルールも定められることになったが、再審請求の理由と関連する証拠が対象で全面開示とはならなかった。前川さんは自らの事件では証拠開示が決め手になった点に触れ、「限定的ということには懸念がある」と語った。それでも「世の中が変わると思いたい。暗闇の向こうに希望の光がともった。冤罪の犠牲者が救われてほしい」と訴えた。

 今回の改正議論のきっかけは、1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(90)の再審無罪が2024年10月に確定したことだった。昨年の前川さんの再審無罪も含めて、当時の捜査・公判や再審での対応を巡り、検察への批判が巻き起こった。

 法務・検察幹部の一人は「激しい逆風が吹くなかで、抗告の制限を受け入れるしかなかった」と語った。抗告を原則禁止する規定の記載箇所についても、「本則」か「付則」かで直前まで議論が続いた。別の幹部は「最後は折れるしかなかった」と振り返った。

専門家「抗告要件を限定すれば手続きの迅速化に」

 法務省が新たに示した法改正案が実現した場合、再審手続きの実務はどのように変わるのか。

 改正案は、再審開始決定に対する検察官の抗告を原則禁止とし「十分な根拠」がある場合に限定した。法務・検察幹部の一人は「抗告のハードルが高くなり、明らかな間違いがある『再審開始』を除き抗告できなくなるだろう」との見方を示す。

 法務省によると、2008年以降の再審請求で、再審開始決定が出て、検察官が不服を申し立てたケースは8件あり、うち4件は最終的に決定が取り消された。こうしたケースでも、今後は検察官の抗告が難しくなる可能性がある。

 審理の迅速化が期待される一方、「主戦場が再審公判に移り、最高裁まで激しく争う事件も出てくるのではないか」(別の幹部)との声もある。

 改正案では、証拠開示の手続きも大きく変わる。裁判官が「再審請求の理由と関連する」と判断した証拠を検察に提出するよう命じる義務規定が創設される。これまで証拠開示に関する明文規定がなく、検察に開示を促すかは裁判官の「さじ加減」で、「再審格差」との批判もあった。

 ベテラン裁判官の一人は「開示を命じる『武器』が法律に定められれば、これまでより幅広い開示につながることが見込まれる」と話す。

 元裁判官の水野智幸・法政大教授(刑事法)の話「改正案は再審制度を大きく改善する内容で、冤罪(えんざい)被害者の救済は前進するだろう。検察側の抗告要件とされた『十分な根拠』は、結論と理由に食い違いがあるなど明白な誤りに限定すべきで、そうすれば再審手続きの迅速化につながる。全面的な証拠開示に踏み込めなかった点は不十分だが、裁判官が運用の中で検察側に幅広い開示を求めることが期待される」