【ハンタウイルスとは】クルーズ船で死者…「日本の過去の感染事例」と致死率高い「アンデス株」の違い「もし日本国内に入ってきたら?」
2026年5月、南米から南極方面を航行していたオランダ船籍のクルーズ船「MVホンディウス号」で、ハンタウイルスによるとみられる集団感染が発生しました。
およそ150人が乗船する船内や、下船していた人を含めて8人が感染し、すでに3人が死亡しています。
死亡した人からは、ハンタウィルスの中でも、「致死率最大50%」「限定的なヒトからヒトへの感染」という特徴を持つ「アンデス株」が検出されています。
ハンタウイルスは日本ではなじみが薄いウイルスですが、1960年代から80年代にかけて日本でも感染した事例が報告されています。(日本で確認されているハンタウイルスは、今回のクルーズ船で死者を出した「アンデス株」とは違います。)
この記事では、ハンタウイルスの基礎知識、そして特に注意が必要な「アンデス株」の特徴、国内に入ってきた場合の感染拡大リスクについて、WHOや国などの資料をもとに解説します。
何が起きたのか クルーズ船での集団感染の状況世界保健機関(WHO)によると、オランダ船籍のクルーズ船の乗客から、重症呼吸器疾患の集団感染(クラスター)の報告がありました。
MVホンディウス号は、2026年4月1日にアルゼンチンのウシュアイアを出港。南極大陸や南大西洋の島々をめぐっていました。乗客88名・乗員59名の計147名、国籍は23か国に及びます。
感染経路は調査中ですが、複数の感染ルートが絡んでいる可能性も指摘されています。
最初の感染者2人は、乗船前にハンタウイルスが確認されている南米を旅行していて、「乗船前に感染していた可能性」があります。
また、船は手つかずの自然が残る離島のツアーなども実施していて、乗船客が上陸した際にネズミの排泄物などに触れた「寄港地で感染した可能性」も考えられています。
現在、複数国の医療当局とWHOが対応や調査にあたっています。
そもそもハンタウイルスとは? 日本では過去に死亡例もハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類が自然宿主となる病原体です。宿主となるネズミの種類や地域によってウイルスの株が異なります。
ハンタウイルス自体は世界中に分布しており、感染すると主に以下の2つの疾患のどちらかを引き起こします。
腎症候性出血熱(HFRS)腎機能障害と出血症状を特徴とする疾患です。主にユーラシア大陸(中国・韓国・東欧など)で発生し、ハンタウイルスの中でも「ハンタン株やソウル株」などの種類で引き起こされます。
潜伏期間は10~20日で、突然の発熱・頭痛・悪寒・脱力・腹痛・嘔吐などで発症します。顔面の発赤や目の充血といった出血症状が現れることもあり、重症型では強い腎機能障害などを伴い、3~15%が死亡します。
日本での過去の事例: 国立健康危機管理研究機構などによると、1960年代に大阪で原因不明の熱病として発生して、119人が発症しうち2人が死亡。
1970年代半ばから80年代には全国の実験施設で実験用のラットから感染し、127人が発症し、うち1人が死亡しています。
1984年の実験室での感染報告を最後に、日本国内で新たなHFRSの患者は報告されていません。ただし、その後もドブネズミがソウル株を保有していることは確認されており、注意は必要です。
致死率高い「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」急性の呼吸困難を特徴とする疾患です。南北アメリカ大陸で発生。致死率が非常に高く、今回のクルーズ船での感染が確認されているハンタウィルスの「アンデス株」が引き起こすと考えられています。
潜伏期間は1~5週間(最長8週間)とされています。初期症状は発熱・頭痛・悪寒・筋肉痛などかぜに似た症状が1~4日続きます。その後、呼吸困難・酸素欠乏状態が急速に出現します。
1993年に米国南西部で初めて確認され、その後カナダ・アルゼンチン・チリ・ブラジルなど南北アメリカ大陸全域に広がっています。
WHOの資料によると、2025年にアメリカ大陸地域では8か国から229例の症例と59例の死亡が報告されました。
どのようにして感染するのかハンタウイルスの感染経路は、基本的にネズミなどげっ歯類との接触です。具体的には以下のような経路で人に感染します。
・ウイルスを含むネズミの糞・尿・唾液に直接触れる
・乾燥した糞尿が混ざったほこりを吸い込む
・ネズミに直接噛まれる
・ウイルスが付着した手で鼻・目・口を触れる
日本・アジアなどの株と「アンデス株」の違い まとめ■【日本・アジアなどの株 】
【引き起こす主な疾患】 腎症候性出血熱(HFRS)
【致死率】 最大1%未満~15% 【ヒトからヒトへの感染】 「報告されていない」 【治療法】腎症候性出血熱に対しては、リバビリンという抗ウイルス薬が有効と報告されています。■【アンデス株(南米)】
【引き起こす主な疾患】ハンタウイルス肺症候群(HPS)
【致死率】 最大50% 【ヒトからヒトへの感染】「限定的だが起こり得る」 【治療法】治療法やワクチンはなく、早期に集中治療室(ICU)で酸素補給や、人工呼吸器などの対症療法が中心です。アジアや北米の株では、「人から人への感染は起こらない」とされていますが、アンデス株では密接な接触を伴う環境(家族間・医療従事者など)で限定的なヒト間感染が過去に確認されています。
感染拡大のリスク WHO(世界保健機関)の見解は?WHOは、アンデス株でのヒトからヒトへの感染リスクについて、「基本的には非常に稀(まれ)」であると強調しています。
コロナウイルスやインフルエンザのように次々と広がる性質のものではなく、家族間などの「密接で長期にわたる接触」や、過去には「医療施設での二次感染」で限定的に起こり得るとしています。
そのため、南米などの流行地域ではヒト間感染の可能性を考慮して警戒する必要があると注意喚起しつつも、今回の事象による世界の人口に対する総合的なリスクは、現時点で「低い(Low)」と評価しています。
もし国内に入ってきたら? ハンタウイルスの感染拡大リスクは?国立健康危機管理研究機構によると、ハンタウイルスはウイルスの種類ごとに宿主となるネズミの種類が決まっています。日本にはアンデス株の宿主となる種類のネズミは、野生に生息していません。
国立健康危機管理研究機構は、仮に国内にウイルスが入り込んでも「自然界の感染サイクルは成立しない」としています。
また、ヒトからヒトへの感染は極めて限定的です。
そのため、仮に海外から感染した人や、モノを通じてウイルスが持ち込まれたとしても、日本国内でウイルスが定着し、そこから感染が拡大していくリスクは極めて低いと考えられています。
国内での過度な心配は不要ですが、南北アメリカ大陸を旅行する際には、農村地域の訪問、キャンプ、ハイキングなどのアウトドアで、野生のネズミやその排泄物への接触を避けることが感染予防の基本となります。
予防でもっとも重要なのは「野生のネズミとの接触を断つ」WHOや厚生労働省などは、予防で大切なのは「野生のネズミとの接触を断つこと」として、以下の予防策を呼びかけています。
・食べ物には蓋をして保管し、ネズミを家に寄せ付けないよう環境を整える
・ネズミの糞尿で汚染された場所の清掃には、ほこりを巻き上げる掃除機やほうきは使わない
・汚染箇所は漂白剤で十分に湿らせてからペーパータオルで拭き取り、密閉して廃棄する
・南北アメリカ大陸などへ渡航する際は現地の情報を確認し、ネズミとの接触に十分注意する
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