写真はイメージ(NVS my world/Shutterstock. com)


 住宅の価格は高くなった。とりわけマンションは豪華な共用部や日常管理の簡便さから人気があり、都市部を中心に新築価格が高騰している。

 2026年3月の首都圏新築マンションの平均価格は1億円超を維持した。また、この価格帯が高すぎると考える人が中古マンション、新築戸建て、中古戸建てといったほかの選択肢を選んだ結果、これらの価格も上昇している(別掲【グラフ1】参照)。

 特にマンションは、新築、中古ともに、株式などと同様に金融商品としての性格を強めており、都心部ほど投資対象として選好される傾向がある。この住宅価格の上昇がいつまで続くのかは、多くの人の関心事である。手ごろな価格まで落ちてきたところで買おうと考える人もいるだろうが、需給両面からの後押しにより、今後も続く可能性が高い。

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需給逼迫と資産価値、住宅市場を変えた構造変化

 需要面では、パワーカップルの増加や都心回帰、富裕層の投資などが市場を支えている。

 特に都市部では、利便性の高い立地に対する需要が底堅く、供給が限定される中で価格の下支え要因となっている。あわせて、再開発やインフラ整備への期待も、将来の資産価値を見込んだ需要を喚起している。

 加えて、以前なら住宅は年金基金や海外投資ファンドなどの資金が潤沢な主体の投資対象ではなかったが、近年ではマンションや戸建てをまとめて取得する事例が散見される。コロナ禍において欧米の都市部の稼働率が低迷する中、国内賃貸住宅市場が安定して推移したことから、世界中の投資家の投資対象として人気を集めている。

 供給面では、鉄筋やコンクリートなどの建築資材価格の上昇に加え、人手不足による人件費高騰や供給能力不足から受注制限が生じている。

 さらに、中東情勢の緊迫化の影響も加わり、特にナフサ調達の見通しが立たないことの影響は大きい。内外装部材、塗料、配管設備、断熱材など幅広い住宅部材について、メーカーや問屋への発注が停止する事態も生じている。

 資材調達の見通しが立たなければ、建設会社や大工は工事計画を立てることができず、既存工事の完了は遅延し、新規受注も見送らざるを得ない。仮に資材の供給が再開されたとしても、資材や部材の価格が大幅に引き上げられる可能性は高い。

 また、2026年2月後半から4月初旬のたった1カ月半のうちに原油やナフサの価格が倍増するなど、建築期間中の資材価格の上昇懸念も高まっている。

 通常、建物完成までには、戸建てなら1年前後、マンションなら数年以上が必要である。予算外のコスト上昇が発生した場合に備え、建設事業者はあらかじめ請負費用を高めに設定するか、あるいはコスト上昇分を発注者が負担する契約とするか、いずれかでなければ工事を受注しにくい状況である。

 住宅ローン審査の制約を踏まえると、前者の方法で見積もりを高めに設定し、安く済めば後から減額する対応が現実的と考えられる。いずれにせよ、こうした供給制約が解消した後も、住宅価格のさらなる上昇は避けがたい。

コスト上昇の悪循環、新築住宅が高止まりする不可避なメカニズム

 こうしたコスト上昇圧力は、人口減少や円安、資源供給の不安定化を背景とした構造的な要因によるものである。

 建築費を押し上げる方向に作用し続けるとともに、改善の見通しは乏しく、今後の建物価格を押し下げる要因は限定的である。したがって、新築住宅価格は当面高止まり、あるいは緩やかな上昇を続ける可能性が高い。

 需給の逼迫の面でも、住宅価格は下がりにくい状況にある。一部の高額マンションでは販売期間が長期化しているものの、もともとの供給戸数が少ないため、割安感のある物件はすぐに売れてしまう状況が続いている。

 また、住宅を売却するには次の住まいを確保する必要があるが、住宅価格全体が上昇しているため、現在と同等以上の条件の住まいを手ごろな価格で見つけるのは容易ではない。その結果、売却は見送られることとなり、市場に出回る優良な売り物件や賃貸物件は限られている。

 流通制約の中で、市場構造にも変化がみられる。首都圏の2015年と2025年を比較すると、新築マンションが4.0万戸から2.2万戸へ(▲46%)、新築戸建てが11.7万戸から9.4万戸へ(▲20%)減少している。一方、中古マンションは3.5万戸から4.9万戸へ(+41%)、中古戸建ては1.2万戸から2.1万戸へ(+78%)と増加している。

 中古住宅の流通増加とともに中古住宅価格も上昇している。優良な売り物件であれば高値で取引される傾向にあることから、ライフステージの変化に伴う売却の検討などを通じ、中古市場の活性化を後押ししている。

金利上昇が突きつける現実、住宅ローンと家計の防衛線

 一方で、住宅の取得環境は悪化している。とりわけ影響が大きいのは金利上昇である。

 日銀が金融政策の正常化を進め、政策金利の引き上げや国債買い入れの縮小を行うことで、これまで金利を抑えてきた効果が薄れつつある。

 その結果、住宅ローンの変動金利・長期金利ともに上昇基調が続くと見込まれる。金利が上昇すれば、同じ年収でも借入可能額は減少し、購入できる住宅の価格帯は下がる。総返済額に占める利息負担も増加し、家計への影響は小さくない。

 さらに、昨今の物価高がこれに追い打ちをかけている。住宅ローンは年収を基に借入額が算出されるが、税金や社会保険料を差し引いた可処分所得が増加しなければ、家計に余裕は生まれない。

 家計調査によると、2025年の実収入は前年比+2.8%、可処分所得は+1.9%増加したものの、物価を考慮した実質増減率では実収入は▲0.9%、可処分所得は▲1.7%と減少している(別掲【グラフ2】参照)。

 興味深いのが年収倍率の低下である。年収倍率は住宅価格を年収で割った指標であり、本来であれば価格上昇と収入減少により上昇するはずである。

 しかし、住宅金融支援機構の調査によると、フラット35利用者の年収倍率は2023年から2024年にかけて低下しており、住宅購入全体は6.7倍から6.5倍、新築マンションは7.2倍から7.0倍、土地付注文住宅は7.6倍から7.5倍となっている。

 背景として、購入者層の年収が上昇していることが挙げられる。すなわち、住宅を購入できる層は所得の伸びを享受できている一部に偏りつつあり、住宅格差が拡大している(別掲【グラフ3】参照)。

「一生モノ」の思い込みを捨てる、ライフステージで買える住まい方

 このような状況を踏まえると、住宅購入考え方も従来とは変える必要がある。

 これまではできるだけ早く、あるいは購入したいときに購入すればよいとされてきた。しかし、今後は金利上昇局面にある。無理な借り入れはリスクが高く、将来の返済負担を慎重に見極める必要がある。

 とりわけ借入上限いっぱいに住宅ローンを組むことは危険であり、返済負担の増加により日常の余裕資金が失われるほか、将来の収入減少や予期せぬ支出に対応できなくなるリスクも高まる。

 もっとも、住宅ローンの活用は個人が利用できる数少ない比較的低コストかつ安全性の高いレバレッジ手段である。適切に活用すれば、自己資金だけでは得られない資産規模を早期に形成できる可能性がある。

 無理のない返済余力を確保した上で、将来にわたり価値の維持が見込まれる立地や品質の住宅を選択することは、中長期的な資産形成に資する有効な手段となり得る。インフレ局面では実質的な債務負担が軽減される側面もあり、慎重な前提のもとで活用すべきである。

 住宅購入は単なる価格の問題ではなく、現在と将来の所得水準、金利環境、ライフプランといった複数の要素のバランスの中で総合的に判断すべきものである。

 とりわけ、転職や出産、教育費の増加、老後への備えといった長期のライフイベントを見据えた資金計画が求められる。収入の変動可能性やリスク許容度を踏まえ、過度な負担を避けつつ資産形成とのバランスを図ることが重要である。

 また、ライフステージに応じて賃貸と購入を組み合わせる、エリアや住宅タイプを見直す、資産形成と住宅取得を一体的に考えるといった視点も重要である。

 将来の不確実性を前提とし、単一の前提に依存するのではなく、複数のシナリオを想定する視点も欠かせない。共働きやキャリア形成、資産形成を通じて将来の所得を高めることも、選択肢を広げる有効な手段であろう。変化に応じて計画を見直す余地を持つことが、長期的な安定につながる。

 すでに、誰もが同じように住宅を取得できる時代ではなくなりつつある。だからこそ、住宅を「一生に一度の大きな買い物」と捉えるのではなく、人生の中で見直し可能な選択肢として位置付けることが、より現実的で前向きなアプローチとなる。

 環境の変化が続く中でも視野を広げて柔軟に対応し、自分に合った住まい方を見つけることが重要となるだろう。

筆者:渡邊 布味子