関友太郎×平瀬謙太朗が明かす『泉京香は黙らない』制作秘話 「俳優・堀田真由を刮目せよ!」
NHKの人気ドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』の最新作として、スピンオフドラマ『泉京香は黙らない』が5月4日21時30分よりNHK総合にて放送される。本作の主人公は、岸辺露伴(高橋一生)の担当編集者である泉京香(飯豊まりえ)。彼女がSNSで見つけた累計100万部の大ヒット新人漫画家・西恩ミカ(堀田真由)とその双子の兄・奏士(寛一郎)を巡る奇妙な物語だ。加えて、京香の新しい彼氏である新聞記者の勘助(橋本淳)も登場し、物語は予期せぬ方向へと転がっていく。
参考:飯豊まりえ、『泉京香は黙らない』は「全員の熱量が詰まった作品」 “運命”の役を演じて
これまで映像制作ユニット「5月」として革新的な作品を生み出してきた関友太郎と平瀬謙太朗。2人が本作の監督・脚本としてどのように『岸辺露伴』の世界と向き合い、『泉京香は黙らない』を生み出したのか。制作の裏側と本作に込めたテーマについて話を聞いた。
●“泉京香が主役”だからこその挑戦
ーー今回の制作陣が発表されたとき、監督・脚本をお二人が担当すると知って、腑に落ちる感覚がありました。これまで手がけられてきた『あれからどうした』(NHK総合)や『災 劇場版』など、日常が少しずつズレていく感覚は、『岸辺露伴』シリーズと親和性があると感じました。
関友太郎(行か、関):そう言っていただいてありがたいのですが、僕らにとってはそういった腑に落ちるような感覚はなくて。こういうふうに長く続くシリーズものを引き継ぐという経験がなかったので、親和性というよりも「チャレンジ」の気持ちのほうが大きかったです。最初からそのまま「できるぞ」とは思わなかったです。
ーー『岸辺露伴』シリーズだからこその入り込みやすさなどはありましたか?
関:「高橋一生さん演じる露伴が主役の新作です」と言われていたら、シリーズの流れがすでにある分、結構身構えていたと思うんです。でも今回は、「京香が主役」だと聞いて。だったら、自分たちができる「思いっきりいいやつ」を1回当てさせていただいても大丈夫なのかなという気持ちがあり、自分はそこが一番大きかったです。本流から派生したキャラクターであり、あくまで助手や編集者として立ち回っていた京香が、今度は主役になる。露伴が奥に引っ込むような関係性の世界観がすごく面白いなと思って、そこが一番やりたいところでした。
平瀬謙太朗(以下、平瀬):僕は常にプロジェクトへ臨む姿勢として、「ジャイアントキリング」じゃないですけど、無謀にも大きなものに挑むほうが好きなんです。「泉京香が主役で、スピンオフで、もう思いっきりやっていいです」というお話だったので、関と気持ちは同じで、これはやりがいがあるなと。これまでのシリーズが築いてきた強い枠組みがあるからこそ、その中で「力のかぎり暴れるぞ!」みたいな気持ちで、すごく楽しく始まりました。
ーー今までのシリーズは原作漫画があり、明確なビジュアルイメージがありました。今回はそれがゼロからのスタートでしたが、最初の枠組みはどのように決まったのでしょうか?
関:企画の途中からだったと思うのですが、今回の“敵”役は「漫画家」がいいんじゃないかというアイデアが荒木(飛呂彦)先生から出てきたんです。僕ら自身も、担当編集が漫画家に対峙する話のアイデアは何個か持っていたので、「あ、やっぱりそこなんだ」と合致して。そこからは一つのお題のようになりました。
ーー台本を読んだとき、今回のテーマが荒木作品特有の不気味さと見事にマッチしていました。この路線でいくというイメージは最初からあったのでしょうか?
平瀬:いつもなら、荒木先生の原作があり、そこにはすでに強烈なキャラクターが存在しているわけですが、今回はゼロからの出発だったので、先生の発想に負けないものを作らなければいけないという不安もありました。そこで手がかりにしたのは、僕たちはこれまで、「映像手法や映像の構造からドラマや映画を作る」というアプローチをしてきたので、今回も映像的なギミックや手法によって、「怪異」を表現するのはどうかと。そこで、“声”つまり音をテーマとして、映像的なアイデアを考えました。
関:今、平瀬くんが言ったように、“声”の表現は、漫画や小説ではどうしても説明的になってしまいます。でも、ドラマや映画だとストレートに映像表現として伝えられる。そこも、僕らがやるなら力を発揮できるんじゃないかと思いました。
ーーこれまでのドラマで脚本を担当されてきた小林靖子さんは、無意識に「ジョジョイズム」を入れているとお話しされていました。今回、お二人も脚本執筆時に何か意識された部分はありましたか? 脚本を読んだとき、いわゆる「ジョジョ語」の「ッ」などがちりばめられているなと感じまして。
関:小林さんと演出の渡辺(一貴)さんが作られてきた世界観を踏襲しようと思っても、そもそも僕らにはできないので、これまでのシリーズの世界観を上手く再現しよう、とはあまり強く意識しないようにしていました。ただ、高橋さんと飯豊さんが演じる露伴と京香の「どういう喋り方をしてたっけ?」というトーンだけはインストールしないと脚本を書けないと思ったので、特に初回を見直しました。台詞に小さい「ッ」が無意識に入っていたのも、そのときの影響かもしれません(笑)。
平瀬:そもそも、飯豊さんも高橋さんも、ものすごく「ジョジョ愛」が強いので、演じていただく中に、おのずとジョジョイズムが滲み出ていたんじゃないかと感じています。
●荒木飛呂彦の“飛躍”と飯豊まりえの圧倒的な“陽”
ーー今回は脚本協力として荒木飛呂彦さんが参加されているのも注目ポイントです。同じ作り手として、一緒に作品を作ってみてどう感じましたか?
関:いい意味で本当にぶっ飛んでいると思います。僕らが書いたプロットに対して、先生から戻ってくるメモ書きには、普通の思考ではなかなか思いつかないような飛躍というのか、ぶっ飛んでいるところがいっぱいあるんですよ(笑)。理詰めで考えるとなんでこんな展開に?と思ってしまうこともあるんですけど、でもそれは、「別にこれくらいぶっ飛んだっていいじゃん、だってこの瞬間のこれが面白いんだから」というサジェスチョンなんだなと思って。そういった表現に対する姿勢を目の当たりにできて、本当に勉強になりました。
平瀬:荒木先生から返ってくるメモはいつも1段も2段も飛躍しているのですが、その結果、ほかの人では辿り着けない「強い表現」や独特な魅力になっている。その発想の自由さを目の当たりにすると、細かい整合性を気にして小さくなってどうするんだって思わされることも多々あり、すごく刺激を受けました。
ーー脚本を読む限り、ものすごく“怖い話”だと感じました。NHKの地上波で放送される中で、かなり攻めた描写もありますよね。
関:たしかに、結構やってるかもしれません(笑)。
平瀬:もしかしたら、観る人によっては刺激が強すぎるかもしれません(笑)。
関:堀田さんが演じるミカのとあるシーンは、自分たちでも「うわ、えげつないのが撮れてる……」と現場で思っていました。でも、ギリギリ放送できるラインだと思いますし、いいものが撮れたという手応えはあります。とはいえ、単なるホラーに寄せすぎないよう、絶妙なラインを狙って編集を頑張っています。
ーーまた今回、京香が主人公ということで、露伴の役割が、いつもとは違っていますが、これは意識的にですか?
平瀬:そういえば、企画段階でプロデューサーから「ヘブンズ・ドアー禁止令」は出てたよね(笑)。
関:やっぱりそれをやってしまうと、「結局いつもの露伴の回になっちゃうじゃん」という気もしますよね。能力に頼らず、京香自身の力で切り抜ける話にしないといけないと強く意識していました。
ーーどんなにホラーな展開になっても、飯豊さん演じる京香がいることで救われる快活さがありました。京香だけはあの異様な空気に染まらない強さを感じます。
平瀬:普通のキャラクターだったら、あんな怖い思いをしたらトラウマになったり、精神的におかしくなってしまうはずなんです。でも、京香には絶対にそれが起きない。ある意味、尋常じゃないくらい強いキャラクターなんですよね。だからこそ、周りの怪異の「出力」をめちゃくちゃ上げても耐えられるんです。
関:主人公の京香には、今までのシリーズで積み上げてきた圧倒的な「陽」の強さがあるので、今作のようなおどろおどろしい物語でも、何故か自然とバランスが取れるんです。仮に僕たちがゼロから新しい主人公を生み出していたら、この奇跡的なバランスには辿り着かなかったと思います。
ーー飯豊さんとは『あれからどうした』でもご一緒されています。本作で新たに発見した凄みなどはありましたか?
平瀬:前作からそうでしたが、飯豊さんは、単なる出演者ではなく、「共に悩み、考え、一緒に作品を作る」という姿勢で望んでくれるので、僕たちとしてはものすごくやりやすかったです。あとは、現場に入ってくるときの挨拶から本当に素敵で、現場の雰囲気をパッと明るくしてくれることに何度も助けられました。
関:メイクや衣装を着る前から「リアル京香やん!」って思っていました(笑)。明確に荒木先生が「露伴に対しての敵キャラ(相対する存在)が京香である」とおっしゃっていて、元々はある種、露伴のもとに災いをもたらすキャラクターとして描かれていました。でも、敵役のようなポジションなのに「なんでこんなに明るいんかい!」みたいなエッセンスは、本作でも大切に残せたらいいなと思っていました。
平瀬:そして、飯豊さんと相対する形で、堀田さんのお芝居も本当にすごいです。完全にお節介ですが、「俳優・堀田真由を刮目せよ!」という気持ちです。今までにない堀田さんのお芝居を堪能いただけると思います。
ーーゴールデンウィークの放送ということで、視聴者にはどのような環境でこの恐怖体験を味わってほしいですか?
関:どうせなら、部屋を真っ暗にして観てください(笑)。お喋りは禁止で、スマホの電源も切って、電気も消して、観るための敷居をあえて高くして観てほしいです。絶対にそっちのほうが楽しい体験ができると約束します。
(文=石井達也)
