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スマホの中で動く半導体チップ。それを作る「鍵」となる機械が、実はオランダの1社にほぼ独占されている…そんな現状にゲームチェンジを起こすべく沖縄の大学で挑む日本人研究者がいます。

チップを焼き付けるためのマシン

半導体チップを作るとき、シリコンの板(ウエハー)に回路パターンを光で描写する工程があります。描写といっても、ここで使う「インク」は超短波長の光。この工程を担う装置がEUV露光装置です。

EUVとは「極端紫外線(Extreme Ultraviolet)」の略。波長わずか13.5nmという非常に短い光を使うことで、髪の毛の1万分の1以下という超微細な回路を描くことができます。

現在、スマートフォンやAIサーバー向けの最先端チップには、この技術が不可欠です。 問題はただひとつ。この装置を作れるのがオランダのASML社だけという状況が続いていることです。

装置は1台約400億円、電気代もスパコンレベル

image: SCIENCE CHANNEL(JST)

ASML製のEUV露光装置は1台あたり平均約3億4000万ドル(2023年当時:約390億円)といわれ、需要が高まるなかで世界中の半導体メーカーが入手待ち状態に陥っています。

しかもランニングコストも、かなりのもの。従来型のEUV露光装置は、発生させたEUV光を10枚の特殊なミラーで反射させながら届けるという仕組みをとっています。ところが、EUV光は反射のたびにエネルギーが最大40%も失われるため、ウエハーに届く光は光源出力のわずか1%。このロスを補うために、消費電力は1台あたり1,000キロワットという巨大なエネルギーが必要になります。

スーパーコンピュータに匹敵するような電力消費に、当然、メーカーとしても電気代高騰の悩みのタネだったわけです。

鏡を10枚から4枚に。OISTで開発中の新技術

そこに一石を投じようとしているのが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積(しんたけ・つもる)教授です。

EUV露光装置の仕組みを知った時に「エンジニアの勘として、これはちゃんと設計し直せばもっとよくできる」と感覚的に捉えられたといいます。

新竹教授が着目したのは「光の進み方」でした。光学の世界では「光は光軸の中心を通るほど性能が高い」というのが常識でしたが、ASMLの装置はミラーを複雑にジグザグに並べているため、光が中心からずれてしまっていると気づきます。

「それなら、中心に穴が開いたミラーを一直線に並べてしまえばいい」と新竹教授は発想。光を鏡中央の穴に通過させた後、拡大し、収束させる仕組みをとりました。これは大型の天体望遠鏡に使われている光学設計からヒントを得たものです。

この方法をもとに研究を進め、現在では光源からフォトマスクまで2枚、フォトマスクからウエハーまで2枚、合計4枚のミラーで完結する新しい設計に成功しました。

左が従来型、右が新型。従来型に比べて非常にシンプルな設計。わずか20Wの小型EUV光源で動作するため、消費電力がおよそ1MWの従来技術に比べ、消費電力が100kW以下と10分の1となる。
image: 新竹積 (OIST)

消費電力は従来の10分の1にあたる100キロワットに抑えられ、冷却水の量も大幅に削減できます。さらに、少ない枚数のミラーはパワーが低い光源でも動作するため、スズ液滴が飛散して装置を汚染する「デブリ問題」に対処するためのフィルターも組み込めるようになりました。

露光できる面積も、従来の10mm四方から20mm四方に拡大され、携帯電話やメモリ向けチップの生産にそのまま使える規模になっています。

「価格破壊」を狙う

新竹教授はこの技術により半導体業界で「価格破壊」を起こしたいと語っています。既存機械が200億円するものを50億円以下にでき、なおかつ電気代がほぼゼロに近いレベルにできたものを、一気に普及させていきたいと考えているそう。

すでに特許の出願は完了しており、現在はデモ装置の試作が完成し、実用モデルの設計に取り組んでいる段階です。新竹教授は「国産化できると思う。日本の半導体メーカーが再び黄金期を迎えられればいい」と話しており、産学連携で光学機器・半導体メーカーへの実用化協力を呼びかけています。

EUV露光装置の市場は2030年に2兆5000億円規模へ拡大する見込みがあり、独占体制が崩れれば業界全体のコスト構造を大きく変えうる可能性があります。それだけコストが変われば、当然、僕らが手にするデバイスにも「価格破壊」の恩恵も期待できそう。

沖縄の大学から始まった挑戦が、世界の半導体地図を塗り替える日は来るのでしょうか。研究の行方は、スマホの値段にも、AIの電気代にも、しっかり関わってくるかもしれません。

Source: SCIENCE CHANNEL(JST), サイエンスポータル、OIST、TELESCOPE magazine

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