ジダンの頭突き事件から20年――世界を震撼させたW杯騒動の内幕を名手ブッフォンが証言「退場になったのは俺のせいだ」

衝撃の退場劇で世間を騒然とさせたジダン(C)Getty Images
マテラッツィの発言が発端となった事件
世界を揺るがせた事件がふたたびフォーカスされた。2006年のドイツ・ワールドカップ決勝で、当時のフランス代表MFのジネディーヌ・ジダンが、対峙したイタリア代表DFのマルコ・マテラッツィに頭突きを見舞って退場となった一件だ。
【動画】「え、何が起きた?」世界が騒然となったジダンの頭突き事件の瞬間
世界中が騒然となる瞬間だった。34歳とキャリアの晩年を迎え、大会後の現役引退が決まっていたジダンは、有終の美を飾らんとフランスを力強くけん引。堅守を誇ったイタリアとの決勝でも7分にPKによる先制点を決めるなど異彩を放っていた。
しかし、天才は衝撃的な行動に出る。1-1で迎えた延長後半5分、セットプレーの流れから自陣へと戻ろうとしたジダンはクルっと振り返ると、自身のマーカーだったマテラッツィに対して頭突きを炸裂。突然の出来事に場内は騒然となる中、イタリアの選手たちによるアピールを受けた主審は、迷わずレッドカードを提示した。
結局、試合はPK戦の末にイタリアが勝利。6大会ぶり4度目の世界一に輝いたのだが、その結末以上にジダンの退場劇は小さくない話題を振りまいた。
後にジダンが激怒した理由が、「貰うならユニフォームよりお前の姉ちゃんがいい」と侮蔑の言葉を浴びせたマテラッツィにあると発覚。ショッキングな形で現役生活に幕を閉じた当人は公の場で多くを語っていないが、強烈な一撃を受けて苦痛に苛まれた方は「あの日からジダンとは話していない。以前も以後も、彼とは話していないよ」(自身のインスタグラムより)と証言し、当事者間でわだかまりが残り続けていると明らかにしている。
W杯決勝という極限状態にあるグラウンド内で起きた前代未聞の事件。当時の試合中継カメラですら撮り遅れた刹那的な出来事を見ていた者はピッチ内でも数少ない。しかし、イタリア代表の守護神を務めていたジャンルイジ・ブッフォンは、マテラッツィの背後から瞬間を見ていた。
英紙『The Guardian』の取材に応じた伝説の名手は、「俺は(頭突きが起こった場所から)15メートルぐらい離れた位置にいたんだ。でも、確かにドスンという音が聞こえた。もしも、彼(ジダン)が、マテラッツィじゃなく他の誰かに同じことをしていたら気絶していたと思う。それぐらいに鈍い音だった」と回想。誰もが慌てふためく当時の内幕を告白している。
「副審は見ていなかった。たぶん、ジダンが頭突きをしたのを目撃していたのは、俺だけだった。だから、すぐに主審と副審のところへ走り、彼らの注意を引こうとした。その時にはマテラッツィは地面に倒れ、ジダンは微動だにしていなかった。それで俺は抗議をし、ついに試合は中断された」
「複雑な感情に襲われた」――揺れた勝負師の心
当時のブッフォンもキャリアの絶頂期にあった。その中でジダンとは幾度となく対戦をし、関係性も良好な「ライバル」と呼べる間柄にあった。ゆえに心境は複雑だった。
数的有利の状況を生むための抗議をし、勝負師に徹しながらも「動揺して、複雑な感情に襲われた」というブッフォンは、「あれがジダンの最後の試合だと俺たちも分かっていた。彼はサッカー史上最も偉大で、一流と呼べる一人だった。だから、あんな形で彼のキャリアが終わってしまうのは残念だった」と吐露。そして、「(退場になったのは)俺のせいだ」と告白した。
無論、ブッフォンとジダンの間に遺恨はない。あの決勝後も幾度となく顔を合わせ、笑顔で会話を交わしてきた。それでも、20年前に起きた事件についてだけは「一度も話したことはない」という。
「あの時の出来事についてだけは彼とも話していない。もちろん、何度も顔を合わせてきたし、お互いの信頼に基づいた良好な関係が築けていると思う。だから敬意を込めて、あの件については話したくなかったんだ。ジダンはすべてを勝ち取ったチャンピオンだ。だけど、心の奥底で、あの出来事が常に辛い思い出になっているはずなんだ。だからこそ、俺は彼にそのことを思い出させたくなかった」
サッカー界で色褪せぬドラマとなったジダンの退場劇。全てを手にしてきた天才の悲しい去り際は、当事者たちの心にも強いインパクトを残しているようだ。
