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中学生の頃から約6年にわたり、運動部の外部コーチだった男から繰り返し性暴力被害を受けた──。そう訴える女性とその代理人弁護士が3月30日、広島市内で記者会見を開いた。

その3日前の3月27日、島根県に住む元コーチの男(40代)が準強姦罪で松江地検に起訴されたことを受けて開かれたものだ。

男は昨年8月、児童福祉法違反の疑いで逮捕されたが、その後、体調不良を理由に釈放され、在宅のまま捜査が続けられていた。女性は昨年11月、男に対して1100万円の損害賠償を求める民事訴訟も起こしている。

代理人は「10年以上前の性暴力事件が立件されることは珍しい」と話す。背景には、被害者の精神的負担の大きさに加えて、証拠が残りにくい性暴力事件特有の難しさがある。(小川たまか)

●中学2年から臀部を触られるようになった

女性が被害を訴えようと決意したのは昨年、友人に打ち明けたことがきっかけだった。弁護士に相談しようと考え、広島弁護士会の無料相談に電話したところ、偶然対応したのが、性暴力事件に詳しい寺西環江弁護士だったという。

民事訴訟の訴状によると、女性は運動部に所属していた中学1年の頃から、外部コーチだった男の指導を受けるようになった。

男は「おはようからおやすみまで、練習の時に限らず連絡をとり続けることが、指導者と教え子との関係性にとって理想である」などと話し、私的な連絡を日常化させながら、密接で支配的な関係を徐々に築いていったという。

中学2年頃になると、男が身体マッサージやテーピングをする機会が増え、下着をずらされて臀部などを触られることもあった。

さらに中学3年になり、大会前の現地での宿泊時に性行為を強いられた。行為後、部屋に戻った女性に対して、男は「血が出たか?」などとメールを送り、翌日の大会では「昨日やっていなかったら、もっと良い結果が出ていたかもな」というような内容を笑いながら話したという。

●車中や部室でも行為…暴力も加わった

その後も、車中や部室などで、週に1〜2回のペースで性的行為を強いられた。中学3年の冬頃からは「使用済みのコンドームが見つかったらバレるから」との理由で避妊もしなくなったという。

生理が遅れることがあったが、男は「(妊娠したら)知らない人にレイプされたことにしよう」「どうせ妊娠しているなら中出しさせろ」などと述べたとされる。

高校に入ると個別指導の際に突き飛ばしたり、顔面を殴打されたりする暴力もあったという。

また、性行為の際には「もしこのことがバレたら、俺もお前も終わりだ」と言われることがあり、女性はあたかも自分が共犯者であるかのように思い込まされていた。

●改正法で時効が延長、立件につながった

刑事事件では、2013年7月後半の遠征の際の被害と、2016年7月、8月の合宿時の被害の計3件が、準強姦の起訴内容となっている。

2023年の刑法改正により、公訴時効が延長された。改正時点で時効が成立していない過去の事件にも適用されるため、改正前であれば時効が成立していた2023年7月の被害についても、今回の起訴が可能になった。

女性は児童福祉法違反と強姦で刑事告訴していたが、逮捕容疑が児童福祉法違反だったこともあり、寺西弁護士は「強姦あるいは準強姦での起訴は難しいと思っていた」と振り返る。

当時の法制度では、女性は被害時に性的同意年齢を超えていたため、「暴行・脅迫」や「抗拒不能」といった要件が立ちはだかる。

さらに男は、女性が成人してからの性的行為については認めつつ「同意があった」と主張し、未成年時の行為については否認しているという。

DNAや映像などの客観的証拠があれば立証につながることもあるが、そうでない場合、10年以上前の加害行為を立証するハードルは高い。

今回のケースでは、女性が運動部の練習のためにつけていた日誌や、合宿時の宿泊名簿が残っており、被害の日時や場所を特定するうえで大きな手がかりになったという。

寺西弁護士は「継続的な性加害や家庭内性虐待の場合には、被害者が被害日時を覚えていないことも多い。解離のため証言自体できない人もいる」と指摘する。

そのうえで「今回のように時間が経ってからも客観的な証拠が見つかることもある。古い事案だからといって諦めてはいけないことが自分にとっても学びになった」と話した。

●「自分も怒っていいんだ」と思えた

女性は、友人に被害を打ち明けたときの反応が印象に残っているという。

「軽蔑されるのではないか、自分が悪かったのではないかと思っていました。だから、代わりに怒ってくれたことがすごく意外で『自分も怒っていいんだ』と思えました」

病院ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。現在も精神科への通院を続けながら、少しずつ、自分を責める気持ちそのものが被害によるものだったと認識できるようになってきたという。

●「何もなく生きてみたかった」

近年は、成人から未成年へ、また教育者から児童・生徒へと向かう性的グルーミングの深刻さも、ようやく社会に知られ始めている。

女性は当時を振り返り、こう語る。

「運動を続けられなくなったら、自分は死んじゃうんじゃないかなと思うほどでした。何かを頑張っていたら、その世界しかないと思い込みがち。自分の場合は(コーチに)従っておけばいいと思っていて、おかしいとは思えなかった。

雑に扱われたり、抑圧されていたりしても、渦中にいるとそれが普通になってしまう。10代の成長の時間は戻ってこないので悔しいし、何もなく生きてみたかったという気持ちがあります」

男は昨年までコーチを続けていたが、逮捕後は無職になっている。