「彼らは“負け組”ではない」――在日中国人ジャーナリストが3年間、荒川河川敷のホームレスに密着して見たもの
◆「ホームレス」の存在が象徴するもの
――本書の中で、若年ホームレスについても書かれていますね。
はい、第6章ではホームレスの中で比較的若い40代のホームレスを取り上げています。彼はいろんな原因で仕事や家庭に辟易して、大阪から東京の荒川の河川敷にたどり着きました。彼はもともと野外生活に抵抗がなく、“理想の居場所”として河川敷を選んだのです。一年弱の間ホームレス生活を体験してから、生活保護を申請し、現在は支援施設を経てアパートに移ることができました。これからは職業技能訓練校でAIを学びたいと言っています。若い人ほど、適切なサポートがあれば変わっていけます。そのことも、本書で伝えたかったことの一つです。
あとがきにも書きましたが、私はホームレスの存在は「日本という国の民主・自由・人権の最も有力な証明だ」という結論に至りました。日本では人々が自由にライフスタイルを選択でき、たとえホームレスになっても、警察に乱暴の手段で排除されることはほぼありません。ホームレスであっても、生活保護を申請する権利があります。自由、民主、人権多方面の統制の厳しい中国から来た私には、それがとても大事なことだと考えます。私が3年間で河川敷にいるホームレス達と付き合って形成した新視点として、率直に言えば、日本のホームレスが存在していることに、意義と価値があるではないかと強く感じています。それは日本人の独特の文化的背景とつながっているとも思います。例えば「他人に迷惑をかけない」という日本人の美徳がありますね。しかし、本当に困難に直面する人にとって、その美徳を破って他人に助けを求めるか、そしてその美徳を守って自死をするか、時としてその二つの選択しかないと思い詰められた人を自ら絶命へと向かわせるでしょう。実は、そのほかに第三選択肢があるんです。それはホームレスになること。そうすれば、生き続けるための希望に向けて新たな「緩衝期間」を得ることができます。ホームレスは命の延長線上にある最後の選択肢なのです。
趙海成(チャオ・ハイチェン)1982年に北京対外貿易学院(現・対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年来日。日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻後、日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CEメディアハウス)『河川敷の「原住民」――令和ホームレスの実像』(扶桑社新書)など。
