萬福寺の準公式Xの秘密を教えてくれた「中の人」

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 黄檗宗(おうばくしゅう)の大本山・萬福寺。寛文元(1661)年、インゲン豆を日本に伝えた隠元禅師が開いた歴史を有し、江戸時代に建てられた大雄宝殿、法堂、天王殿の3棟が国宝、そのほかの多くの建築が重要文化財に指定されている由緒ある京都の寺院だ。

 そんな萬福寺の情報発信を行う“準公式X”が話題を呼んでいる。「国宝なのに空いている」などと自虐ネタを連発し、自身の宗派である“黄檗”を「読めない」と言ってのける。その奔放かつ破天荒なポストに人気が集中しているのだ。

 いったい“中の人”は何者なのだろうか。そして、萬福寺は本当に空いているのか。筆者はさっそく現地を訪問した。【取材・文=山内貴範】

【写真で確認】オーバーツーリズムとは? 世界的観光都市・京都の古刹で国宝なのに…なぜかいつもガラガラな萬福寺の様子

土曜日に訪問したが

 取材のために萬福寺を訪れたのは、3月28日、土曜日である。前日、筆者は京都に宿泊したが、新京極や河原町などの繁華街は昼夜を問わず混雑していた。萬福寺は交通の便も決して悪くない。むしろ、最寄りのJR黄檗駅からも徒歩5分で行けるという、京都の名刹のなかでも屈指の利便性の高さである。

萬福寺の準公式Xの秘密を教えてくれた「中の人」

 土曜日の午前10時、さぞや混雑していると思いきや……。失礼ながらガラガラである。伏見稲荷大社や清水寺などは今頃、観光客で混雑しているはずだ。しかし、萬福寺は嘘偽りなく、本当に空いているのである。

 この記事に掲載している写真は、すべて取材日当日に撮影したものだ。こうしたお寺の取材の場合、参詣者のプライバシーに配慮し、顔が写らないよう気を付けて、誰もいなくなってから撮影する。だが、萬福寺の場合、まったく待たずに、人が一人も入らない写真が撮影できてしまった。ここが京都であることを忘れてしまったほどである。

 さて、筆者は“準公式X”の中の人にコンタクトを取ることに成功。萬福寺が空いている理由、そしてXの運営の仕方について根掘り葉掘り話を聞いた。

Xを始めたのはコロナ禍がきっかけ

――まずは、萬福寺の準公式Xが立ち上がった経緯から教えてください。

中の人:本格的に運用が始まったのは2020年の4月からで、当初は“準公式”ではなく、“公式”扱いでした。始めたきっかけはコロナ禍です。コロナ禍の外出自粛で拝観を取りやめたり、イベントをはじめ、様々なことが中止になりました。そんな中、何かしなきゃいけないと思い、私たちが寺の役員に「Twitter(注:当時のXの名称)でも、やったらどうですか」と提案したのです。

 といっても、役員はSNSを触ったことがない人も多いんですよ。そこで、原稿用紙にいろいろメッセージを書いてもらい、持ち回りでつぶやいてもらうスタイルにしました。ちなみに、原稿用紙は黄檗宗が発祥なんですよ。知っていましたか?

――知りませんでした。

中の人:そんな原稿用紙に書かれた言葉を私たちがパソコンで打ち込み、最初は1日1本のUPを目指して運用していました。しかし、最初のうちはまずまず見られていたのですが、だんだん持続が難しくなったといいますか、投稿もサボりがちになった結果、いつしか更新が止まってしまいました。

 このままではいけないと思い、誰もやらないんだったら、私たちが遊ばせてもらおうということで、“準公式”を名乗り、現在のスタイルで投稿を始めたというわけです。ちょうど、TwitterがXに変わった、2023年頃だったと思います。

嘘偽りなく、空いている

――なぜ、“空いている”ことを、殊更に強調するようになったのでしょうか。

中の人:嘘偽りなく、萬福寺は空いているからです。今日も空いていましたからね。

――他のお寺のXと、差別化を図ろうという狙いはあるのでしょうか。

中の人:他のお寺のXでは、「境内の桜が咲きました」のような話題で、“1000いいね”がつくことがあります。私どもは後発ですし、有名なお寺に対抗しても勝てないと思いますから、違う方向を目指したというのはありますね。ただ、“誰も傷つけない”投稿をするようには心がけています。

――なるほど。ただ一方で、萬福寺の境内に京都の有名なお寺の拝観券が落ちていることをネタにして、ライバル視するようなポストもありましたが。

中の人:戦っても勝てないところには、どんどん絡んでいくスタイルです。それに、向こうもどうせ、萬福寺を相手になんてしないでしょうから(笑)。

宇治市には世界遺産の寺があるので……

――2024年12月、大雄宝殿、法堂、天王殿の3棟が国宝に指定されました。

中の人:普通はそういったトピックを活用して、もっと売り出して行くべきなんでしょうけれど、いかんせん、萬福寺は外への情報発信がうまくありません。参詣者のみなさんも、「国宝なんですね」って、来てから気づくような感じです。したがって、国宝効果はめちゃくちゃ大きいわけではないですね。

 それに何と言っても、宇治市内には、すぐ近くに“世界遺産に登録されている有名なお寺”がありますから……(笑)。向こうは、国宝であるうえに世界遺産。萬福寺はとても敵いません。そんなこともあって、依然、空いているのだと思います。

――とはいえ、萬福寺は国宝ですよ。それで空いているのが不思議なくらいです。

中の人:逆に質問なのですが、なぜ空いていると思いますか(笑)?

――観光ガイドブックなどでの露出度が低いからではないでしょうか。建築や文化財が好きな人は物凄く好むお寺だと思いますし、万人受けよりも、マニアックな需要を汲んだほうがいい気もします。

中の人:なるほど。空いているのには、いろいろな要因があると思うんですよ。例えば、清水寺さんだと参道の両側にお店があって、賑わっています。萬福寺も昔は門前に参道があったのですが、今はありません。駅からお寺に向かうまでの雰囲気も、影響しているのかなと思ったりしますね。

――逆に、萬福寺のコアなファンからは、空いているほうがいいという意見も寄せられているのではないかと思います。

中の人:たまにXのポストがバズると、そういうお声をいただきますね。萬福寺はたくさんの修行僧がいる修行の場でもあります。あまり賑わいすぎてもどうかと思いますので、そのあたりのバランス加減が難しいところではあります。

萬福寺と「響け!ユーフォニアム」

――バズるといえば、中の人がポストする自虐ネタは本当に面白いです。“黄檗”を“読めない”というネタが最近ありましたが、笑ってしまいました。

中の人:それは、しょっちゅう言われることなんですよ。それこそずっと、はるか昔から言われ続けていることなんですよね。とある大学の入試問題で、“黄檗”の読み方を答える問題が出たそうですが、正答率は1割以下だったそうですし。

 黄檗駅はよく、難読駅名の一つに挙げられます。そもそも、正しい読み方は“おうばく”なのですが、スマホで“おおばく”と入力してしまい、「検索しても出てこない!」とお叱りをいただくこともあります。最近は、Googleでは“おおばく”で検索しても出てくるようになりましたが、時刻表検索では対応していないこともありますね。

――黄檗駅には、京都アニメーションのアニメ「響け!ユーフォニアム」のファンも、アニメの聖地巡礼の一環として訪れているようです。

中の人:そういえば、京阪さんの黄檗駅の駅名標が“黄前久美子”駅になったのは、驚きましたね(注:黄前久美子は「響け!ユーフォニアム」の主人公で、“黄檗”と“黄前”をかけて期間限定でコラボ駅名標が設置された)。

 ただ、アニメに登場する「中路ベーカリー」さんは、線路を挟んで反対側なんですよ。だから、ファンのみなさんが萬福寺に立ち寄るには、ハードルが高いかもしれませんね。でも、「響け!ユーフォニアム」の作者である武田綾乃さんも、萬福寺をいいところだとおっしゃっていますから、ぜひ、立ち寄ってくださるとうれしいですね。

中の人の正体は

――ぜひこの機会に、萬福寺のPRをしていただければと思います。

中の人:「黄檗エンジョイフェスタ 2026 in萬福寺」というイベントが、4月25〜26日に境内で開催されます。あと、隠元禅師が伝えた精進料理、“普茶料理”はおいしいですよ。萬福寺では実際に召し上がっていただくことができます。ただ、事前予約制なので、これまたハードルが高いかもしれませんが……。

 境内のトイレがきれいだということも自慢ですので、お伝えします。

――国宝ではなく、トイレを自慢するのが萬福寺らしいですね。最後に肝心なことを忘れていました。中の人の正体を教えていただきたいのですが。

中の人:さて、どうでしょう。ここまで引っ張っておいてなんですが、“秘密”ということにさせてください(笑)。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部