200万人と175万人「佐藤vs鈴木」サッカー対決…同姓でつながるイベント、各地に
同じ姓(名字)の人と会ってつながる動きが広がっている。
姓のルーツとされる地域の自治体などが「聖地」や「ふるさと」としてPRし、全国の同姓の人が集まる交流イベントを開催する動きも。なぜ人との関係づくりで名字が注目されているのか探った。(岩浅憲史)
3月上旬、栃木県佐野市でサッカーの試合が開かれた。その名も「名字のプライドをかけた頂上決戦 佐藤vs鈴木」。佐藤姓、鈴木姓のサッカー経験者計33人が各地から集まり、熱戦を繰り広げた。監督を務めた元サッカー日本代表の佐藤勇人さんと、ものまねタレントのニッチローさんもマイクで舌戦を繰り広げ、応援席では市内の管理栄養士、佐藤沙織さん(49)が「負けるな」とエールを送った。
主催した佐野市などによると、同地は全国に約200万人で最多という「佐藤」姓の発祥の地とされる。平安時代、平将門の乱を鎮めた藤原秀郷が住み、子孫が「佐藤」を名乗り始めたという。
地域活性化に期待
市は2020年、3月10日を「佐藤の日」と定め、PR団体を設立。ゆかりの地の認知度向上を図る「聖地化プロジェクト」に乗り出した。昨年からは「佐藤さん」と全国で姓が2番目に多いとされる「鈴木さん」をサイトで募集し、対決イベントを始めた。調査サイト「名字由来net」によると、「鈴木」姓は全国に約175万人とされる。
市総合戦略推進室の吉沼聖尚さんは「全国の佐藤さんに第二のふるさととして佐野市に足を運んでもらえれば。関係人口の増加や地域活性化が期待できる」と狙いを語る。
千葉県柏市から参加した主将で僧侶の佐藤法明さん(33)は「初対面でも一体感があり、同じ名字の人とたくさん出会えて新鮮だった。また集まりたい」と言う。横浜市の保育士、鈴木飛鳥さん(23)も「ほかの鈴木さんと仲良くなれて、いい思い出」と喜ぶ。
観光面での恩恵もあるようだ。「聖地」の一つで、藤原秀郷をまつる唐澤山神社の宮司、佐野由希子さんは「全国から佐藤姓の方が多く参拝に来ています」と話す。
地域振興につなげる動きはほかにもある。「鈴木姓」のルーツとPRするのが和歌山県海南市。平安末期に移り住んだ藤白鈴木氏が熊野信仰を全国に広め、鈴木姓が東日本を中心に広がったとされる。24年に「鈴木サミット」が開かれ、全国の鈴木さんが交流した。市はサイトで鈴木氏とかかわりがある藤白神社や復元された「鈴木屋敷」の魅力を発信。鈴木姓の人を対象に東京圏から市内への移住支援金制度も設ける。
住民の2割が「井(い)」姓という熊本県産山(うぶやま)村では11月3日を「井さんの日」と定めた。同じ姓の人が集まるイベント「全国井さん祭り」を村民有志が23年から毎年開く。
名字研究家の森岡浩さんによると、姓は古来、地形や自然、職業などにちなむものが多く、特定の地域で同姓の集団が暮らしてきた経緯がある。「ムラ社会での人とのつながりが現代では希薄化する中、地方に根付く姓のルーツへの関心が高まっている」とみる。地域性があり、街おこしにも生かせると説く。
西日本に多い「田中」姓の歴史を研究する会社役員の宇野秀史さんは「姓のルーツや歴史を知ることでアイデンティティーを形成できて愛着や誇りが持てる。同姓のネットワークへの参加は心理的なハードルが低く、人との関係づくりで有効だ」と強調する。
核家族化し、親戚関係が希薄化する中、ネットで同じ名前の人を見つけるとはっとする。親しみのある同姓グループの交流には、仕事や立場を離れた「個」の居心地の良さがあるのかもしれない。
「拡張親族」のような存在
30年以上、同姓同名の人(同じ読みも含む)とつながる活動に取り組む一般社団法人「田中宏和の会」代表理事の田中宏和さん(57)に同姓などでつながる意義を聞いた。
田中さんは趣味で活動を始め、サイトなどで発信しながら、交流会を開いてきた。「デジタル社会だからこそ、同姓などのつながりでゆるく楽しく交流できる」と指摘する。親しみや絆を感じ、「他人とは思えない『拡張親族』のような存在になる」と言い、バスツアーやライブを開いたり、結婚式や葬儀に参加したりすることもある。
「つながりによって連帯感やパワーなどが生まれる。SNSの普及などに伴う分断、孤独などの社会的な課題を乗り越える方策の一つにもなりうるのでは」と話す。
