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「自己破産したけれど、知人からの借金だけは弁護士にも隠していた」--そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

相談者によると、その知人は、相談者が自己破産することは把握していたといいます。破産後、返済のことで話し合いをすることになりましたが、その際、知人から給料明細やボーナス明細の提示を求められたそうです。

相談者としては、無理のない範囲で返済したいと考えているものの、契約書の作成なども求められており、想定したよりも月々の負担が重くなることを懸念しています。

そのため、やはりこの知人に対する債務も破産手続きによって消滅してほしいと考えているようです。

「特定の人からの借金だけはきちんと返したい」という気持ちはわかります。しかし、この進め方には非常に大きな問題があります。以下、解説します。

●破産手続きで特定の債権者を申告しなかった場合、どうなるのか?

相談者は、「自己破産後に、落ち着いてから返済しようと思っていたから」と言っていることから、破産してもこの知人からの債務だけは残ることを認めていたように思われます。

破産法上も、今回の破産手続きでは知人との間の債権には免責(=破産により借金をチャラにすること)の効果が及ばない可能性が高いです。

同法253条1項6号は、「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」については、免責の効力が及ばないと定めています。

つまり、意図的に名簿から外した知人への借金は、破産しても免責の対象外となってしまい、支払い義務が残っている可能性があります。

支払い方法(月額など)は知人との相談次第ですが、相談者の希望が通らない可能性はあります。

●債権者名簿に記載されていなくても、免責される場合もある

ただし、同号には例外があります。その債権者(本件では知人)が「破産手続開始の決定があったことを知っていた」場合は、名簿に載っていなくても免責の効力が及ぶとされています。

今回の相談では、この知人は相談者が自己破産することを知っていたそうですが、この表現は少し解釈が難しいところです。

同条で免責の効力が及ぶ場合の要件は、破産手続「開始の決定があったこと」を知っていたことであり、「いつか自己破産するつもりだと知っていた」とは別物です。

たとえば、弁護士からの受任通知(「依頼者の破産申立てを受任した」という通知)を受け取っていた程度では、「開始決定を知っていた」とは認められないとした裁判例もあります(東京地裁平成29年5月31日判決など)。

以上より、知人の債権について、破産により免責されたと主張できない可能性があります。

●免責全体が取り消されるリスクがある

そもそも今回のケースでは、免責全体が後から取り消される可能性があります。

破産法254条は、「不正の方法によって免責許可の決定がされた場合」、その決定後1年以内に債権者が申立てをすれば、免責が取り消されると定めています。

相談者が意図的に特定の債権者(知人)を名簿から外した行為は、「不正の方法」に当たる可能性があります。この場合、免責全体が取り消され、借金がすべて残ってしまうリスクがあります。

なお、今回のケースでは、債権者である知人を隠して申立てをしたことが露見せずにすでに免責を受けているようですが、虚偽の記載をした債権者一覧表を提出することは免責不許可事由ですので(破産法252条1項7号)、破産手続きの中で発覚した場合には、そもそも免責そのものが認められないリスクがあります。

●こういう進め方をしてはならない

「知人への借金だけ隠せば、後でこっそり返せる」という発想は非常に危険です。

上で説明したように、免責が認められなかったり、後で取り消されるリスクがあります。

また、破産手続きを進めるということは、お金に困っているわけです。知人への債務が残ってしまうと、経済的な再建が困難となるおそれがあります。金額によっては破産をした意味が失われかねません。

弁護士は、一部の債権者を意図的に隠す進め方は勧めません。

知人への借金も含め、正直に全員を名簿に載せた上で手続きを進めるべきです。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)