賞金30億円を賭けた明治時代のバトルロワイヤル!『イクサガミ』の原作はNetflixでも描ききれない破壊力だった!

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STVラジオ(北海道)でパーソナリティを務める、ようへい氏によるPodcastの書評番組。今回ご紹介するのはNetflixドラマで話題を呼んだ有名作です。映画のようなクオリティでのドラマ化ということで、周囲で話題になっているかもしれません。10代〜20代にも人気というこのシリーズ、原作の面白さもやはりズバ抜けているようです。

エンタメ系時代小説の最高峰!

こんにちは、北の読書大好き芸人・ようへいです。

前回、「本のエンドロール」を紹介した際、著者の安藤祐介先生が番組の公式Xに丁寧にお礼のメッセージをくださいました。ありがとうございました。

さて、本の中には「劇薬」と言えるような、読後しばらくそのジャンルの作品はいいかな……と、お腹いっぱいになってしまう、「山の頂」のような作品があります。私の場合、SF小説が大好きで過去に随分と読んできましたが、中国のSF作家・劉慈欣の『三体』という三部作を読んでから、あれだけ読んでいたSFを全く読まなくなってしまいました。それくらい『三体』を超えるSFに生きている間に出会える気がしないのです。

それと近い感覚になる時代小説に出会ってしまいました。そもそも時代小説を読むようになったのは落語家になってから4〜5年で、一生分と言える量の作品を勉強のために読みました。主に藤沢周平さん、池波正太郎さん、司馬遼太郎さんなど王道の作品を読んできましたが、そこにとどめのデザート……いや、まだメインディッシュが出ていなかったのだと思える作品に出会ってしまったのです。

今村翔吾『イクサガミ』

この作品は2025年にNetflixでドラマ化されているので、ドラマを見たりタイトルを知っている方も多いのではないでしょうか。原作も面白いとは聞いていたのですが、時代小説に関しても既に「お腹いっぱい」だったので読んでいなかったのです。ただ、Netflixの予告やあらすじを見ると「これは面白そうだな」と思い、どうせならと、ドラマの前に原作を手に取りました。

そうしたら、もうお腹パンパンになりました(笑)。面白くて仕方がない。

まずはこの『イクサガミ』、「天・地・人・神」の全4巻からなる大長編時代小説です。舞台となるのは戊辰戦争から10年後の1878年(明治11年)。この時代、武士は廃刀令もあって牙を抜かれた状態で、仕事もなくコレラ(疫病)も流行っており、困窮を極めていました。

そんな折、全国で「怪文書」が出回ります。そこには「武芸に優れた者、本年5月5日、京都天龍寺に集え。金10万円を得る機会なり」と書かれていました。当時の10万円は、今の価値で言うと30億円くらいでしょうか。この大金を求めて全国から腕自慢の292名が5月5日に京都天龍寺に集結します。

そこで開催されるのが「蠱毒(こどく)」という催しです。ご存知の方もいるかもしれませんが、蠱毒とは大量の虫を一つの容器に閉じ込めて殺し合いをさせ、最後に生き残った虫には強力な呪力が宿るという中国最強の呪術です。これが何を意味するのか。そう、ここに集まった腕自慢たちに殺し合いをさせ、ナンバーワンを決めるということです。

ただし、ルールは集まった天龍寺でいざバトルロワイヤルという単純なものではありません。「1人1点」という点数(木札)を持って、道中のチェックポイントを規定の点数以上持った状態で通過し、最終的に東京に期限内に集まれというものです。つまり、京都から東京までの間に参加者同士で点数を奪い合って生き残り、東京にたどり着き、さらにそこでたどり着いた者たちで第2ステージが行われるということです。

点数上、9名が東京にたどり着く計算になりますが、まずは始まりの合図とともに、この天龍寺から抜け出すために自分の1点を含めて2点が必要です。だからあと1点必要になります。早速この境内で血で血を洗う斬り合いが始まります。もちろんこんな命のやり取りだと知らずに参加した者もいるので、恐れをなして逃げ出そうとしますが、そういった者たちは主催者側に鉄砲で撃たれるなどして殺されてしまいます。とにかくここから脱出する(生きていく)ためには、点数を集めて東京に向かうしかない状況に参加者は陥ってしまいます。

のちに分かることですが、参加者は常に監視されており、警察に駆け込もうが何をしようが、蠱毒のルールから逸脱した者は抹殺されるという厳しいルールなのです。

そんな物語の主人公は、かつて「人斬り刻舟(こくしゅう)」と恐れられた嵯峨愁二郎(さが・しゅうじろう)という剣豪です。彼は妻と子を病から救うために、二度と抜かないと決めていた刀を持ち、天龍寺に向かいます。その境内で「双葉(ふたば)」という女の子と出会います。この子もお母さんや村の子供たちの命を救うために蠱毒に参加してしまったのですが、こんなデスゲームだと彼女も分かっていなかったわけです。

この場では無力で、すぐに命を奪われてしまうような儚い存在である小さな女の子。主人公は、この子の命も守りながら、時に蠱毒の参加者と共闘し、一路東京に向かいます。

果たして292名中、誰が生き残り東京にたどり着くのか。そしてそもそもこの蠱毒、なぜ開催されているのか。ただの金持ちの座興なのか、それともそこには深い理由が隠されているのか。徐々に明かされていくその真相とは。

実在の人斬りや歴史上の偉人も登場させて虚実ない交ぜのストーリーなのですが、いささかの誇張もなく、退屈するシーンが1ページもありません。主人公だけでなく様々なキャラクターの描写が出てきます。かつて忍びだった男や、公家の家のお家再興のために参加した心優しき無双の剣士、アイヌの弓の名手、戦うことこそ人生の目的と武器を振るうヒール役の男、斧の使い手であるイギリスの軍人が参加していたりなどなど、これでもかという魅力的な登場人物が目白押しです。

主人公だけでなく、彼らがなぜこの蠱毒に参加したのか、その背景も描きながら展開していくので、読んでいると必ず「推し」の剣豪(キャラクター)が見つかると思います。「あ、こいつ最後まで残ってもらいたいな」「好きだな」という推しのキャラができたとしますよね。その推しキャラが脱落した時(つまり殺された時)の喪失感は呆然としますよ。それだけ物語に没入して登場人物に感情移入できる作品となっています。

そしてもう一つ、この作品の肝となるのが、主人公・嵯峨愁二郎という伝説の一子相伝の剣術の使い手ですが、この流派は親を失った子供8人が虎の穴のようなところで育てられ、兄弟のようにして育ち、最終的にその8人で斬り合いをして勝ち残った1人が後世に繋いでいくという剣術の流派なのです。

兄弟で戦いたくない主人公はここから逃げ出しているのですが、それは嵯峨愁二郎にとっては「掟破り」ということで、残りの7人もこの「幻刀斎」という謎の剣豪に命を狙われることになります。その兄弟たちと、幻刀斎も実はこの蠱毒に参加しているため、嵯峨愁二郎の因縁もかかった戦いとなります。

主人公を含めてこの兄弟、相当な腕の持ち主(技量の持ち主)なのですが、幻刀斎はその比ではありません。もう化け物です。どうやって勝ち残り生き残っていくのか。本当にワクワクしてしまうエンタメ全部乗せのようなストーリーです。

私は『ルパン三世』や『あずみ』で育った世代ですから、もうたまらないのです。最近だと『鬼滅の刃』が好きだった人にも刺さってくる作品ではないでしょうか。正直、それらをまだ読んでいなくても、「この作品は楽しめますよ」と自信を持っておすすめできます。

さあ、誰が生き残り、東京でどのような結末を迎えるのか。ちょっとでも知りたいですよね。実は、私知らないのです。「最終巻の『神の巻』まだ読んでないの?」という声が聞こえてきそうですが、天・地・人の巻まで読んだのは1ヶ月以上前で、読む時間はたっぷりありました。なぜ最終巻の『神の巻』を読んでいないかというと、この小説があまりにも素晴らしすぎて、どうにかしてささやかでもいいから著者の今村翔吾さんにお礼がしたいと思ってしまったのです。

そう考えた時に、今村さんは全国で大阪や佐賀、東京など3店舗ほど書店の運営に携わっています。なので、最終巻はそのどこかの店舗で買って読もうということで、まだ購入していないのです。

もう読みたくて仕方がないですよ。近々どこかのお店に行って購入し、またどこかのタイミングで紹介するかもしれません。

そしてNetflixのドラマも併せて見たのですが、すごいですよこれ。「Netflixは『イクサガミ』を見るために入るサブスクだ」と言えるくらいの仕上がりです。潤沢な制作費があるのでしょう、役者もセットもしっかり作り込んでいて存分に楽しめます。

「この役、誰やるのかな?」と思ったら「あ、この役者さんやるんだ!」なんていうところも楽しめますが、ただ長大なストーリーなので、どうしても時間の関係で端折らなくてはいけない部分が映像化にあたって出てきます。なので正直、原作の10分の1くらいの面白さです。ですから、原作がどれだけ面白いかということです。

今村翔吾『イクサガミ』

あれこれ話しましたが、伝えたいことは一つです。「まだ読んでいない方も、今すぐ買いに行きましょう」絶対に後悔しない作品だと思います。もう少し私の紹介が早ければ、「ようへい選書」に100%入れていた作品です。

今回も「ようへいの時短ブッククラブ」にお付き合いいただきましてありがとうございました。

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それでは皆さん、素敵なブックライフをお過ごしください。

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