“考古学者の卵”のリアルな日常──考古学を志したきっかけは?「#2 大学生活編」【3か月でマスターする古代文明】
2025年秋に放送され大好評を博した、NHK「3か月でマスターする 古代文明」。
その講師陣によるアンソロジー企画『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上 ~トルコのギョベックリ・テペ遺跡からメソポタミア、ヒッタイト、エジプト、インダス、中国まで』が発売されました。
6つの文明を紹介する上巻のトップバッターは、「3か月でマスターする 古代文明」の「第1回 衝撃!最古の巨大遺跡 見直される“文明の始まり”」で講師をつとめた筑波大学教授の三宅 裕先生です。
(全2回の第2回。聞き手・編集部)
『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上』書影
西 勇樹(にし・ゆうき)さん
2004年12月生まれ。筑波大学人文・文化学群人文学類で、 考古学・民俗学主専攻の先史学・考古学コースで考古学を学ぶ“考古学者の卵”。
写真:シャンルウルファ考古学・モザイク博物館にて
──では今回は、西さんが「考古学」を学ぶことになったいきさつや、大学での生活について伺っていきたいと思います。
大学受験のときから、専攻は「考古学」と決めていたのですか?
大学受験の時から専攻は考古学に決めていました。というのも、昔から歴史学に興味を持っていたのですが、一時期興味が別方向にあってオープンキャンパスは他の学問で申し込んだところ、抽選に漏れてしまい……。募集中だった人文学類の考古学に登録して参加し、「モノから人類史を再編する考古学」に大変興味を惹かれました。五感を使って観察することで、わずかな違いを発見し、それらを整理、分析することで人類史のまだ分かっていないところを埋めていく学問、と感じました。
実は、そのオープンキャンパス担当の先生が、現在の指導教官である板橋悠先生(筑波大学人文社会系准教授)でした。理系分野への関心もあった私は、板橋先生の専門分野でもある同位体分析を用いた生物考古学や、理化学分析を融合させた考古学研究に特に関心を持ち、受験を決めました。現在は、遺跡から発見された動物の歯を同位体分析することで、家畜がどのように飼育、管理されていたかを探っています。
──西さんはどんな少年だったのでしょう?
長崎県出身で、海辺の街で過ごしました。幼少期からスリリングなことが好きで、高い木に登ったり、立ち漕ぎしたブランコから飛び降りたり、滝つぼに飛び込んだりするような子どもでした(たまに大けがしていました)。3歳頃から高校生まで空手道をしていて、最初はイヤイヤでしたが、今思えば楽しかった気がします。幼稚園から中学校まで地元から少し離れた国立の学校に通っていたので、県南各所に友人ができました。結果的に地元の友達は少なかったため、夏休みに地元のラジオ体操に行くと「誰だ、あいつ」って目で見られました。なんとなく、高校生活は新しい人間関係の中で暮らしたくて、同じ中学からあまり人がいかない高校に進学しました(幼なじみが1人だけ一緒でしたが)。高校では陸上部に入りました。投てきや400mハードルをやったり、混成競技(十種競技など)をやったり。陸上のなかで混成競技を選んだ理由は、飽きっぽいというのもあるのですが、どうせ大会に出るなら長い時間出たいなと思ったのも理由です(笑)。でも、色々経験してわかったのは「1つのことを極めた人には勝てない」ということでした。これは研究にも通じるなと今思っています。
──ふだんの学生生活について伺えますか?
普段はほぼ毎日、大学の実験室にこもっています。朝、実験室*に来て、授業に出て、また実験室に戻るような生活を送っています(写真⑭⑮)。
*「実験室」は、院生や学部生が実験や、勉強などに使える部屋。板橋ラボの同位体分析にかける遺物の前処理をする実験室などもある。
⑭つくば市で先輩たちとフィールドワーク中の様子 ⑮実験室で居眠りしているところを撮られました
⑭つくば市で先輩たちとフィールドワーク中の様子 ⑮実験室で居眠りしているところを撮られました
実験室でしていることを具体的にあげると、論文を読み進めたり、夏にチャクマックテペで行った測量実測図をきれいに編集する作業を行ったり(写真⑯)、また、古典的な考古学の名著を回し読みする(輪読)会や、自分が今興味を持っているテーマについての考察を発表する、などです。
⑯チャクマックテペにて図面をとっているところ
また、実験室にはお馴染みの先輩方がいるので、お話したり、ごはんを食べに行ったりするのが楽しいです。もちろん、学類の同期の友達と過ごすのも楽しく、一緒に博物館に行ったり、旅行に行ったりしています。
休みの日にはアルバイトをしています(5つ掛け持ち中!考古学関連から飲食店まで幅広く……笑)。勤務先の皆さん方と過ごすのも楽しく、考古学関連のアルバイトで埋蔵文化財調査もしているのですが、私の発掘技術のほとんどはここで教えていただいたものです。大学の授業でも発掘調査の実習はありますが、そこで学習することはあくまで基礎知識。「土の変化を観察する」「図面を描く」などは、日頃から行うことで身についてくることだと思います。筑波大の考古学が特に現場主義というところもあるのかもしれませんが、皆、割と自分で動いて情報を集め、そこから学びを広げたり、深めたりするのが当然と思っているかもしれません。
それこそ、アルバイト先での話題から、つくば市の古墳調査に自ら名乗りを上げ、地権者探しから段取りを重ねて2年間ほどの準備期間ののち、今年から調査を行っています。また12月は調査兼実習で、茨城県土浦市にある常名天神山古墳(ひたなてんじんやまこふん)前方後円墳の発掘調査を行っており(写真⑰)、ほぼ毎日調査に行き、帰学したら実験等をして寝る、の繰り返しでした。
⑰土浦市常名にある前方後円墳で行われている調査に参加
──いちばん楽しい時間は何をしているときですか?
楽しい時間は2つあります。「博物館にいる時間」と「日の出を見ること」です。
「博物館浴」*1という言葉があるように、博物館はいつ行っても大変おもしろく、充実した時間を過ごすことができます。特に東京国立博物館や千葉県にある国立歴史民俗博物館(歴博)に行くことが多いです(歴博の研究者である、箱崎真隆先生の「筋トレ部」*2で筋トレもします!)。
後者については、たまにしかしないのですが、深夜に家を出発して海辺で日の出を見ます。今までで一番きれいに見えたのは茨城県高萩市の伊師浜海岸です。トルコでも日の出ウォッチを日課にしていて、調査最終週には、とてもきれいな日の出がみられました(写真⑱)。
⑱トルコ滞在の最終週に見られた壮大な日の出
*1「博物館に行くと元気が出る」「美術作品を見ると癒やされる」といった感覚について、九州産業大学を中心に科学的に検証し、「博物館浴」として健康増進や疾病予防に活用するための研究が行われている。
*2歴博の職員全体の健康維持を目指し、箱崎准教授が実践している筋トレのこと。准教授の研究室には「道場」と掲示されている。
──将来の夢は何ですか?
将来は研究者を志望しています。今後は大学院に進学し、自身の専門分野で研究を行っていきたいと考えています。具体的には、考古科学(同位体分析)と動物考古学的な研究を新石器時代以降の西アジアを対象に行いたいです。現在はシリア北西部の新石器時代~鉄器時代の遺跡出土の動物骨の同位体分析や形態分析を用いて、放牧をはじめとした家畜飼養の在り方やその展開について調べており、今後はより発展させた内容で調査を継続していきたいと考えています。
──将来「考古学」を専攻してみようと思っている学生さんたちに伝えたいことはありますか?
やはり、遺跡や遺物などを自分の目で見てほしいと思います。大学で考古学を専攻していると授業や勉強会で多くの遺跡や遺物について学びます。それを自分の目で見たことがあると、理解は一層深まりますし、逆に対象について学習した上で訪れてみると、感動はひとしおです。私は1年生の頃、三宅先生の授業で栃木県の寺野東遺跡という縄文の大規模集落について勉強したことがあったのですが、3年生になって巡検した時は「これが……!」と感動した記憶があります。
現在の私の研究テーマは放牧をはじめとした西アジアでの家畜飼養です。西アジアでヒツジやヤギは基本的に「日帰り放牧」という形態で飼養されるのですが、実際にチャクマックテペの現場で放牧の様子を見たときの感動と興奮は忘れられません(写真⑲)。考古学はモノを対象にする学問ですから、自分の五感を使って観察する力を養い、大切にしてほしいですし、実際に見たという経験は研究を続ける、続けないに関わらず、一生の宝物になると思います。
⑲-A,B 放牧の様子 調査を行っているチャクマックテペに、放牧で来たヒツジとヤギ
⑲-A,B 放牧の様子 調査を行っているチャクマックテペに、放牧で来たヒツジとヤギ
⑲-C トルコ南東部・ハラン平原東部の灌漑農地において放牧される家畜の様子
自分が打ち込みたい学問を見つけ、日々全身全霊で向き合っている様子が伝わってくる“考古学者の卵”のリアル、いかがでしたでしょうか。
「3か月でマスターする 古代文明」を通し、こうした学びに取り組む大学生に出会う機会を得てここでご紹介できることを、大変幸運に思いました。講師の先生方も「調査・研究は自分の代で完結するものではなく、この先も継承していくことが重要」とおっしゃっていましたが、未来を託す研究者が育っていく様子、今後も応援し続けたいですね。
西さんが調査に参加したトルコ南東部のシャンルウルファ周辺地域では、「タシュ・テペレル(トルコ語で「石の丘」)プロジェクト」と呼ばれる大規模な発掘調査が行われています。
そこではNHK「3か月でマスターする 古代文明」でご紹介した「定説を覆す!」説を、さらに覆すかもしれない調査結果が……!?
そんな「考古学は現在進行形」をリアルに実感できるムック『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上』は、トルコのギョベックリ・テペ遺跡やメソポタミア、ヒッタイト、エジプト、インダス、中国という6つの文明について、その研究・調査の“いま”を6人の考古学者が解説。各文明そのものへの理解を深められるのはもちろん、「考古学」「考古学者」の魅力も満載の1冊です(下巻は5月発売予定)。
