「逆転勝訴」のハンターが語る「ヒグマとの戦い」の真実 「このままじゃヒグマ駆除なんて誰もしなくなっちゃうよ」
7年前に猟銃所持の許可を取り消された北海道のハンター・池上治男氏(77)が処分の撤回を求めた裁判は、最高裁で逆転勝訴となった。猟銃所持の取り消し処分について最高裁が違法の判決を下したのは初めてという。その経緯を池上氏に語ってもらった。【全2回・前後編の前編】
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北海道の中央部に位置する砂川市からヒグマ駆除の要請を受け、池上氏が別の男性ハンターを伴って出動したのは2018年8月のことだった。北海道猟友会砂川支部長を務める池上氏は見事一発でヒグマを仕留めた。
ところが翌年になって、池上氏が民家に向かって発砲したとして、砂川警察署が池上氏を鳥獣保護管理法違反と銃刀法違反の容疑で書類送検した。滝川区検察庁は不起訴としたが、今度は道公安委員会が池上氏の猟銃所持許可を取り消したのだ。

市の要請を受けてヒグマを駆除したのになぜ? 池上さんは20年5月に処分の撤回を求めて札幌地裁に提訴する。ここから7年にわたる法廷闘争が始まった。
21年12月、札幌地裁は池上氏の主張を認める判決を下したが、道公安委員会を所管する北海道が控訴。
24年10月、札幌高裁は一審裁判決を取り消し、池上氏の主張を退けたため今度は池上氏が上告した。
そして3月27日、最高裁が池上氏の主張を認める逆転勝訴となったのだ。
「いやあ、7年は長かった」
とは、当の池上氏である。それにしてもなぜ、それぞれの裁判所でまるで違う判決となったのだろう。
跳弾
「札幌地裁はそもそも建物に銃弾が当たっていないこと、そして銃が建物の方向を向いていたというけれど、建物は5メートルの高台にあって――真上から見た2次元の図面なら建物に向けて撃ったように見えるけど――、3次元で見たら銃は建物に向いていないことを認めてくれたんです。一方、札幌高裁では弾丸が岩などに当たって跳ね返る“跳弾”を重視し、危険だったということで負けたんですよ。でもね、そんなこと言われたら誰もヒグマ駆除なんて出動できないですよ」
――でも、池上さんの弾はヒグマ以外に当たっていないのでは?
「それがね、連れて行ったもう1人のハンターがね、ヒグマを駆除した後におかしなことを言い出したんだよ。俺の撃った弾がヒグマを貫通した後に跳弾して、彼のライフルの銃床に当たったと……。俺がヒグマを撃った後に、彼が念のためとどめを刺しているんだけど、銃床が貫通した銃でとどめが刺せるのかね」
札幌高裁は跳弾による銃床の破損も重視した。その銃の持ち主は、今回の判決文にも現れるC隊員のことだ。《本件ライフル銃から発射された弾丸は、本件ヒグマを貫通し、C隊員が把持していた猟銃の銃床に当たって貫通した》とある。
ハンターに寄り添った最高裁
最高裁判決は続けて《本件発射行為によってC隊員に具体的な死傷の結果が生じたことはうかがわれないことにも鑑みれば、上告人が個人として受けている本件許可を取り消すことは、上告人に酷な面がある》として、銃床の破損を問題視していない。それどころか、こうした処分を行ったことが、民間人が鳥獣の駆除に《任命されること自体をちゅうちょさせる》《職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼ》すことを危惧している。
その上で最高裁は、道公安委員会の取り消し処分は《社会観念上著しく妥当を欠き、本件処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法》と断じた。
「あくまでも高裁の事実認定を認めつつも、我々の言い分を認めてくれました。25年度は砂川だけでもヒグマの出没が200件を超えまたからね。本来なら警察が行うべき駆除を我々猟友会が代行しているわけです。それを違法とされたら担い手がいなくなってしまいます。それは弁護士の先生方も同じ考えだったと思います」
逆転判決後に行われた記者会見では、3人の代理人たちが高裁判決を引き合いにしながら最高裁判決がいかに画期的なものかを熱弁した。池上氏も言葉少なながら質問に応じた。
ところが、ある質問で池上氏が一変した。
後編の【なぜハンターは「朝日記者」の質問に反論したのか 「本当に可愛いんだったら箱罠に入ったヒグマの頭を撫でに来い」】では、池上氏が記者会見で朝日新聞の記者に反論した理由を語る。
デイリー新潮編集部
