天海祐希をCM起用しても「コンビニ」の客数はもう戻らない 2026年に進む“量より単価”の方針転換
物価高のせいで、コンビニのおにぎりがこんなに高くなった――。そんな嘆きの声にも、そろそろ慣れてきた昨今。節約志向から、コンビニそのものに足が遠のいた人もいるだろう。実際、そうした変化は数字にも表れているが、一方、コンビニの売上高は伸び続けているという。消費経済アナリストの渡辺広明氏が、コンビニの今を読み解く。
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振り返ると、2018年は、日本のコンビニの転換点となる年だった。一般社団法人「日本フランチャイズチェーン協会」の統計によると、コンビニ全店の来店客数はこの年に年間174億人超を記録したのを最後に、その後は減少していった。コロナ禍を経て、2022年からは再び客足が戻ってゆくように見えたが、2025年には来店客数はまたも減少に転じ、およそ163億人になっている。これは一時的なものではなく、日本の構造的な変化を映す重要なシグナルだ。2018年は、いわば「量」で成長していた最後のピークといえるだろう。

2025年の全店ベース来店客数を細かく見ると、万博客などのインバウンドの恩恵を受けつつも、国内の日常利用では前年並みか微減を記録する月が目立つ。2018年のピーク(174億人)と比較すると、約10億人の「客数減」が定着している。既存店ベースでも客数は複数の月で前年割れが続き、6ヶ月連続マイナスなどの場面も見られた。
しかし興味深いのは、売上高は引き続き伸びている点である。2025年の全店売上高は前年比2.2%増の12兆583億円と、4年連続で過去最高を更新している。これは、平均客単価が上昇しているためだ。2018年の全店ベースの平均客単価は629.2円(前年比+1.4%)であったのに対し、2025年は737.9円まで上昇。単純比較でも約108円の上昇、伸長率にして約17%増と、この7年間で大きく伸びていることが分かる。
背景には、高付加価値商品の強化や販促施策があるが、何より見逃せないのがタバコの存在である。コンビニ売上の約4分の1を占めるタバコは、2018年以降、ほぼ毎年値上げが行われている。2018年10月の+20〜40円、2020年10月の+40〜50円といった大幅改定のほか、その後も毎年+10〜30円程度の値上げが継続されている。結果として、客数が減少しても、タバコの単価上昇によって売上を維持する構造が強まっているのである。
「客数回復」を狙い広告投資も…
客足が減っていく状況をコンビニ業界も黙認していたわけではない。コロナ明け以降、大手コンビニは「客数回復」を狙い、広告宣伝やマーケティング施策を強めている。数字で見ても、セブン-イレブン・ジャパンの2024年度(2025年2月期)の広告宣伝費は前年比11億円増の379億円となっているし、ローソンも確認できる直近データでは、広告宣伝費が23年2月期の246億円から24年2月期には292億円までおよそ50億円増加していた。
昨秋から、セブン‐イレブンの広告に櫻井翔、相葉雅紀、天海祐希らが登場したのを見て「おや?」と思った読者もいるかもしれない。それまでセブンの広告は、豪華俳優陣を起用してアピールするというよりは、「デイ・ドリーム・ビリーバー」をBGMに、商品やサービス、キャンペーンを前面に出す形が目立っていた。これは、2021年に八木莉可子と吉田鋼太郎を迎えてはじまったファミリーマート、22年から松山ケンイチ、川栄李奈らをオファーしたローソンの広告に倣った戦略と言えるだろう。各社はそんな有力タレントを起用し、「増量キャンペーン」「1個買うと1個無料」「スイーツ強化」など、来店動機を直接刺激する訴求を展開してきた。明らかに“客数対策”にフォーカスした戦略である。
とはいえ、それでもなお、来店客数は2018年の水準には戻っていないわけだ。つまり、広告投資によって一定の下支えはできても、人口減少という構造的なトレンドまでは覆せていないということだ。
コンビニの売上構造は「客数×客単価」で成り立つ。先述のとおり、現在のところはタバコの値上げなどにより客単価は上昇しているが、客数は減少している。だからこそ危機感を抱いた各社は、広告を通じて“失われた客数”を取り戻そうとしているが、その回復には限界があることがわかったのが2025年だった。2018年が「量の成長のピーク」だとすれば、2025年は「単価依存型成長への転換点」といえる。
コンビニは、老若男女が利用する最大の小売業態である。「コンビニを見たら日本経済が分かる」というのが筆者の持論だ。日本の構造変化のシグナルだと冒頭で述べたのは、こうしたコンビニのデータを踏まえてのものであり、日本経済が“量で伸びる時代”から、“単価で維持する時代”へと移行した現実を、より鮮明に映し出している。
「広告」以外に手は?
では広告以外で、コンビニ各社が打てる施策は何があるだろうか。
もちろん引き続き、タバコの値上げの“恩恵”にあずかることはできるだろう。2026年度は加熱式たばこの課税方式見直しなどが議論されている。この4月には、加熱式を中心とした価格改定がすでに決まっている。これは、防衛力強化の財源確保に伴う税見直し、加熱式たばこの課税方式の調整、メーカー主導の収益改善が背景にあり、主力銘柄では20〜50円程度の引き上げが行われ、一部の紙巻き銘柄にも値上げが及ぶという。しかも、加熱式たばこをめぐる制度見直しは10月1日に第2段階を迎える予定で、年内にさらに影響が広がる可能性が高い。タバコを中心とした価格上昇は客単価を押し上げ、売上を下支えする役割を担い続ける。広告で客数を補いきれない分を、値上げによって補完する構図は依然として続くはずである。
だが、もう一方で注目すべきなのは、デジタルシフトおよび、非食品・サービス拡大の動きだ。例えば、ファミリーマートは2,700万人超をほこるアプリ会員やデジタルサイネージ(主にレジ付近に設置されているディスプレイ)を利用して「コンビニのメディア化」を進めているし、ローソンはAI発注や無人技術を活用した効率化を加速させている。セブン-イレブンも、カフェベーカリーなどの高付加価値商品投入で粗利改善を図っている。これらは単なる客単価対策を超え、「来店頻度を下げても価値を提供する」新しいコンビニ像への挑戦と言える。
現場レベルでは具体的な変化も起きている。近所のコンビニの冷凍食品やチルド惣菜の売場が広くなったという体感はお持ちではないだろうか?これは、まとめ買いニーズの取り込みを狙ったものであり、「1回の来店での購買点数増加」を意図した施策だ。また、セルフレジやモバイルオーダーの導入も、来店ハードルを下げると同時に人手不足への対応にもつながる。ついでにいえば、訪日外国人の回復に伴い、免税対応や多言語表示、キャッシュレス決済の強化も進んでおり、客数減少を“国内依存からの脱却”で補おうとする動きも見える。
ローソンに見る2つの象徴的な動き
「価値を提供する」という点で、ローソンが強化する店内調理の「まちかど厨房」は、近年のコンビニの象徴的な動きだといえる。2025年2月末時点で約9,400店規模まで拡大しているサービスだが、従来のコンビニには難しかったできたて弁当や惣菜を武器に、コンビニを単なる“食事を買う場所”から“食事の提供拠点”へ進化させているわけだ。
また地方のコンビニでは来店客数の減少がより顕著であり、都市部との格差も広がっている。これに対しても、各社は小型店や無人店舗、ドラッグストアとの競合を意識した品揃えの最適化など、「立地別戦略」を強めている。これまたローソンの例で恐縮だが、同社の竹増貞信社長は、2025年後半から2026年にかけての経営方針発表や『カンブリア宮殿』などのメディア出演の場において、「今後の新規出店のうち1〜2割を過疎地域(買い物困難地域)にする」という具体的な数値目標を明かしている。これは単なる出店戦略ではなく、コンビニが“社会インフラ”としての役割を強めていく動きだと言える。
結論として、2026年以降のコンビニは「客数回復を広告で試みつつ、最終的には単価上昇で売上を作る」という二層構造に完全に移行したといえる。繰り返しになるが、これは日本経済が“量の拡大ではなく、価格によって維持される経済”へと移行していることを示す、極めて象徴的な動きである。人口減少・高齢化が進む中、コンビニ各社が「量の限界」を認め、「質と効率」で勝負する時代が本格化しているといえよう。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。
デイリー新潮編集部
