BPR初戦ポール・リカールでは、ゼッケン38を掲げた968ターボRSがゴール目前まで走行しながら、残り3分でエンジンブローによりリタイア。しかしポルシェは原因を部品に不良があったことと特定し、無償でエンジンを交換した。続くハラマではクラス4位・総合8位、130周完走という成果を挙げ、ディジョンではクラス表彰台と総合6位を獲得。モンレリーでのパリ1000kmではエンジントラブルに見舞われながらも完走し、最終戦ヴァレルンガ4時間でも入賞を果たすなど、短いシーズンながら確かな戦績を残した。

この成果によりル・マン24時間レースへの出場資格も得ていたが、耐久性への懸念から参戦は見送られ、エントリー番号66はヘンリクセンの3.8カレラRSRへ移された。彼はこの車を「バランスの取れたハンドリングと優れたパワーを備えた、魔法のような存在」と回想している。そしてシーズン終了後、コレクターズアイテムとして引退させる決断が下された。

2008年、本車両は希少かつ特別なポルシェを収集する国際的コレクションに迎えられる。1994年ヴァレルンガ最終レース時のリバリーと仕様を保ったまま保存されてきたその状態は、ユルゲン・バルトによる検査報告書でも「最後のレース以降使用されておらず、完全にオリジナル」「現存する3台の中で最もオリジナル性が高い」と明言されている。

今回、この極めて重要なポルシェがThe Amelia Auction 2026に出品される。フロントエンジンを採用した唯一のRSモデルであり、わずか3名のオーナーのみを来歴に持つ最終生産車。軽量BPRシリーズ用ボディワークとユルゲン・バルトの検査報告書を付属し、販売準備としてポルシェ・モータースポーツ・ノースアメリカによる最新整備も施される予定だ。予想落札価格は100万ドル超。

困難な状況の中で、開発は本質だけに集中した。その結果ヴァイザッハのモータースポーツ部門が生み出した到達点。3台のみ存在する968ターボRSの最終形にして、唯一ブラックに塗られたフロントエンジンRS。その存在感は、困難の中でこそ純度を高めるというポルシェの哲学を、いまも雄弁に語り続けている。