イオとエウロパの違いは誕生した時から? 木星の衛星の起源に迫る新たな研究成果

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太陽系最大の惑星である木星。その周囲を回る「ガリレオ衛星」と呼ばれる4つの大きな衛星は、それぞれ異なる特徴を持っていることで知られています。


特に、最も内側を公転する「Io(イオ)」と、そのすぐ外側を公転する「Europa(エウロパ)」の対照的な姿は、惑星科学における長年の謎です。Ioは太陽系で最も火山活動が活発な天体であり、地表は乾燥しきっています。一方、Europaは氷の地殻に覆われ、その下には広大な液体の海(内部海)が存在すると考えられています。


隣り合う衛星でありながら、なぜこれほどまでに水の有無が異なるのでしょうか。エクス=マルセイユ大学とサウスウエスト研究所(SwRI)の研究チームは、この謎に対して「誕生した時点で決まっていた」とする仮説を支持する研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は「The Astrophysical Journal」に掲載されています。


【▲ 木星探査機「Galileo(ガリレオ)」が撮影したガリレオ衛星。左から: Io(イオ)、Europa(エウロパ)、Ganymede(ガニメデ)、Callisto(カリスト)(Credit: NASA/JPL/DLR)】

「生まれつきの違い」か「育ちの違い」か

研究チームはIoとEuropaの成分の違いを説明するために、これまで科学コミュニティで主に議論されてきた2つの仮説に着目し、検証を行いました。どちらの仮説も、誕生直後の木星の周囲に存在したガスや塵(ダスト)の円盤(周惑星円盤)の中で衛星が形成されたことを前提としています。


一つは、形成された場所の環境による「生まれつきの違い」とする説です。この説では、円盤内の温度差が決定的な要因だったと考えます。木星に近い場所では温度が高すぎて氷が存在できず、その領域で生まれたIoは岩石のみで形成されました。一方、少し離れて温度が下がった場所で生まれたEuropaは、氷を取り込むことができたというシナリオです。


もう一つは、最初はどちらも氷を豊富に含んでいたが、その後の進化で運命が分かれた「育ちの違い」とする説です。この説では、Ioも最初はEuropaと同じように水の豊富な天体(オーシャンワールド)として誕生したと仮定します。しかし、木星からの強い潮汐力による加熱や、初期の木星が放つ強力な光や熱(電磁放射)などの影響で、Ioだけが水分を完全に失ってしまったというシナリオです。


シミュレーションが示した「水の消失」の難しさ

今回、研究チームは後者の「進化の過程で水を失った」という仮説が物理的に成立するかどうかを検証するために、衛星内部の熱進化モデルと、大気が宇宙空間へ逃げ出す(大気散逸)プロセスを組み合わせた数値シミュレーションを行いました。


シミュレーションでは、IoとEuropaが最初は含水鉱物(水を含んだ岩石)を取り込んで形成されたと仮定。初期の木星系で想定されるあらゆる加熱源として、微惑星やペブル(小石サイズに集積した塵)の衝突による熱、放射性物質の崩壊熱、潮汐力による加熱、そして若い木星からの強力な電磁放射を考慮し、衛星がどれほどの速さで水分を失うかを計算しました。


その結果、研究チームは、Ioが初期に持っていた水分を完全に失うことは、どのような条件を想定しても極めて難しいという結論を導き出しました。また、Europaについても同様に、もしも初期に大量の水が存在していたとすれば、過酷な環境下でもその大部分を保持し続けるという結果が示されたのです。


研究に参加したSwRIのOlivier Mousis博士はプレスリリースの中で、「Ioは形成後に水を失ったと考えられてきましたが、物理学的な計算はそのシナリオを支持しませんでした。Ioがこれほど効率的に水を失うことは不可能なのです」と述べています。


つまり、現在のIoが極度に乾燥しているのは「後から乾いた」のではなく、「最初から乾いた材料で作られた」と考えるのが最も自然な説明である、ということになります。


木星系の初期環境を映す鏡

研究チームによる今回の成果は、IoとEuropaの違いが誕生後の進化(育ち)ではなく、形成時の環境(生まれつき)によって決定づけられたことを強く示唆するものとなりました。


これは、木星の周囲にあった円盤内の温度環境が、現在の衛星の軌道付近で劇的に変化していたことを意味します。論文では、Ioが形成された領域は岩石しか存在できないほど高温であり、そこからわずかに離れたEuropaの形成領域は水を含んだ鉱物が存在できる環境だったと説明されています。この「乾燥」と「湿潤」の境界線が、二つの衛星の間にはっきりと引かれていたことになります。


【▲ 今回の研究成果をもとに描かれた概念図。木星(左端)に最も近いIo(イオ、左から2番目)は乾燥した環境で形成されたが、Europa(エウロパ、左から3番目)はIoよりも水が多い環境、Ganymede(ガニメデ、右から2番目)やCallisto(カリスト、一番右)はより水が多い環境で形成されたことが示唆される(Credit: Courtesy of SwRI)】

探査機による検証の機会が2030年代に

今回の研究成果を実証する鍵となるのが、現在進行中の探査ミッションです。2023年に打ち上げられたESA(ヨーロッパ宇宙機関)の木星氷衛星探査機「Juice(ジュース)」と、2024年に打ち上げられたNASA(アメリカ航空宇宙局)の探査機「Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)」が2030年代初頭に木星系へ到着し、詳細な観測を行う予定なのです。


特に注目されるのが、Europaの表面から噴き出しているとされるプルーム(水柱、間欠泉)の成分分析です。Mousisさんは、水に含まれる水素とその同位体である重水素の比率(D/H比)を測定することで、その水がどこからもたらされたのか、衛星がどのような環境で生まれたのかという歴史的な文脈を読み解くことができると述べています。


JuiceとEuropa Clipperがもたらす観測データは、木星とその衛星のみならず、太陽系形成論をより精緻なものへと書き換える手がかりになることが期待されます。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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