博士進学に迷っている人に見てほしい。名古屋大学で、アツい話がありました
スマホでインターネットが使えて、職場まで電車や車で行けて、毎晩美味しいものが食べられて ── 。私たちが日々豊かな生活が送れているのって、実は全部、過去の“誰かの発明”のおかげです。
じゃ、その誰かって誰でしょう? 多くが、「これを極めたい!」と熱意を持って取り組んだ研究者。そしてそれを支えるのが、大学の「博士課程」です。
リチャードが登壇! 名古屋大学の「博士になるか迷ってる人のためのセミナー」に行ってきた
11月14日、名古屋大学でセミナー「ハカセの知らない世界〜これからをどう生きのこるか〜」が開催。
博士課程に進学するか迷っている人を対象に、「ぶっちゃけ、博士に進んでやっていけるのか」が赤裸々に語られました。ギズモード・ジャパンのYouTubeチャンネルでもお馴染みの、編集部員リチャードも講演に参加!
今回は、その模様をレポートしていきます。
今社会は、博士を求めてる
多様な人材に博士課程に進んで欲しい。それが、世の中を良くしていくことにつながると信じています。
セミナーは、名古屋大学の工学研究科長・工学部長の小橋眞先生のこのような言葉から始まりました。小橋先生は、あらゆる人類課題をテクノロジーの力で解決できるようになってきた現代に、高度な学問知識と、課題解決能力を備えた人材は、より求められていくと話します。
では、博士課程に進むと、どんな人生がまっているのでしょうか。そして博士課程で学んだことが、どう社会の役に立つのでしょう。まず気になる“お金”の話から切り込んだのは、東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 准教授の大上雅史先生です。
研究で生きてける?|ポイントは、研究成果を社会に役立てること
自分の研究を続けながら生活していくには、どうしたらいいでしょう?
私の専門はバイオテックで、AIなどを用いた創薬のためのツールを開発しています。薬の研究開発には様々な技術や多くの資金が必要です
そこでポイントになるのが産学連携。企業との共同研究は王道ですが、私は起業という選択肢を取りました。
最初は苦労もあったと話す大上先生。
私の場合は、元指導教員の先生と一緒に創業しました。ただ、当初は困難の連続。そもそも会社法や会計の知識がなかったので、会社を運営することから試行錯誤の連続でした。それに、ものすごいスピードで社会環境は変わっていくので、事業を常に最適化させていく必要もありました。
ただ現在では、自身の研究をベースに多様な方向へ事業を広げていると言います。
重要なのは、自分の研究がどう社会に役立つかを考え続けることだと思います。
自分の会社があることで、自分の研究成果を社会実装する(社会の役に立てる)ことができるようになりました。その結果現在では、ソフトウェアを受託開発したり、コンサルティングをしたり、元々の専門性をもとに、まるで研究機関と産業界との橋渡し役のように、幅広いことに携わっています
学問を志す学生が必ずぶつかる壁。「自分の研究で、食っていけるんだろうか」。大上先生の答えは、YESです。ただ、重要なのはそのやり方。自分の研究をどう社会に接続するか。その視点がキャリアを広げる鍵になると語ります。
研究を続けるには?|多くの人に正しく伝え、理解してもらうことが超重要
続いて壇上に立ったのは、我らがギズモードのリチャードです。
動画でお馴染み「Eyyy Richard for Gizmodo here!」のフレーズで始まった講演のテーマは「“日本語で言い直して”と言われないために」。編集者視点で、科学技術をわかりやすく楽しく発信する方法、つまり、学問に従事する人たちがどのように自らの研究を世間に伝え、社会的信頼を得て研究を持続可能なものにするのか、そのヒントを話しました。
火星への移住を実現するには、多くの人の支持が極めて重要。
科学は多くの人からの継続的な支援と積極的な複利活動がなければ資金不足という死を迎えて、将来の革新と進歩は危険にさらされてしまう。
Martin Bauer(素粒子物理学、量子センサー、暗黒物質の研究者)
冒頭、リチャードはこの2つの言葉を引用し、科学における“伝えること”の重要性を述べました。
世界的な権威ある両者が、科学技術の進歩には多くの人の理解や支持が必要であると言っています。私はそのためには、多くの人に"共感"してもらうことがとても大事だと思っています。
アリストテレスの「説得の3要素」を踏まえつつ、研究者の方はすでに「正しい(ロゴス)」「ふさわしい(エトス)」は満たしており、もう1つの要素である「共感(パトス)」、さらに1つ加えて「タイムリー」さが伝えることにおいて重要である、とリチャード。
自身も動画コンテンツを作る際に視聴者への共感性を大切にしているとのことで、彼が考える共感を生む伝え方のポイントとして、以下を挙げました。
・注意:自分ごととして感じてもらう
・興味:続きが気になる内容で惹きつけ
・理解:納得感のある説明をする
・行動:すぐにできることで行動を促す
まず、注意を引くことがとても重要です。どんなに素晴らしい内容でも、注意を引けなければ誰にも聞いてもらえません。たとえば、(タイムリーさの観点で)梅雨の時期に傘を紹介すれば、受け手は自分ごとしやすくなって注意を向けてくれるようになりますよね。見る人の立場に立って、その人がどうやったら自分ごと化してくれるかを考えるといいと思います。
注意を引いた後には、続きが思わず気になる内容を伝えて興味を持続させます。私はよく最初に結論を言いつつも、疑問が浮かんでくるような話し方をします。
次に行なうのが、納得感のある説明です。正しいことをとことんわかりやすく伝えます。そして最後に、実際に行動を起こせることを用意します。すぐにアクションが取れることだといいでしょう。
リチャードは、名古屋大学の研究室で見つけた「セラミックスナノ粒子(セラミックス材料をナノサイズまで微細化した粒子)」を題材に、どのように伝えると人に届くのか、その実例を紹介しました。
僕だったら“最近日焼け止め、白くないよね?”ってことから始めると思います。白くないのに効果は落ちていないし、成分も変わっていませんと言うと、疑問が浮かび、聞き続けたくなりますよね。
次に、根拠を伝えます。以前のものから粒子のサイズだけ小さすることで、効果は保ったまま透明になったことを、証拠付きで説明すると思います。
そして、素晴らしい研究はまだまだあることを伝えて、詳しくは◯◯さんに聞いてみてください!のように、具体的な行動喚起をして締めるといった具合です。
博士に進む意味は?|自分の興味に全力没頭できるのは貴重な体験
最後に登壇したのは、東京大学 工学研究科の博士課程を終了後、半導体やセラミックスなど結晶成長技術を専門としてさまざまな研究・生産開発に従事してきた、株式会社IHI 技術開発本部 技術基盤センター 物理・化学技術部 主任研究員の福島康之氏です。
IHIは、重工業の会社です。ターボチャージャー、宇宙防衛産業のエンジン、発電エネルギー関係、さらには橋やトンネルまで幅広いものを作っています。私が所属している技術開発本部は、こうした多種多様な製品群の研究開発を支えています。
IHI技術開発本部では、間接部門を除くと400名ほどの研究員が在籍し、その1/3の120名ほどが博士号を取得しています。ストレートに博士号を取得した研究員もいますが、会社に入った後に博士号を取得した社会人ドクターも多いです。
本セミナーで繰り返し問われた「博士に行く意味とは?」。福島さん自身は、修士号取得後、就職。6年半働いたのちに社会人として元いた研究室に戻り、博士号を取得しました。ただ、さまざまな経験を経た今では、学生のうちに博士課程を卒業する方が良いと考えているそうです。
社会人ドクターは、仕事をしながら土日も頑張って勉強するという大変なスケジュールを送ります。それはそれで素晴らしいことではあるのですが、自分の興味分野に没頭して、研究室の中で人としても成長できることは、若いうちならではのとても貴重な体験だと思います。
企業の中の研究機関で働く福島氏。学生へのキャリアアドバイスとして、以下のように語りました。
私の場合は、博士課程のうちにIHIと共同研究を始めて、現在の仕事に至ります。このように、あなたの研究を必要としてる企業は必ずあると思います。
必要以上に、世の中の潮流に媚びる必要はありません。世の中に必要だと思うことをやればいいんだと思います。その研究が、根本的に人類の課題に関係していることであれば、今はフォーカスが当たっていなくても、時代が追いついてくるはずです
博士進学は終点じゃない。むしろ大きな始まりだ
会場には、修士学生だけでなく、博士学生や学部生も集まり、「博士はどう生きるか?」の具体的な議論が交わされました。
そして改めて、人類社会における“研究”の重要性が論じられた、貴重な機会となりました。
モノを企画する人、モノを売る人、モノを伝える人、製品にもさまざまな役割の人が携わりますが、そのモノ自体の誕生を担うのが研究者です。
まさに人類の進歩を支えてきた挑戦者たち。より多くの人がその道に進み、驚くような発明を成し遂げることで、私たちの生活はもっと豊かになっていくでしょう。
もし博士進学に悩んでいる人がいたら、迷わず飛び込んでみてはいかがでしょうか。あなたの存在、実はめちゃくちゃ、世界に必要とされてますよ!
Source: 名古屋大学
