『あんぱん』“東京編”から登場した木原勝利は何者? 『新幹線大爆破』でも発揮された安定感
放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、ヒロイン・のぶ(今田美桜)が高知新報での記者活動を経て、東京へ。戦後復興期の闇市を主な舞台とした「東京編」がスタートした。ヒロインの生活する環境が変われば当然ながら周囲の人々の顔ぶれも変わるもので、必然的に登場人物たちの出番にも変化が生じてくる。これからの「東京編」での主要なキャラクターは何人かいるが、個人的にとくに気になるのが世良則雄だ。演じているのは木原勝利である。
参考:『あんぱん』第84話、のぶ(今田美桜)が嵩(北村匠海)の存在の大きさに気づく
本作は、あの『アンパンマン』の生みの親となった夫婦をモデルに、のぶと、やがて彼女の夫となる幼なじみの嵩(北村匠海)の激動の生涯を描いていくものだ。世代を超えて日本中で愛され続ける作品とキャラクターがどのようにして誕生したのか。私たちはこの『あんぱん』を通して知りつつあるところである。のぶと嵩が高知新報で再会したことで大きくドラマが動き出したかに思えたが、またもふたりは離れ離れに。しかも高知のほうでは大きな地震が起きた。これからどのような展開になっていくのだろうか。
このような激動の展開の続く本作で木原が演じる世良とは、のぶが東京へと進出するきっかけをつくった代議士・薪鉄子(戸田恵子)の事務補助員だ。鉄子はのぶ以上のスピード感で進んでいくハチキン(土佐ことばで、快活な女性)で、「弱い立場の者に手を差し伸べる」という強い信念を持った人物。世良はそんな彼女を献身的に支え、その素早く的確な仕事ぶりは、ある種の曲者だともいえる鉄子から絶大な信頼を寄せられている。
世良がどのような人物なのかは、彼や鉄子が口にするセリフから分かる。鉄子の「(世良は)食べるのが日本一早い」という言葉は、そのシーンから察するに、彼が“仕事ファースト”で生きる人間で、事務補助員のプロフェッショナルであることを端的に示していただろう。言葉を尽くして説明的に語ることなく、人物像を視聴者に提示する。このあたりは脚本の妙だといえる。 しかしそれ以上にキャラクターを提示しているのは、演じ手である戸田と木原のやり取りのリズムやテンポ、そしてそこに漂う空気感だと思う。佇まいや目線、発話の調子から、ふたりの関係性は確固たるものとして明示されている。戸田と木原がいきなり脚本から外れたエチュード(=即興劇)を展開したとしても、ほとんどの視聴者は気がつかないのではないだろうか。おそらくブレないはず。こういった演技者たちの存在によって、作品の世界観は保たれている。ふたりのやり取りを前に、この当然の事実を再認識させられているところだ。
木原が「朝ドラ」に登場するのは、2年前に放送された『らんまん』(2023年度前期)に続いてこれが2作目。とはいえその出番は非常にかぎられたものだったから、世良役ほどの印象は視聴者の中に残っていないのではないだろうか。2025年年放送の作品でいえば、『秘密~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジテレビ系)や『アイシー~瞬間記憶捜査・柊班~』(フジテレビ系)、『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』(テレビ朝日系)、そして『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)に出演しているが、いずれも“ゲスト”的な役どころ。やはり、広くその力量が認識されているのは『あんぱん』の世良則雄役なのだろう。いや、2025年は配信中の映画『新幹線大爆破』(Netflix)でも作品の緊迫感を生み出す一員を演じ、サスペンスフルな群像劇の一翼を担っている。木原の仕事の的確さは同作にもハッキリと見て取れるはずだ。
映画祭で高く評価されたアート色の強い短編『寓』(2022年)や『東京遭難』(2023年)といった良質なインディペンデント映画で主演を務めるなどしてきた俳優・木原勝利だが、『あんぱん』によってその仕事の的確さは全国的に知れ渡ることになるのだろう。彼に信頼を寄せる人々は、これまで以上に一気に増えるはずである。私たちはその過程に立ち会っている。(文=折田侑駿)

