“トロを畳む”という秘技「まぐろのミルフィーユ」。ひと目で足を運びたくなる逸品のある鮨店4軒
今までに見たことがないような鮨だねの仕立て方、味わったことがないような旨みの掛け算……。
そこでしか体験できない唯一無二の名物は食べ手を強く惹きつける。ひと目で足を運びたくなる逸品のある店をご紹介。
1.「トロを畳む」という秘技が生み出す怒涛の旨みに翻弄される
『HASHIDA TOKYO』@勝どき

「まぐろのミルフィーユ」
大トロの握り、といってもただの握りではない。通常のように柵におろさず、生ハムをスライスするかの如く切り出し、層を成して握る、他にはない逸品なのだ。
2013年、シンガポールに支店を開業後、2022年には本店もリニューアル。『寿司のはし田』から『HASHIDA TOKYO』と店名も改め、独自の世界観を表現している。

蔵をイメージした建物は、3階にまた店の入り口がある異空間。檜のカウンターは橋田さんの晴舞台と言ったところだろう。
意表を突く一品が並ぶコースの中でも、先代から続く名物が前述の一貫だ。

ミルフィーユ状の握りを考案したのは先代主人。建二郎さんは更にそれを深化。やや幅を持たせた特注のタコ引き包丁を用いている
使用するのは腹上一番。

細長く切り出し、包丁の腹の上で重ねてから握る。おまかせ¥46,200(サ別)
大トロを細長く切り付け、それを畳むようにして鮨飯と握る。折り重ねることで生まれるふうわりとした食感こそ、この握りの真骨頂。
空気を含み滑らかに蕩ける美味は官能的。まぐろの新しい魅力を教えてくれるはずだ。

2.うにと昆布。相愛のふたりが織りなした艶やかな美食の掛け算に驚く
『鮨 こうりん』@西麻布

「塩水うにの昆布巻き」
「実は、これを考案したのは函館『鮨金 分店』の戸嶋大親方なんです」。そう微笑むのは『鮨 こうりん』ご主人の香林正智さん。
2年前、独立前に全国の食材探しをする最中に函館を訪れたそうで、食べた瞬間、美味しい!と感動。その場で「自分の店でも出したい」と親方に相談したのだとか。

板状になったおぼろ昆布をまきすに敷く
香林さんの熱意が伝わり、親方は快諾。しかも「地元の市場に一緒に行って昆布シートまで用意してくれたんです」。
そんな心温まるエピソードから生まれた、名物の「塩水うにの昆布巻き」。
香林さんいわく「大切なつまみのひとつとしてお出ししているので、うちの店ではシャリは少なめ。戸嶋親方のアドバイスで細巻きにしています」とのこと。

昆布の上にシャリを広げ、塩水うにをたっぷり乗せて巻く。鮨飯は京都の特別栽培米コシヒカリを使用。米酢を主に赤酢を僅かに加えコクを深める。おまかせ¥29,700〜
無添加の塩水うには、小粒で香りがあり、旨みも濃厚なバフンウニを使用する。
おぼろ昆布は口中で自然に蕩け、うにと一体化。より甘みを引きたてる。
舌に残る余韻も深く、これ目当てに訪れるゲストも多いというのも頷ける銘作だ。

■店舗概要
店名:鮨 こうりん
住所:港区西麻布1-12-6 ダイアンクレストビル 4F
TEL:03-6434-0084
営業時間:17:00〜(L.O.22:30)
定休日:水曜
席数:カウンター9席、半個室1(6席)

3.芸術的な骨切りに見惚れる鞍掛のとろける口どけに息をのむ
『鮨 影山』@銀座

「にしんの鞍掛握り」
えっ、これは……!目の前にストンと置かれた一貫に思わず目を見張った。蛇腹の如きに細かな包丁目も美しい青魚の握り。
これが、銀座『鮨 影山』のスペシャリテ「にしんの鞍掛握り」だ。身が傷みやすく、加工品として供することの多い魚だが、流通が進んだ現代では東京でも生のまま食せるようになってきた。
ご主人の影山伸敏さんは、にしんを大胆にも握りに仕立てた。曰く「オリジナルの鮨をと考えていた時に、SNSで北海道の鮨屋さんが握っているのを見て閃いたんです」とのこと。
早速試してみたものの小骨が多く特有の風味もあり、納得のいく味に仕上げるまでは試行錯誤の繰り返しだった。

鰊は塩と酢で締め、薄皮を丁寧に取り除く。小骨が当たらないように2〜3mm間隔で切れ目を入れていく
そこで思いついたのが、鱧の骨切りよろしく身に細かく切り目を入れること。鰯にも時折用いる手法だとか。

片身を3〜4分割し、食感にボリュームが出るように鞍掛で握っている。おまかせ¥40,000
身の厚さを活かすため鞍掛に握ったにしんは脂が乗り、身はしっとりと柔らかく、なおかつしこっとした歯応えもある。

赤酢の鮨飯との相性も上々だ。

4.まぐろの達人の名を冠することを許された店主の覚悟の一手
『すしさとる』@恵比寿

「藤田巻き」
2022年に恵比寿で独立後、瞬く間に人気店に駆け上がり、僅か2年にして同じ恵比寿内で移転した『すしさとる』。
若干29歳の店主荒木 悟さんの屈託ない人柄と鮨のクオリティーの高さ、そしてコース2万2,000円というコストパフォーマンスの良さが理由だろう。
そのコースの大トリを飾るのがご覧のひと品。本鮪を豪快に巻き込んだ通称「藤田巻き」である。

中トロの周りは筋は多いが中落ちと同じく旨みの強い部位。これをスプーンで掻いてすき身にしている
その名の通り、荒木さん自身が惚れ込んだまぐろ仲卸「フジタ水産」の本まぐろを使用。
半年通い詰めてようやく卸してもらえるようになったそうで「藤田さんのまぐろは、ふわっと柔らかくて香りがある。旨みが強くて余韻が深い」と語る。

鮨飯の倍以上はありそうなまぐろは赤身も程よくブレンド。味に抑揚をつけている。おまかせ¥22,000
中トロの周りの、筋は多いが味の濃い部分や赤身の端などの部位を丁寧に掻き身にし、溢れんばかりに巻き込んでいる。
口いっぱいに頬張れば、蕩ける中トロと赤身のコクが渾然となって味蕾を覆う。

香りを邪魔せぬよう、米酢のみで仕あげた鮨飯との一体感も見事。
▶このほか:感度の高い大人は密かに始めている!「鮨と出汁」のペアリングを、気軽に味わえる新橋の隠れ家
