※本稿は、内藤誼人『振り回されない練習 「自分のペース」をしっかり守るための50のヒント』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■東レ元取締役が苦手な上司に取った行動

苦手な人とはなるべく一緒にいたくないものです。こっそり距離をとる、接する時間を極力減らす。そんな対応をしているのではないかと思われます。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

そんな対応の数々があなたのペースをかえって乱し、心の重荷を増やすことに繫がっているケースもあるのではないでしょうか。

そんなときは、考え方を変えてみましょう。苦手な人から逃げるのではなく、覚悟を決めて、懐に飛び込んでみるのです。

大手化学企業の東レで、同期トップで取締役になった佐々木常夫さんは、営業部に配属されたときの上司が本当に大の苦手とするタイプだったそうです。

そこで佐々木さんのとった作戦が、相手の懐に飛び込むこと。

「2週間に1度のミーティングを持ってください」

とお願いし、スケジュールを強引に押さえて、毎回30分、2人だけで話すようにしたそうです。ミーティングの時間を確保しておけば、我慢するのは2週間に1度。しかも30分。それ以外の勤務日には、上司を完全に無視できるのですから、残りの時間は自分のペースを保てます。

■自分にとっては苦手でも、上司にとってはお気に入りの存在に

さて、ミーティングを始めて1年が経った頃、その苦手な上司はマーケティング部の部門長として異動していきました。佐々木さんが「よっしゃ、ようやく解放された!」と喜んだのもつかの間、すぐに佐々木さんも、その上司に呼び寄せられてマーケティング部に異動になったのでした。

次の部署でも同じミーティング作戦を実行し、なんとか乗り切ったものの、その上司がプラスチック事業部門長として転任した3カ月後に、やはり佐々木さんはその上司に呼び寄せられたのです。

ここにいたって佐々木さんはようやく気づきました。自分にとって上司は苦手なタイプでしたが、上司にとって佐々木さんは大のお気に入りだったのです。佐々木さんは、東レで自分がうまくいったのも、その上司のおかげだと述懐しています(佐々木常夫著、『決定版 出世のすすめ』角川新書)。

■人間関係に困ったら「自分から話しかける」

フロリダ国際大学のマリー・レヴィットの調査によると、「困った人間関係をここ5年以内に経験しましたか?」と尋ねると、男性の66.1%、女性の72.6%が「イエス」と答えたそうです。人間関係で困った経験のある人は、世の中に相当溢れかえっているとみなしてよいでしょう。

次にレヴィットは、どうやってうまく乗り切ることができたのかも調べてみました。一番うまくいったのは、「自分から話しかけるようにする」で69.3%の人がこの方法を有効だと答えたのでした。ちなみに、「その人を避ける」というやり方はあまり効果的でないらしく、27.5%の人しか効果を実感できていません。

イヤな人から逃げ回っていても問題の根本解決には繫がりませんし、かえって負担が増えるだけです。覚悟を決めて、こちらからどんどん話しかけましょう。相手からも好かれるようになるかもしれませんし、嫌悪感も徐々に減っていくかもしれませんよ。

■何事も慣れると気にならなくなる

人間には、「慣れ」という現象があります。

どんなに嫌いなものでも、それなりに接触回数を増やすようにすると、そのうちそんなに気にならなくなるのです。

嫌いな野菜だって、ムリヤリにでも口にするようにしていると、そのうち気にならなくなりますし、「大好き」になることも珍しくはありません。

人間にも同じことがいえます。

「肌が合わないな」
「前世で、敵同士だったのかもしれないな」

そう感じるほどに憎たらしい相手でも、ムリにでも接触していると、そのうち気にならなくなります。これを心理学では、「単純接触効果」と呼んでいます。

■何度も顔を合わせると親しみを感じるようになる

ダブリン大学のメリッサ・ぺスキンは、いろいろな女性の画像を見てもらい、その魅力を尋ねるという実験をしてみました。

なお、女性の画像は、1回きりしか呈示されないものもあれば、6回も出てくる画像もあったのですが、くり返し見せられた画像ほど、少しずつ魅力は高く評価されることがわかりました。

最初は多少気になるところがあったとしても、何度も同じ顔を見せられると、私たちは慣れてきます。さらには、「親しみ」を感じるようにもなるのです。

内藤誼人『振り回されない練習 「自分のペース」をしっかり守るための50のヒント』(徳間書店)

嫌いな人から、逃げずに立ち向かったほうがいいですよ、と私がアドバイスした理由が、これでおわかりになったのではないでしょうか。

「私、あいつ嫌いだから……」といって避けるようにしていたら、いつまでも嫌悪感は消えてくれません。

その点、勇気を出して自分から話しかけ、たまには一緒にご飯を食べるようにしていると、そんなに気にならなくなってくるものです。騒音だって、ずっと聞かされていたら、そのうち耳に慣れてきますよね。それと同じことが、人間が相手のときにも起きるのです。

■自分の嫌悪感が減るだけでなく、相手から好意を持たれる

人間は複雑なようで、実は単純な側面も持っています。接触回数を増やすだけで苦手だったものが好きになるだなんて、驚きますよね。

この作戦の良いところは、自分から積極的に相手に近づくようにすると、こちらの嫌悪感を減らせるだけでなく、相手が自分に好意や魅力を感じてくれるところ。つまり、お互いにハッピーになれるという、まことに優れた方法なのです。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる! 暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人)