え、年金これだけ?年収1000万では老後2000万円問題解決できない「タワマン、外車、子供は私立は失敗」エリート会社員の後悔

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 学歴社会を勝ち進み、高年収をつかんだサラリーマンも「罠」にハマることがある。それが老後の怖さだ。資産運用立国を目指す政府は老後破綻を招かないよう“自衛”を求めるが、石橋を叩いて渡ってきた人々は投資に慎重なケースも珍しくない。「自己実現」の道から「自己責任」にフェーズが移る老後。あなたは“勝ち組”を維持する自信があるだろうか。

 経済アナリストの佐藤健太氏は「年収1000万円超えの勝ち組でも、老後まで豊かな暮らしを維持し続けるのは難しい」と指摘するーー。

学歴が生涯所得に与える影響は依然として大きい

 企業は人物本位で採用しているとは言うものの、いまだ「学歴の壁」は存在している。それは所得に反映され、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2022年)で新規学卒者の賃金を見ると、「高校」は18万1200円、「専門学校」は21万2600円、「高専・短大」は20万2300円、「大学」は22万8500円、「大学院」は26万7900円となっている。国がリスキリングを推奨し、資格や技術がモノを言う時代に入っているとはいえ、「学歴」によって所得に開きがあることがわかる。

 さらに言えば、学歴は採用される企業の規模に影響することがある。規模別の賃金を見ると、「大企業」は34万8300円、「中企業」は30万3000円、「小企業」は28万4500円だ。それは雇用形態にも現われ、「正社員・正職員」の32万8000円に対して、「正社員・正職員以外」は22万1300円になっている。

 2022年の「民間給与実態統計調査」によれば日本の平均年収は458万円で、月に直せば約38万円だ。昇進や昇給が一定で実施されるものと仮定すれば、入社時の学歴が生涯所得に反映される影響は決して小さくない。学歴社会を勝ち進み、日本を代表するような企業 に就職することができれば、30~40代で年収1000万円の大台を突破する「勝ち組」と言えるのだ。

有名私大卒で年収1000万円達成の男性も、早期退職勧奨を受けせっかく手に入れたタワマンを手放すことに

 東京の有名私立大を卒業して大手商社に就職した男性Aさんも、その1人だった。順調に昇進と昇給を積み重ねたAさんの年収は40代で念願の「大台」年収1000万円を超え、新居を湾岸エリアのタワーマンション(タワマン)に選んだ。見晴らしの良い約70平方メートルの一室は夫婦2人で暮らすにはもったいないほどだ。月々に支払う住宅ローンは10万円台で返済に窮することもなかった。

 だが、待望の息子が誕生し、幼稚園に入園する頃から順風満帆だった人生に狂いが生じ始める。50歳を前に部長級となったAさんの会社は早期退職勧奨をはじめ、上司や同僚が1人ずつ人事部門との面接を繰り返す。Aさんも例外ではなく、「もし今辞めるならば、退職金に約1500万円の加算がありますよ」と告げられた。揺れる思いを抱きながら帰宅すると、「とにかく、お受験させたいの!」と譲らない教育熱心な妻は真っ向から反対した。

 「再就職先も見つからないまま辞めたら、せっかく手に入れたマンションを手放さなきゃいけなくなるよ。子供の受験も難しくなるかもしれない」。同世代と比べればAさんの収入は恵まれている。人事部によれば、現時点での退職金額は500万円ほどで「1500万円の加算」は喉から手が出るほど欲しいものだった。

 早期退職に応じて得られる約2000万円を住宅ローンの繰り上げ返済に回し、余裕のある家計に転換したい―。Aさんは妻に内緒で転職先を探し始めることにした。だが、思うような条件の転職先は見つからず、子供の受験リスクもにらめば新たな道を選ぶ覚悟は持てなかったという。

老後2000万円問題にも耐えられるか。厚生年金を月20万円以上もらえるのはわずか6.5人に1人しかいない

 高学歴、高収入であるはずのAさんにとって気がかりだったのは「老後2000万円問題」だった。金融庁のワーキンググループは2019年、年金暮らしをする夫65歳、妻60歳という世帯の老後には生活資金が枯渇する危険があると警鐘を鳴らしていたからだ。このモデル世帯では毎月5万円超の赤字が生じ、30年間で約2000万円が不足するという。

 データとして用いられた2017年の「家計調査」(総務省)によれば、月の収入は年金で20万9198円、支出は26万3718円となっている。その差の5万4520円が赤字になるというわけだ。老後の30年間に積み上がる赤字は約1963万円に膨らみ、貯金を取り崩すなどの対応を迫られることになる。

 現役時代の年収と働いた期間で決まる厚生年金の受給者で月20万円以上をもらう人は約6.5人に1人の割合に過ぎない。厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2021年度)によれば、基礎年金を含む受給額は「月額5万円以上10万円未満」が20.8%、「月額10万円以上15万円未満」が30.8%、「月額15万円以上20万円未満」が30.6%となっている。

 「月額20万円以上25万円未満」は13.8%にとどまり、「月額25万円以上30万円未満」は1.6%、「月額30万円以上」は0.1%だ。「月額5万円未満」も2%超が存在している。もちろん、年金からも税金などが差し引かれる。Aさんの手元に残る年金が月に20万円だったとしても、先の家計調査で示されているように生活していくためには月26万円超が必要になる計算だ。

 定年まで勤め上げ、退職金を2000万円ほどゲットできたとしても「毎月の赤字」の穴埋めで勢いよく減っていくことが考えられる。子供の結婚資金や孫の誕生祝い、車の買い換えもあるだろう。気がつけば、定年後の5年程度で退職金の多くを失う人も珍しくない。

「年収1000万円程度でタワマン、外車、子供を私立に通わせたのがバカだった」

 「どこで設計が狂ったんだろう・・・」。定年時の生活を想像するAさんの表情は暗い。あれだけ気に入っていたタワマンも、いつしか「重荷」と感じるようになった。タワマンは購入費用だけでなく、維持費も通常のマンションに比べて高いからだ。現役時代の高収入を失い、年金収入を柱とする老後生活においては大きな負担となる。

 タワマンの管理費や修繕積立金は通常の分譲マンションに比べ1.5倍程度とされている。国土交通省の「マンション総合調査結果」(2018年度)によれば、管理費は平均月額1万5726円。70平方メートルで月額2万1420円だ。さらにマンションの改修や施設更新などの修繕に備えて毎月徴収される修繕積立金は平均で月額1万2305円、70平方メートルで月1万3699円が必要になる。合計すれば70平方メートルの部屋に月3万5000円も支払い続けなければならない。修繕積立金は通常、築年数が増していけば支払額も増える傾向にある。

 加えて、高齢者の仲間入りをすれば自分たちの医療費もかさむ。住宅改造や介護用ベッドなどの費用も必要で、葬儀費用やお墓代、自宅を維持するための固定資産税や保険料も支払っていかなければならない。老後に「思いがけない支出」もあるだろう。

 高年収サラリーマンとはいえ、住宅ローン返済や子供の教育費がかさんで資産運用とは無縁だったAさん。将来を悲観している中で大打撃となったのは、東京で一人暮らしをしていた父親の死だった。150平方メートルほどの土地と建物を保有していた父親は晩年の医療・介護費で預金がほとんどないものの、相続税は1000万円近くに上った。

 都内の土地は相続できるとはいえ、子供の通学先からは遠い。住み慣れたタワマンを手放したくない思いも家族で共通する。父の死去後も固定資産税を払い続け、相続税に足りなかった分を借り入れることにしたAさんは自らの人生をこう振り返る。

「高学歴、高収入のエリートなんて言われて調子に乗っていたけど、年収1000万円はお金持ちでも何でもない。それなのにタワマンを買って、子供を私立に通わせ、外車に乗っていた自分がバカみたい。やはり身の丈にあった生活をしないと破綻するということだね」