じつはメンタルヘルスのためになる…多くの人が「成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい」と考える根本理由
※本稿は、『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■失敗の理由を自分以外に求める
仕事がうまくいったり、試験に合格したりすると、私たちは「自分ががんばったから」「自分が優秀だから」と考えがちです。
しかし、逆に仕事などでミスをしたときには、「自分ががんばらなかったから」「能力不足だったから」とはあまり考えません。むしろ、うまくいかなかったのは、「試験が難しかったから」「商談の相手が悪かったから」と考えるのではないでしょうか。
このように、成功の理由を能力や努力といった自分の内的要因に求め、失敗の理由を自分以外の他者や環境に求めることを「自己奉仕バイアス」と言います。

■期待通りの結果は自分のおかげ
人は失敗より成功することを期待して行動します。そのため、成功したときには自分の期待通りなので「自分の能力(内的要因)のおかげ」と考え、失敗したときには期待に反するので「自分以外(外的要因)のせい」と考えます。
このように結果を捉えることが、このバイアスの原因とされています。また、成功したことを自分の貢献とすることにより、他者に対して自分のポジティブなイメージを示そうとする動機がかかわっているという説もあります。
自己奉仕バイアスは誰にでも起こりうるもので、精神的健康ともかかわっています。このバイアスがあるから、私たちは自尊心を失うことなく、心穏やかに、そして前向きに日々を送ることができている、という側面もあります。
■行動の原因がその人自身にあると考える
ある実験で、観察者は出題者1名と解答者1名がクイズゲームをするところを見ていました。このゲームでは、出題者は自分の得意分野から難しいクイズを10問考えて出題し、解答者は平均4問に正解しました。
ゲームのあと観察者に、出題者と解答者の一般知識がどの程度あると思うか尋ねたところ、「出題者は非常に博識だ」と評価した一方で、「解答者は平均的な学生と同じ程度だ」と評価しました。
出題者は自分の得意分野から難しいクイズを作成しているので、解答者の正解率が低いのは仕方のないことです。それなのに、状況の影響を考慮に入れずに、「解答者の正解率が低いのは、出題者の能力が高いからだ」と判断したため、このような評価になったと考えられます。
ものごとの原因を推測する過程を、心理学では原因帰属、あるいは単に帰属と言います。
私たちは他者の行動の原因を考えるとき、本人の性格や能力のような、その人自身にかかわる内的要因を重視し、周囲の状況などの外的要因は軽視する傾向があります。この傾向は、他者の行動の原因を考えるときに普遍的に見られることから、「基本的な帰属のエラー」と呼ばれます。
■視点と情報の違いがバイアスを引き起こす
こうした原因の帰属は、自分が行為者か観察者かによっても変わります。
たとえば、自分がデータをなくしたり物を壊してしまったりしたときには、「仕事が多いから」「こんなところに物が置いてあるから」などと状況や対象のせいにするのに、他人が同じことをしたときには、「整理整頓ができないから」「そそっかしいから」などと、その人の能力や性格、努力不足などのせいにしたことはないでしょうか。
自分が行為者のときには状況に原因があると考え、観察者のときには行為者自身の内的要因に原因があると考えることを、「行為者-観察者バイアス」と言います。自分が「行為者」であるか、「観察者」であるかで、ものの見方が変わってしまうわけです。
行為者と観察者とで原因の帰属が異なる理由として、次の2つが関係すると考えられています。
1つには両者の視点が異なること。行為者は周囲の様子のみを見て行動するため、周囲の中で目に留まる状況や対象に原因を帰属しやすくなります。一方、観察者は人物と周囲が描かれた絵を鑑賞するように、行為者を「周囲の中の人物」として見るため、人に原因を帰属しやすくなります。
もう1つは利用できる情報の違いです。行為者は自分の過去の行動に関する情報と、現在の行動とを照らして考えることができます。一方、観察者はそうした情報を持っていないため、自分が目にした行動から容易に推測できるその人の能力や性格などに原因を帰属するわけです。
観察者であっても、行為者の視点に立つと、行動の原因を人の能力ではなく状況に帰属することが報告されています。
ある実験では、ビデオの中の人物の「感情」を想像して共感的に観察する参加者と、その人物の「動作」に注意して観察する参加者とに分けました。そしてビデオ観賞後に人物の行動の原因を推測してもらった結果、共感的に観察した参加者は、動作を観察した参加者よりも、原因を状況に帰属する傾向が強いことが明らかになりました。

■偽薬効果は期待によって生じる
このような原因の帰属のエラーが生じるのは、他人に対してだけではありません。
たとえば、コーヒーを飲んで「眠れない」と思っていたら、実はカフェインレスだったり、咳止めの錠剤を飲んで「咳が止まった」と思っていたら、実は間違えて胃薬を飲んでいたり……。
このように、実際には有効成分が入っていない飲み物や薬でも、「効く」と思い込んで飲むと、本当に症状が改善されることがありますよね。この現象を「偽薬効果」または「プラセボ効果」といいます。「プラセボ」は英語のpleaseと同じ語源で、ラテン語で「喜ばせる」という意味の語に由来しています。プラセボ効果は、その「薬」あるいは「効く」と称されるものを飲む人の心理的状態とも関連するとされています。
■偽薬なのに副作用が出る⁉
医療の場での偽薬効果は、薬の効き目に対する患者の期待によって生じるとされています。期待は、過去の経験や他者の治療経過の観察、治療に関する説明などによってつくられます。また医療提供者の態度や感情、やり取りのスタイルなどにも強く影響されることが報告されています。
そこで、新薬の開発では「二重盲検法」という試験法が用いられます。
参加者をランダムに2群に分けて、同時に同期間、一方には偽薬、もう一方には新薬を投与して結果を比較します。このとき期待などのバイアスが結果に影響しないよう、どちらが偽薬群なのか医師にも参加者にもわからないようにして試験を実施します。この方法で明らかに偽薬を超えた効果が認められれば、新薬が承認されるのです。

プラセボ効果とは対照的に、副作用を心配する患者によって、偽薬なのに実際の薬と同じような副作用が出てしまうことを「ノセボ効果」と言います。ノセボの語源もラテン語で、「害する」という意味です。
二重盲検法の中で偽薬を投与された参加者に副作用が見られたことが、この効果の最初の報告となりました。
(プレジデント社書籍編集部)
