口に出すのもはばかられる、罵詈雑言の数々ーー。冒頭の写真に掲載されているのは、すべてひとりの女性に向けて、実際にネット上に書き込まれたものだ。

 作家・ブロガーのはあちゅうさんは、15年以上にわたって、このような誹謗中傷の標的になってきた。

「私がネットを始めた2004年当時は、一般人でブログに実名や所属を出すことは珍しくて、『慶応大学の1年生です』と名乗って顔写真を出したら、すごく叩かれたんです」

“芸能人でもないのに勘違いしているブス” という直球の悪口から、“ネットって危ないんですよ” と上から目線で諭してくる人まで、はあちゅうさんは日常的に、激しい誹謗中傷に晒されるようになった。

「SNSの利用者が増えると、バッシングはさらにひどくなりました。それまでは、個人単位で攻撃してきた人たちが相互フォローし合い、複数のアカウントを作って、一斉に誹謗中傷を始めたのです」

 たとえば2017年には、はあちゅうさんが「童貞を馬鹿にする」投稿をしていたと炎上。2019年には長男を出産したが、「妊娠してから妊活宣言した」と決めつけられ、“妊活詐欺” だと大バッシングを浴びたのだ。

「童貞について呟いたのは、10年以上のツイッター歴で10数回。それも、大学の学園祭の『童貞王決定戦』の審査員になり、その関連でツイートしたものが大半でした。

 また、“妊活詐欺” については、私にも誤解を生む原因がありました。妊活を発表してすぐに妊娠が判明したのに、その後も妊活について投稿を続けてしまったのです。深刻に悩んでいる方への配慮と想像力が足りませんでした。

 それを、PV数を稼ぐためだとか、ビジネスやお金儲けのための “炎上商法” と言われるのは本当に悔しくて。さらに、『AV男優(夫のしみけん)と子供を作るのは、どうなの?』と、家族のことまで誹謗中傷されました」

 そして近年では、これまでネット上だけだった、はあちゅうさんへの攻撃が、実生活にまで及びはじめた。

「私がよく通っていた “ある場所” に、嫌がらせがあったんです。ちょっとしたきっかけで、特定されたみたいで……。そして、2020年1月には、『長男を虐待している』と嘘の通報をされ、警察や児童相談所が自宅までやってきたんです。

 これまでは、“炎上” といってもネット上での出来事だったものが、いきなり現実世界で起きて、とても気が動転しました」

 このときは、はあちゅうさんがアップした長男の写真に「虐待がおこなわれています」というデマ情報が付されて拡散。掲示板にも「通報しました」「私も通報したよ」と次々に書き込まれ、「みんなで “通報祭り” をしているみたいでした」(はあちゅうさん)という。

 そんな、はあちゅうさんが “反撃” に転じたきっかけは、2020年5月、恋愛リアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ系)に出演していた、女子プロレスラーの木村花さん(享年22)が、SNSでの誹謗中傷を苦に自殺したことだ。

「人ひとりの命を奪ったのに、書き込んだ当人に罪の意識はなく、警察も捜査をしてくれません。私も、何人かの弁護士にお会いしたのですが、『ネットの誹謗中傷で裁判を起こすのは、すごく大変だよ』と言うばかりでした」

 そんなときに相談したのが、ネットの誹謗中傷問題に取り組んできた福永活也弁護士だった。

「普通の弁護士が誹謗中傷に対して裁判を起こすのは、相当ハードルが高いと思います。掲示板やSNSに匿名で書き込んだ発信者を特定するだけで数カ月かかるうえ、プロバイダが記録を保存していないこともあります。

 かなり大変な作業ですし、ようやく特定して訴えることができても、離婚や交通事故に比べると、請求できる慰謝料は微々たるもの。つまり、割に合わないんです」(福永弁護士)

 自身もSNS上で誹謗中傷被害に遭った福永弁護士は、採算度外視で、はあちゅうさんの依頼を快諾。プロバイダに発信者情報の開示を請求し、約260件の投稿やアカウントに開示決定が出た。

「開示請求をすると、書き込んだ本人にプロバイダから、『こんな開示請求が来ていますよ』という封書が届くんです。そこには誹謗中傷の内容も書かれているので、それを見て『私、こんなひどいことを書いていたの?』と我に返る人もいます。歪んだ正義感にとらわれて、書き込んでいた人も多いですから」(同前)

 福永弁護士のもとには、封書を受け取ったり、訴訟を起こすという報道を見た「アンチ(特定の人を激しく嫌悪する人)」が多数連絡してきた。

「100件近くの謝罪があり、そのほとんどが女性で、主婦の方もかなりいました。『投稿したことも忘れていました』と謝ってくる人や、『ほかのアンチの情報を教えるから、訴えないでほしい』と、他人の本名や住所を送ってきた人も。はあちゅうさんのホームページに、直接謝罪のメールを送る人もいますね」(同前)

 はあちゅうさんは、そんなアンチたちの反応を、冷めた思いで見ている。

「彼ら彼女らの情報が開示されて、本名がわかっても、『……誰?』という感じで。相手の顔が見えないんですよね。慰謝料や和解金も、裁判費用になるかならないか。

 裁判のために過去の誹謗中傷を読み返す作業は、本当につらいです。『私は何と戦っているんだろうな』と思うこともあります」

「今後は訴えます」とSNS上で宣言した後は、パタリと誹謗中傷はなくなったという。次のページでは、実際にはあちゅうさんに誹謗中傷の書き込みをしていた、“元アンチ” 女性2人の告白を掲載する。

●「私、誹謗中傷していました…」元アンチ女性2人が懺悔告白

●九州在住・Aさん(32歳、自営業)の告白
「ふつう子供が生まれたら、『子供に対してお手本でいなければ』という、親としての自覚が出てくるじゃないですか。それなのに、彼女は出産してからも全然スタンスが変わらなくて。『子供が大きくなって、この書き込みを見たとき、どう思うのかな』みたいに呟いたりしていました。

 私が会社にいたときは、上司と意見交換をしたり、組織の人と調和してうまくやっていかなければなりませんでした。彼女は奔放で自由な生き方をしながら、家計も生活も成り立っている。そんな状況が自分と違いすぎて、彼女が嫌いだったんでしょうね。

 一応、彼女には謝罪のメールを送りましたが、私は彼女に対して反対意見を述べただけで、『死ね』とか『ブス』とか書き込む人とは違うと思っているんです。

 ただ、私の人生に関係ない人なのに、わざわざ彼女をフォローして、発言を自分で見に行って、そこに書き込んだという自分の行動自体は愚かでした。

 それでも、彼女が訴訟を始めたときは、『自分は大丈夫なのかな』と怖くなりましたね」

●関東在住・Bさん(36歳、主婦)の告白
「掲示板サイト『ガールズちゃんねる』に、はあちゅうさんを傷つけるような書き込みをしていました。期間は数カ月くらいです。

 当時よく掲示板に、はあちゅうさんのトピックができていて、最初は見ていただけだったのですが、書き込んでみると、イベントに参加したような楽しさがありました。

 書き込みに対して「いいね!」なら+ボタン、否定的なら−ボタンをクリックします。+が多いと文字が大きくなり、−が多いと文字が小さくなっていくんです。それがいかにも『さあ、叩こう』という雰囲気で、私も『彼女はおかしい。信じられない』とか、次第に強い言葉で書くようになっていました。

 ある日、ふと彼女のインスタを見たんですね。ご家族の生活をサルの漫画で描かれていたのを見て、彼女はかわいらしい方だと思いました。そのとき、『ああ私、この人を傷つけているんだな』と思って。きっぱりと、掲示板を見ることがなくなりました。今は、ご家族3人で、幸せな毎日を送っていただきたいと思うばかりです」

はあちゅう
1986年生まれ 家族生活を赤裸々に綴ったブログは、アメーバランキングで常に上位

ふくながかつや
1980年生まれ 冒険家としても活動している。元タレントのおかもとまりさんなど、誹謗中傷案件の弁護を多く手がける

イラスト・まるはま

(週刊FLASH 2020年12月22日号)