「成功確率は10%」アマゾン創業者ジェフ・ベゾスはなぜ賭けに勝てたのか
※本稿は、桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)を加筆再編集したものです。

■インターネットビジネス黎明期からの旗手
(ブラッド・ストーン著、井口耕二訳『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』日経BP社)
多くの企業がコロナ禍で逆風となる中、巣ごもり消費の増加で売り上げを伸ばしているのがアマゾンです。時価総額は今や1兆5000億ドルを超え、同社の株式の11%を保有する創業者ジェフ・ベゾスの資産は約20兆円と、2位のビル・ゲイツを大きく引き離して世界一のお金持ちの座を確固たるものとしています。
もはや無敵の存在となりつつあるジェフ・ベゾスですが、これまでに3度の逆境を経験しています。
1度目の逆風は1994年の創業から翌年のサービス開始までです。同年初め、金融会社のD・E・ショーに勤務していたベゾスはインターネットの急成長に気づき、「年に2300%も成長しているとなると、すぐに行動に移さなければなりません」と同社を退社、同年7月にアマゾンの前身「カダブラ」を登記(95年2月にアマゾンを登記)しています。
同時にサービスを開始するためのシステム開発なども進めていますが、当時、インターネットによるビジネスの将来性を理解している人はほとんどいませんでした。実際、べゾスの「インターネットで本を売る」というアイデアについて、のちにアマゾンから手痛い反撃を受けることになる書店の人たちの評価は「コンピュータおたくが何かいってるぞ」程度のものでした。
■資金難に悩んだ起業直後
人は自分が理解できないものにお金を投資しようとは思いません。そのためベゾスは金融機関に勤務していた頃の自己資金のほか、両親からも投資してもらいますが、利用者に良いサービスを提供しようとすればするほど多額の投資が必要になり、資金的にはしばしば危機に陥っています。

困り果てたべゾスは、友人に「君だけでも小切手を切ってくれ。誰かが行動を起こしてくれないと、誰も動かないんだ」と懇願。最終的に20人の投資家から98万ドルを調達し、しばらくしてベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンスからの投資を得て、ようやく資金難から解き放たれています。
その後も株主たちからは、成長はしても利益の出ないアマゾンの経営に関して株主総会などで非難されることもありました。しかしベゾスは「現在の損失は将来の大きな売り上げと利益を得るために不可欠なもの」と主張することで、利益の出ていない企業の巨大な可能性」をウォール街に納得させます。
通常、株価はその企業の売り上げや利益によって決まるものですが、べゾスは「現在の売り上げや利益」ではなく、「未来の巨大な売り上げと利益」を株主たちに信じ込ませることで、多くの創業者が直面する「ウォール街からの圧力」を見事に乗り切ったのです。当時のアマゾンは利益はなくとも株価は上昇する企業だったのです。
■ITバブル崩壊で21カ月連続株価下落
そんなベゾスの戦略が大きく狂ったのが2000年から2001年にかけて起きたITバブルの崩壊と、それにともなって株価が21カ月連続で下落した時です。それまでの「ネット時代の寵児」は一転して、「ネット時代のスケープゴート」となり、ウォール街からのベゾスへの圧力は日に日に強くなっていきました。実際、多くのIT企業が倒産したり、身売りに追い込まれました。
当時を振り返ってベゾスは「自分が大事にしていた貴重な人が去っていった、憂鬱な日々だった」と振り返っていますが、それでもベゾスは「株式市場は短期的には投票機、長期的にははかり」であるというベンジャミン・フランクリンの有名な言葉を引用して、社員たちに「自分と株価は別物」であり、株価の下落などを気にすることなく「顧客第一」を貫くように檄を飛ばしています。
■見るべきは「株価」ではなく「顧客満足」
この時期、ベゾスは会社の体質改善などを行うことでごくわずかの利益を捻出し、「利益の出せる会社」であることを証明する一方で、『ハリー・ポッター』シリーズの最新作を大幅に値引きしたうえで配送するという一大キャンペーンを手がけます。1冊当たり数ドルの損失覚悟で実に25万冊を販売したべゾスは、「話題作りとしても損失が大きすぎる」と揶揄するウォール街の人々に「顧客にとっていいことは株主にとって悪いことという二者択一でしか考えられないのは素人だ」と豪語しました。
事実、アマゾンへの顧客の評価は急上昇し、さらに多くの顧客を獲得することに成功したのです。株価の下落に落ち込む社員には「自分と株価は別物だ。株価が30%下がったからといって、30%頭が悪くなったと感じなくていいだろうと檄を飛ばしています。
見るべきは「株価」などではなく、「顧客満足」であるという信念こそがベゾスに逆風を乗り切る力を与えたのです。企業を評価するのは「ウォール街」ではなく「ユーザー」であるという信念がベゾスの支えでした。
■「アップルへの恐怖」から生まれたキンドル
3つ目の危機は肝心の「ユーザーから見放されるのでは」という不安でした。
ベゾスが最初の電子書籍リーダー「キンドル」を発売したのは2007年のことですが、実は、そこにあったのは恐れでした。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズがiPodを発売してアマゾンの音楽事業に多大な影響を与えたことによる、「もしアップルが電子書籍に進出したら中核事業が壊滅的な打撃を受ける」という恐れです。
ベゾスは本が大好きでしたが、いつまでも紙に印刷された本にこだわっていてはアップルなどに食われることになりかねません。「他人に食われるくらいなら、自分で自分を食った方がマシだ」と考えたべゾスは2004年から電子書籍リーダーの開発に着手、アップルに先んじて「デジタル読書の時代」を切り開こうとしたのです。
こうした決断と、クラウドサービスの「AWS」への参入などもあり、以後、アマゾンは大きく成長、今やアップルやマイクロソフト、グーグルなどと並んで時価総額1兆ドルを優に超える巨大企業となったのです。
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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
