阪神・矢野燿大監督【写真:津高良和】

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首位・巨人に逆転負け、藪氏が「一人一殺で良かった」という6回裏

■巨人 6-3 阪神(15日・東京ドーム)

 阪神は15日、敵地・東京ドームでの巨人戦に3-6で逆転負けを喫した。首位・巨人との決戦で敗れた阪神は自力Vが消滅し、巨人にはマジック38が点灯。正念場での戦いに敗れ、ゲーム差を10.5まで広げられた阪神だが、「競った場面で最後に物を言うのは気迫。阪神には勝利への執念が足りなかったと思います」と手厳しく指摘するのが、球団OBでメジャーでも活躍した藪恵壹氏だ。

 この日から始まった3連戦のうち、1勝でもすれば優勝へのマジックが点灯する巨人に対し、阪神は優勝への望みを繋ぐためには3連勝が必須。まずは何が何でも初戦は勝っておきたい状況だった。今季は東京ドームで6連敗中。藪氏曰く「なぜか余所行きの野球になってしまう」阪神は、巨人のエース菅野智之を相手に初回、先頭・近本が右前打で出塁すると、2番・梅野にバントで送らせ、確実に1点を奪いにいった。

「初回に1点が欲しいからバントも分かるんですけど、2点、3点とは入らない、とりあえず1点で終わってしまう攻め方。ああいう点の取り方をするんだとしたら、6回は死に物狂いで失点を防ぎにいかなければいけませんよね」

 藪氏が言う6回を振り返ってみよう。阪神が3-2と1点リードで迎えた6回裏。マウンドに立つ先発左腕・高橋遥人は先頭・松原に右翼線へ二塁打を運ばれ、続く亀井に右前打で無死一、三塁。さらに4番・岡本にセンター前に同点タイムリーを許し、丸にも右前打を浴びて無死満塁としたところでマウンドを下りた。

 一打逆転の大ピンチで、阪神・矢野監督が白羽の矢を立てたのが、左腕の岩貞だった。今季、先発から中継ぎに回った岩貞は、まず中島を空振り三振に斬って1死を奪ったが、続く大城にライト前へ2点タイムリーを献上。逆転を許してしまった。藪氏は、この場面を「一人一殺でも良かったのではないか」と話す。

「あそこは代打が出る可能性もあったとは思いますが、ピンポイント継投をしていい場面でした。まずは中島選手に対して右腕を当てる。例えば、桑原投手でも良かったでしょう。そして、岩貞投手は大城選手の打席からの登場で良かったと思います。先発が左腕だったので、僕は左腕から左腕へのスイッチにはすごく違和感を感じてしまう。マッチアップを考えるなら、中島選手に右腕を当て、左→右→左と必死に一人一殺の構えで臨み、同点で切り抜けたかったですね」

7回の得点機にバントをせずにバスターエンドラン「そこで作戦負け」

 もう1つ、藪氏が「必死さが見られなかった」と指摘する場面がある。それが7回表だ。

 2点勝ち越された直後の攻撃で、阪神打線はチャンスを掴む。巨人の2番手左腕・高梨は制球が定まらず、阪神は内野安打と四球で無死一、二塁と絶好機を迎えた。ここで打席に立ったのは、最近2番で起用される捕手の梅野だった。藪氏の解説を聞いてみよう。

「ここは初球にバントのサインが出ていたと思います。でも、初球は外角ツーシームでボール。これで矢野監督はサインをバントからバスターエンドランに変更しました。器用な梅野選手なら空振りしない自信もあったんでしょう。でも、結果は2球目内角スライダーを空振りしてダブルスチール失敗。1死二塁となり、梅野選手は結局、二塁ゴロ。続く糸原選手もショートゴロで1点も返すことができませんでした。

 バントで確実に送っておけば、1点は返せたかもしれない場面。1ボールから1回バントをやりにいってファウルしたらバスターエンドランに切り替えても遅くはなかった。そこで作戦負けしてしまいました」

 この日、巨人の投手陣は決して状態がいいわけではなかった。開幕から11連勝を飾った菅野は「全然良くなかったですよ。近本選手に2発打たれて、5回が終わった時点ではフラフラでしたよ」と藪氏。2番手の高梨は制球に苦しみ、守護神デラロサも1死一、二塁から失点しそうな場面で吉川尚の好守に助けられた。だが、相手の弱みにつけ込めなかった阪神。「勝利への執念で負けていたということですよ」と手厳しい。

 自力Vこそ消えたが、残り47試合。貪欲に、そして勝利への執念をむき出しにすれば、まだ何が起こるか分からない。ここからの戦い方こそ、チームの真価が問われるのかもしれない。(佐藤直子 / Naoko Sato)