音楽と合わせた短いムービーを作成・共有できる「TikTok」は世界で最も人気があるアプリの1つとなっていますが、その裏ではプライバシーに対する懸念が噴出しています。TikTokによるデータ収集の量は確かに多いものの、FacebookやGoogleといった企業も同様に多くのデータを収集しているそうで、「TikTokによるデータ収集の何が問題なのか?」についてBloombergやThe Vergeがまとめています。

TikTok’s Massive Data Harvesting Prompts U.S. Security Concerns - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-14/tiktok-s-massive-data-harvesting-prompts-u-s-security-concerns

TikTok’s biggest problem is outside its control - The Verge

https://www.theverge.com/interface/2020/7/14/21321926/tiktok-bans-bytedance-us-china-trump-facebook-political-ads

TikTokがユーザーのさまざまな情報を収集していることは、すでに多くの専門家や公的機関から指摘されています。たとえば、アプリを起動していない状態でもIPアドレスやGPSなどを使ってユーザーの位置を追跡し、アドレス帳の連絡先や写真、ムービーなどにアクセスしているとのこと。これらのデータ収集はユーザーが位置情報機能をオフにすれば止まりますが、一方で、位置情報が利用できないとナビアプリなどに影響が及ぶ点が問題です。

さらにTikTokアプリのアルゴリズムを洗練させるため、ユーザーがどういったトピックやウェブサイトを好むのかや、TikTok上で作成したメッセージなどを読み取ります。また、2020年6月には「TikTokがユーザーに無断でクリップボードにコピーした文字や画像を読み取っている」ことが指摘され、大きな波紋を呼びました。

こうした問題を受けて、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官やドナルド・トランプ大統領は、アメリカ政府としてTikTokの規制を検討しているとコメント。政権幹部の発言に続いて、民主党全国委員会(DNC)や共和党全国委員会(RNC)が「TikTokプライバシー上の懸念がある」と関係者に警告したり、Amazonが従業員に対し「TikTokを社内のメールにアクセスするスマートフォンから削除するように」とメールで通達したりしています。なお、Amazonはこのメールが誤って送信されたものだとして、すぐに撤回しています。

Amazonが従業員に「TikTokをスマホから削除するように」と通達するも間もなく撤回される - GIGAZINE



by Marco Verch Professional Photographer and Speaker

TikTokのデータ収集が問題視される一方で、セキュリティ研究者はTikTokが収集するデータの範囲はFacebookやGoogleとあまり変わらないと指摘。Facebookは以前からユーザーの通話履歴やSMS履歴などを収集しており、プライバシー上の懸念が指摘されてきました。また、Googleは2020年6月、「Chromeがシークレットモードでも通信を傍受・追跡・収集していた」として集団訴訟を起こされています。

世界的に大きく問題視されたクリップボードの読み取りについても、TikTokだけが行っていたわけではありません。さまざまなアプリを調査した結果、AccuWeatherやNew York Timesのアプリを含めた50個以上のアプリが同様の読み取りを行っていたことがわかっています。

一体なぜTikTokのデータ収集が大きな問題に発展しているのかという理由について、研究者らは「データの使い道」が問題だと指摘。セキュリティ研究者のOded Vanunu氏は、「TikTokの問題は収集されるデータの量ではなく、誰がデータにアクセスできるのかという点です」と述べています。

また、テクノロジーの倫理について研究するノートルダム大学のKirsten Martin教授は、「私たちはGoogleやFacebookがTikTokと同様に多くのデータを収集していることを知っていますが、彼らはデータを利益を上げるために使っています。問題はTikTokが集めたデータで何をしているのか、そしてデータが攻撃者の手に渡っているのかどうかがわからないことです」とコメント。セキュリティ専門家らはデータがTikTokとつながりのある中国政府によって使われることを懸念しているとのこと。



by Will Clayton

TikTokの広報担当者は、「TikTokが集めるアメリカ人のユーザーデータは他の多くの企業より少なく、収集したデータはアメリカおよびシンガポールで保管されています。私たちはデータを中国政府に提供していません」と述べています。TikTokは一貫してデータを中国政府に渡していないと主張しており、親会社のByteDanceは独立したグローバル本社を設立して企業構造を変更することを検討しているほか、2020年5月にはディズニーの元幹部でありアメリカ人のケビン・メイヤー氏をTikTokのCEOに任命するなど、中国政府寄りの企業ではないと主張しています。

しかし、TikTokの利用規約では収集されたデータが親会社や子会社、関連会社と共有する場合があると記されており、以前のプライバシーポリシーのバーションでは「法的に必要な場合」に法執行機関や公的機関とデータを共有する可能性があると警告されていました。アメリカ政府はTikTokが中国政府とデータを共有しているとの証拠を示していませんが、中国政府がデータを要求した場合、TikTokはデータの引き渡しに応じるだろうと懸念されているとのこと。

オバマ政権下で政府問題委員会の専門スタッフとして勤務し、ピッツバーグ大学でサイバー法や政策について研究しているKiersten Todt氏は、「結局のところTikTokは中国の企業です」と指摘。中国政府の諜報機関はTikTokが自らデータを引き渡さなくても内部のデータをハッキングすることが可能であり、アメリカの若者に広く普及したTikTokのデータは、中国政府にとって大きなアドバンテージになり得ると述べました。