福山 潤「喋ることは僕にとってのナルシシズム」――声優活動20周年に誕生した“多弁ヒーロー”
福山 潤は、とにかくよく喋る。45分程度のインタビューで彼が喋った言葉は、2万字に近い。怒涛のように喋りまくる彼の表情は常に真剣。取材の途中で小さな地震が起こったのだが、まったくの無反応。顔色ひとつ変えずに、機関銃のように喋り続けている。「人を楽しませようと思って喋っているわけじゃなく、自分が喋りたいから喋っています」と断言する福山だが、だからこそ、彼の喋りからは人を飽きさせない、不思議な魅力が感じられるのだろう。そんな“多弁ヒーロー”のロングインタビューをお届けする。

撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
スタイリング/九(Yolken) ヘアメイク/小田桐由加里





「どう聴いていいかわからない」狙った通りの反応だった!



――1stシングル『KEEP GOING ON!』が2月15日にリリースされました。

『KEEP GOING ON!』から始まって、ショートコントの『多弁ヒーロー JUNJUN MAN』が入って、最後に『ランプジェンガ』という流れが、個人的にはものすごい面白いバランスだと思うのですが……みなさん、狙った通りの反応をしていただけたので嬉しいですね。

――狙った通りとは?

どう聴いていいか、わからないっていう(笑)。『KEEP GOING ON!』の後に急にコントが始まって、「ん? なんだこれ?」ってなって。コントが終わったら、しっとりとした曲に変わって、「どう反応していいんだろう?」と。それでもう1回聴いてもらえたら、儲けもんだなあと(笑)。

――そういう意味で、狙った通りと(笑)。

そうですね。パッケージとしてその落差を楽しんでもらえたらいいなあと、ニヤニヤしながら思っています。ストレートにはいかないよって(笑)。聴いていただいた方々に、おおむねその部分を楽しんでいただけているようなので、よかったなと思っています。



――ジャケットの写真からして、強烈なビジュアルですよね。

そうですね、フクロウと並んで写ってますからね(笑)。ビジュアルのインパクトとして、フクロウと一緒に写るってやっぱり大きいですよね。このフクロウ、かなり凛々しい感じの子だけど、ハナコちゃんって言うんですよ(笑)。

――福山さんとハナコちゃんのバランスが絶妙です(笑)。

本当に……ジャケット姿でキメてる僕の横に、カメラ目線のハナコちゃんがいて。どっちがメインかって言ったら、まあ、基本ハナコちゃんだなあっていう(笑)、この感覚がよかったなと思っています。

――このビジュアルで、この3曲というのが驚きだったのですが(笑)。

言葉を選ばないで言うと、みんなバラバラじゃないですか(笑)。でもその、バラバラなのがひとつのものになって、いいバランスになっていると面白いなあと思って。バラバラなようでバラバラじゃなく、まとまってるようでまとまってないみたいな微妙なラインは、個人的に狙いたかったところですね。



――福山さんがシングルをリリースされるということで、「どんなものを出してくるのかな?」と思っていました。個人的に、福山さんってトリッキーなイメージがあったので…(笑)。

そうなんですよね(笑)。僕自身は「トリッキーなことをやりたいんだ!」とは思っていないんですけどね。僕ら声優って、それぞれの個性でいろんな音楽の表現をしているじゃないですか……ポップだったり、ロックだったり。

――ジャンルはさまざまですね。

だから僕は僕の個性で、自分のやりたいテイストを、まっすぐにやらせてもらえたらいいなあってくらいの気持ちなんですよね。でもやっぱり周りからは、「またアイツ、ちょっとひねって」とか、「普通にやればいいのに、普通にやらないで」とかって言われることもあるので、そのたびにニヤっとしますね(笑)。



正直なところ、歌は苦手なジャンルに入っていた



――今おっしゃられたように、最近では声優さんがさまざまなスタイルで音楽活動をされていますが、福山さんは音楽活動で目指していきたいことなどはありますか?

僕個人が歌を出して、アーティストとして一旗揚げるぞ! とは、微塵も考えていなくて。今の声優の魅力って、あえて言うとすれば、「よく知られてはいないけれど、まったく知られていないわけでもない」というところで、それがとてもプラスに働いていると思うんです。

――なるほど。

すごくいいラインのところにいるので、僕ら声優のなかでも……精力的にアーティスト活動をされている方もいるし、それこそ、そちらに重きを置いている方もいて、バラエティに富んでいるんですよね。だから僕は、言い方が悪いですけど、そういう環境を隠れミノにして、自分が楽しいと思うことを、たくさんやらせてもらおうかなあと思っているんです。



――声優の認知度が高まっている、今の時代ならではですね。

まさにそうですね。これが30〜40年前だと、声優の顔なんてまず知らないですよね。アニメを観ていて「魅力的なキャラクターだな」と思っても、誰が演じているかわからない。それが今、メディアの発達で認知度が高まって、みなさんの興味が向いてきていることを実感しますね。

――一方で、裏方のイメージを持って業界に入ったのに、表舞台に立たないといけないことに戸惑い、悩まれている声優さんもいらっしゃるようですが…。

そうですね。声優とは本来、アテレコやナレーションといった、いわゆる“語部(かたりべ)”の代役として技術体系が完成した業界なので、そこを忘れないようにすることは必要だと思います。だから、悩まれている方は大いに悩んだらいいと思うんです。

――福山さんの場合はいかがでしょうか?

僕、30歳までは個人活動をやっていないんですよ。声優になったときの方針として、「30歳までは、自分の名前では一切仕事をやらないです」って事務所と話して。キャラクターボイスとして名前が出るのはいいけど、アニメ作品の冠がない個人の名前でのラジオとかは基本やらない方向で、声優としての本業だけをやっていたんです。



――それはなぜですか?

声優として、ある程度の足場を自分で築くことが、僕にとっては最優先だったので。足場を築く前にほかのことまでやってしまうと、そっちが楽しくなっちゃって、そっちばかり見ちゃうようになるのが怖かったんです。そういった理由があって、個人名義のアルバムも31歳になるタイミングで、出させていただいたんですよね。

――なるほど。

だから僕の場合は、自分で築いた足場を見ながら、それを揶揄するようなこともやったり、もしくは今回のラップみたいに、これまでやってこなかったことをやれるチャンスをいただけているので……。僕自身が楽しんで、聴いていただく方たちにも楽しみとして提供できたら、最高かなあと思っています。

――今回の作品はとくに……こう言ったら失礼かもしれませんが、本気度が高い感じがしました。

歌の活動をやっていなかった約4年のあいだも、キャラクターソングなどは歌っていたので。そうやって本業として、歌のパフォーマンスの向上をはかっていったうえで、できることが少しずつ増えてきたっていうのはありますね。正直なところ最初の頃、歌というのは僕にとって苦手なジャンルに入っていたので…。



――意識が変わった?

率先しようと思っていなかった歌の活動が、いろんな方の支えやアドバイスのもと、形になって、楽しませてもらえてたので、さらに良い方向へとフィードバックしたいなあという思いがありましたね。それに今、自分にできることを、恥ずかしげもなく本気でやったらどうなるんだろう? っていう興味もありましたし。

――それが今回の1stシングルということで。

そうですね。今回は最初から「歌とショートコントのセット」という企画だったので。それってもう、僕が数年前から、やりたいやりたいって言っていた手法だったんですね。だから、渡りに船ということで(笑)。

――(笑)。



ミュージックビデオも含めて、『KEEP GOING ON!』ではスカした僕をやってみて。ショートコントでは、自分の持っている力を無駄に使うっていうのをやりたかったんですよ(笑)。今回はそういったことを存分にできたので……さきほど「本気度」とおっしゃっていただきましたが、本気でできる題材を用意していただけたっていうのはありますね。




とにかく喋る、福山 潤のドキュメントコント



――今回の1stシングルは、すごく年齢が出ていると思いました。スカした感じって、若いときには恥ずかしかったりするものだと思うので、まさに今の年齢に達したからこそ、やれたのかなあと…。

そう言っていただけるとありがたいですし、嬉しいですね。歌もそうですが、まず、コントができなかったと思います。僕、学生時代から音声コントが好きで、いつかオリジナル作品をやってみたかったんですよね。でもおそらく、2〜3年前だと、「まだちょっと厳しいかな?」って思っていたんじゃないかなあと。

――そういう意味で、度胸がついた?

そうですね。「今はそのタイミングじゃない」とか言っていたら、絶対にできなくなるので、やりたい気持ちに従うのも必要だと思います。それが今、松原 秀さん(脚本家・放送作家)との出会いもあって、いいタイミングで第一歩を踏み出すことができましたね。10代の頃から音声コントはやりたかったので、実現するまでにだいぶ時間がかかりましたけど(笑)。



――そうしてできた音声コント『多弁ヒーロー JUNJUN MAN』はいかがですか?

まだまだ粗いものではありますが、その粗さが恥ずかしくもあり、面白くもあり……もう収録からだいぶ経っているので、今聴いたら「ここは、こうやればもっと流れるようにできたな」とか思うんですよね。あのスピードで一気にやるっていうのは、僕も初めてだったので。でも、そういった反省点を活かしたものよりも、そのとき作ったもののほうが絶対に面白いと思うので。

――なるほど。

そういった反省点を自分で出せるのが面白いと感じられるようになったのも、年齢のせいかなあと思います。30歳ぐらいでこれをやっていたら、「聴きたくない」とかっていう……やりたいくせに後ろ向きな気持ちがあったかもしれませんが、今はこういった粗いものを届けて、みなさんが笑ってくれたら嬉しいなあって素直に思います。これは、明らかに年齢のおかげだろうなとは思いますね(笑)。

――本当に今回も松原さんの台本は絶妙で。どうやっておふたりで作っていったのでしょうか?

まず今回のシングル用に、6〜7本ぐらいネタ出しをしました。プロットは松原さんに作ってもらいつつ、ふたりで飲みながらネタ出しをやっていったんですね。そのなかで、松原さんから「“多弁ヒーロー”っていうのをやってみたい」という話が出てきて。



――なぜ「多弁ヒーロー」が出てきたのでしょうか?

TVアニメ『おそ松さん』(松原さんが脚本を担当、福山さんは一松役で出演)で1年近く一緒に仕事をしてみて松原さんが思ったのは……どうも僕はよく喋るらしいと(笑)。何度か飲みに行ったんですけど、そのときもずっと喋っていて、「とにかく喋りますよね」って。まあ、今もこうやってずっと喋ってるんですけど(笑)。

――(笑)。

それで、松原さんと話しているなかで、僕は人を楽しませようって……第一には思っていないんです、と。楽しんでくれたら最高だけど、根本的に自分が喋りたいから喋っていますっていうのから、多弁ヒーローが始まったんですよね。

――どこまで福山さんの本心が台本に入っているのかなあと思いました。

松原さんはあれを「ドキュメントだ」って言っているんです。たとえば、ちょっとした笑いをとるために自分の身を切って、帰ってから吐きそうなほど後悔するっていうのは、完全に僕です(笑)。正直な話、周りからのツッコミがいらないこともありますっていうのも僕ですね(笑)。だからまあ、ドキュメントって言われても……しょうがないかなあと(笑)。




「おとこまえ」よりも「おっとこまえ」に憧れる



――1曲目の『KEEP GOING ON!』についても教えてください。

HOME MADE 家族のKUROさんに歌詞を書いていただいたんですが、僕とKUROさんは歌詞ができあがるまで一切接触を取っていなくて。何も知らないはずのKUROさんが、まるで僕のことを知っているかのような、僕自身が思っていたことに重なるフレーズがたくさん書いてありました。いろいろと調べたり、想像して作っていただいたんだなあとわかる歌詞で、言葉の使い方も含めて、すごく直球で好きですね。

――3曲目の『ランプジェンガ』は、作詞がOOPARTZのRYUICHIさん、作曲が同じくOOPARTZのJUVENILEさんですね。これも『KEEP GOING ON!』と同じような作り方でしたか?

『ランプジェンガ』の歌詞に関しては、ある程度の骨格まで作っていただいてから、細かい部分やニュアンスを作り込むために、RYUICHIさんとJUVENILEさんと僕の3人でお話しました。RYUICHIさんからインタビューしていただく形でいろんな情報をお渡しして、仕上げていただきましたね。

――さらに今回は、ミュージックビデオでダンスもされています。

やりましたねえ。あれ実は、ほとんど振り付けがなかったんですよ。最初の段階で言われていた、「福山君は、真ん中に立って歌っててね。周りでみなさんに踊っていただくから、堂々としててくれたらいいから」っていうのを鵜呑みにして現場に行ったら、「いや、そんなはずないよな」っていう(笑)。



――ですよね(笑)。

それで、とりあえず思うままにやってみようって。今回、RYUICHIさんのチームに踊っていただくということで、振り付けのビデオはあらかじめ観させていただいていたんですね。現場でも視界の範囲にRYUICHIさんたちの動きが見えてるので、たまたまシンクロできている部分が多くて。「あ、なんか振り付けを合わせたみたいになってる。ラッキー」みたいな感じはありました(笑)。

――今回、“カッコいい福山 潤”がテーマということですが、それぞれの曲のカッコよさはどこにあると思いますか?

『KEEP GOING ON!』は歌も歌詞も含めて、正面から、恥ずかしがらずにやりますよっていう堂々としたもの……タイトル通り、このまま行くぞっていうカッコよさですね。

――『多弁ヒーロー JUNJUN MAN』は?

さきほどおっしゃっていただいたトリッキーなものも含めて、ちょっとおかしなことが好きなのは事実なので、それを全力でやる俺カッコいい、みたいなナルシシズム…。



――ナルシシズムですか(笑)。

多弁ヒーローは、僕にとってはナルシシズムなんで(笑)。鏡を見て「俺カッコいい」とかじゃないんですよね(笑)。だからあれは、僕にとってのナルシシズムなんですよ。

――なるほど、それはとても福山さんらしいですね(笑)。『ランプジェンガ』はいかがですか?

テンションが高くなかったり、トリッキーじゃない部分も自分のなかにはやっぱりあって。そこをRYUICHIさん(作詞)とJUVENILEさん(作曲)が切り取って、いい形にしてくださったので、その雰囲気をそのまま自分も表現できたらいいなあと思いました。それをカッコいいと思ってくださる方も、いらっしゃるのかもしれないですし。

――受け取る側が感じるカッコよさも、それぞれ違いますし。

そうなんですよね。カッコよさって、人によって違うじゃないですか。僕、大阪出身なので……「おとこまえ」と「おっとこまえ」で意味が違うみたいなのがあるんですが、「おとこまえ」よりも、「おっとこまえ」のほうに憧れるんですよね。だから、トータルで「おっとこまえ」になれたらいいなあって。そういった意味で、3色のカッコよさが出ていればいいですね。

――最初に聴いたときに、いいバランスだなあと思いました。

ありがとうございます。でも、できあがって続けて聴いたときに、よくこれをやろうって言ってくれたなあって僕は思いましたね(笑)。本当に、よくGOを出してくれたなって心から思いました。