27日の臨時総会に向けて、事態は動き続けている

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「これから『28人の名前』を読み上げます」。常務理事の発言に、出席していた棋士たちから次々と怒りの声が上がった。「なんでそんなことをする必要があるんだ!」──2月6日に日本将棋連盟が開いた臨時総会は、東京・渋谷区にある将棋会館と大阪市の関西将棋会館をテレビ電話で結んで行なわれた。

 釈明に追われる執行部の面々を見つめる140人以上のプロ棋士たち。臨時総会はかつてない紛糾の様相を呈した。その理由はもちろん、名人順位戦A級(名人戦への挑戦を10人で争うリーグ戦)に所属するトップ棋士・三浦弘行九段(42)の“スマホ不正使用疑惑”を巡る騒動だ。

 昨年10月、三浦九段が対局中に離席してスマホの将棋ソフトを使用している疑惑が浮上。連盟は三浦九段に年内出場停止処分を下したが、同12月に連盟の設置した第三者委員会が「不正の証拠はない」との結論を出し、谷川浩司会長(54)と島朗常務理事(53)が引責辞任に追い込まれた。

「臨時総会では報道陣を完全シャットアウト。辞任した2人の後任として佐藤康光永世棋聖(47)と井上慶太九段(53)が新たに選任され、その後の理事会で佐藤永世棋聖が新会長に就任することが決まった。

 議論が紛糾した発端は、新理事選任後に『今回辞任した2人だけでなく、他の5人の専務理事、常務理事も解任すべき』という動議が提出されたことでした」(参加した棋士の一人)

 将棋連盟の定款では、現役棋士や引退棋士らで構成される正会員235人のうち10分の1以上の賛同があれば臨時総会が招集できると定められている。

「今回の理事解任動議には、28人の正会員の署名があったため、2月27日に臨時総会が再度開かれることに決まりました。ところが、常務理事の一人である片上大輔六段(35)が、署名した人間の名前を読み上げようとしたところ、出席者から反発の声が上がったのです」(同前)

◆時間稼ぎはやめろ!

「反対の声が上がったのは、署名した28人が、“現執行部に反旗を翻した棋士”として世間に晒されることを恐れたからですよ」

 そう語るのは株主優待を使いこなす“財テク棋士”として知られる桐谷広人七段(67)だ。

「何を隠そう私は動議に署名した28人のうちの一人です。理事たちは、連盟の顧問弁護士に相談せずに三浦九段の処分を決め、組織に多大な損害をもたらしたのだから、辞任は当然でしょう。この動議がなければ、5人の理事は辞める気などさらさらなかった。今回、私は講演の仕事があったので総会には出席していませんが、動議に署名していたので詳細な情報を入手しています。

 私は2007年に引退しているから何をいわれてもいいが、動議に署名した現役棋士たちは、名前を公表されたら連盟やその周辺から仕事が回ってこなくなる恐れがある。過去には現職理事からの頼み事を断わっただけで仕事が来なくなったと嘆く棋士もいました」

 28人の名前が読み上げられれば、それが反執行部派への締め付けにつながるとする見方だ。

「今回署名したのは28人、動議に賛同しているのに報復を恐れて署名できなかったという棋士が多いと聞いている」(桐谷七段)

 動議を巡る騒ぎが収まった後も、会長代行として臨時総会に臨んだ専務理事の青野照市九段(64)らに厳しい声が相次いだ。

「三浦九段の問題に関する執行部への質疑が始まってからも、『記者会見の始まる時間が決まっているので、30分くらいしか時間が取れない』という説明があり、“おかしいじゃないか”といった声があちこちから上がりました」(前出の出席した棋士)

 結局、そうした抗議の声を受けて質疑応答は予定時間を大きくオーバーしたという。

「のらりくらりと関係のない話をする執行部に対して“時間稼ぎはやめろ”という怒号が飛んだし、一説には4000万円以上ともいわれる三浦九段への慰謝料がいくらになるのかという質問も出ました。執行部側は『(金額は)まだ決まっていない』などの回答に終始しました」(桐谷七段)

◆「大阪」は動くのか

 本誌は1月30日発売号(2月10日号)で、三浦九段の師匠で元連盟理事でもある西村一義九段(75)の独占告白を掲載。西村九段は将棋連盟を厳しく批判した上で、「理事の総辞職」と三浦九段への「慰謝料1億円支払い」を突きつけた。

 奇しくも、臨時総会ではまさに西村九段が訴えた「理事の解任動議」や「慰謝料」を巡って議論が紛糾したことになる。桐谷七段はこういう。

「理事解任の動議に発起人として名を連ねた棋士は3人いて、滝誠一郎八段(68)、西尾明六段(37)、上野裕和五段(39)です。

 滝さんは長く連盟の理事を歴任した人で、上野君は故・米長(邦雄)会長時代に“若手の中から代表で理事に送り出そう”ということで選ばれた人物。どちらも正義感の強い棋士という印象です。西尾君は、専務理事の青野九段の弟子で、いってみれば師匠を糾弾する側に回ったわけですから、これには驚きました。3人とも連盟を立て直す信念でやっているのでしょう」

 27日の臨時総会で、過半数が賛同すれば現職の理事たちは解任される。

「多くの棋士たちは、まだ様子見の状況です。執行部への不満にも温度差がある。とくに大阪の棋士は(兵庫県神戸市出身の)谷川前会長への批判が高まるのは忍びないと考えて、今回は及び腰です」(別のプロ棋士)

 三浦九段は2月13日の羽生善治三冠との復帰戦を前に、記者団の取材に応じて“冤罪”に問われた際の苦しい心中を明かすなど、世間の印象は執行部の責任を問うほうに流れている。

「動議への賛同が過半数になって改めて5人の理事を選び直すとなると、かつて理事を務めてきたようなベテラン勢が出てくる可能性もあれば、改革派の若手が立つことも考えられる。そこで派閥争いが起きるようでは、連盟の正常化はまた遠のくことになる」(連盟関係者)

 さらなる内紛に発展する可能性まであるわけだ。解任動議が可決された場合の対応について連盟は「規定に則って進めるほかありません。解任が起きた場合、(理事は)当面は欠員となります」(広報担当者)とするのみだった。

 27日の臨時総会に向けて、事態は動き続けている。

※週刊ポスト2017年2月24日号