「ゆでる」か加熱後「水さらし」をすること

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栄養を逃がさず、手軽に野菜をとれる「蒸し野菜」が人気を集めている。しかし野菜のなかでも、ホウレンソウだけは蒸さないほうがいいのだとか……?

 

――タジン鍋やシリコンスチーマーなど、蒸し料理のための器具がよく売れているようです。野菜を蒸すとかさが減ってたくさん食べられるし、栄養の流出も少ない。油も使わないからヘルシーですよね。でもホウレンソウだけは、蒸すのではなくゆでたほうがいいと聞きました。なぜですか?

 

先生 ホウレンソウにはアクの成分となるシュウ酸が含まれています。歯がきしきしするような感じがする“えぐみ”の成分です。これはおいしさを損なうばかりか、結石の原因になる人もいるといわれています。
 でもシュウ酸はゆでることで取り除けるんです。ゆでるとホウレンソウの葉の組織がやわらかくなり、シュウ酸は水溶性ですのでゆで汁の中に出ていきます。実験では2〜6割ほど減少するという結果もあります。ところが蒸したり、電子レンジで加熱したりすると、閉じこめられてしまいます。

――蒸し料理にしたら栄養は減らないけれど、好ましくないものも減らないということなんですね。

 

先生 そうなんです。冬はホウレンソウの旬の時期です。ホウレンソウは夏と冬では栄養値がまったく違うのは有名ですよね。ビタミンCでいえば、冬のほうがおよそ3倍以上です。栄養素が充実していると、当然ほかの成分も多くなるのでえぐみの成分の1つであるシュウ酸も多くなるのです。

――ということは、おいしく食べるためにも、ゆでたほうがいいんですね。

 

先生 そうです。それからホウレンソウには硝酸も含まれています。これは体に悪い作用をもたらす心配があり、WHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)が主催する専門家会議では1日の許容摂取量を出しています。

――シュウ酸だけでなく、硝酸というものもあるんですか。ややこしいですね。

 

先生 硝酸は窒素から成り立っていますが、植物にとって窒素は私たち人間が栄養素としているタンパク質や糖質や脂質などにあたるもの。つまりそれがないと生きていけない、植物にとって不可欠なものなので、肥料には必ず含まれています。野菜の種類によって硝酸を蓄積しやすい植物と、そうでもないものがあって、コマツナやホウレンソウなど葉物の野菜に多く含まれることがわかっています。でも、硝酸も水溶性なので水を介せば抜けていきます。
 硝酸は人の体内で発がん性の強い物質を生成する可能性があるといわれているんです。ですからある程度食べる量を制限したほうがいいといわれています。

――じゃあますます、ホウレンソウはゆでて体内に入ってくる硝酸の量を減らしたほうがいいですね。

 

先生 そうですね。でも、私は忙しいときは電子レンジでホウレンソウを加熱していますよ。よく水洗いしてラップで包んで、30〜60秒くらい加熱したあと、ザーッと水にさらして食べています。

――大丈夫なんですか?

 

先生 加熱後に水にさらしたので、予想していたほどえぐみは気になりませんでした。
 硝酸の毒性評価は食品添加物の硝酸塩について調べられています。野菜に含まれる硝酸の人体への影響はわかっていないことも多く、最近では硝酸と発がん性の関連を疑問視する見解も出ているようです。

――あまり神経質になる必要はないわけですね?

 

先生 はい。しかしホウレンソウやコマツナをほとんど毎日食べるというなら、やはりゆでたほうがいいでしょう。
 そして同じ量をゆでるのであれば、当然大量の水でゆでたほうがシュウ酸と硝酸が減る率が高くなります。また、ゆで時間が長ければ長いほどより減っていくことも確かです。でもゆですぎるとおいしくなくなるし、栄養も失われてしまう。そのバランスを考えれば、ぐらぐらに熱した大量のお湯にさっとくぐらせてから、水にさらすのがいいと思います。

――ゆでたあとも、水にさらしたほうがいいんですか。

 

先生 はい、でもこの場合はシュウ酸や硝酸を除くためというより、余熱を断ち切って色鮮やかに仕上げるためです。
 ホウレンソウ自体も種類や栽培の仕方によってシュウ酸や硝酸の含有量は違います。多いもの少ないものがありますが、消費者はホウレンソウを買うときにはそれを区別できません。そうであるならば、安全面とおいしさを考えて、シュウ酸と硝酸がたくさん含まれていると想定して、調理することをオススメします。

 

結論:えぐみになる「シュウ酸」と健康に悪い可能性がある「硝酸」に注意 

 

「塩を入れてゆでるとアクが抜ける」という説があるが、先生によれば塩味でえぐみを感じにくくなるからで、シュウ酸が抜けやすいということはないとのこと。鍋料理では生のホウレンソウを放り込んでいたが、これからは一度ゆでたものを入れたい。

 


先生:日笠志津/女子栄養大学助教
生物有機化学研究室に所属。野菜の収穫時期の違い、調理方法や保存方法に伴う野菜のビタミンの変化などを研究している。たくさんの分析機器に囲まれながら、野菜や生体試料のビタミンやミネラルの含有量について日々実験をしている。

(長山清子=構成、撮影協力 市来朋久=撮影
先生:女子栄養大学助教 日笠志津)