AI同時通訳機『ポケトーク』CEO松田憲幸--これはリアル「ほんやくコンニャク」だ!

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今年中にも発売になる予定という『ポケトークX』。相手の話す42言語を77言語の音声とテキストでリアルタイム通訳して理解できるソフトウェア『ポケトーク-Sentio(センティオ)』をベースに開発された据え置き型のAI同時通訳機だ。すでに空港のカウンターなどで実証実験が行われているが、日本人と日本語がまったくできない外国人が、問題なくコミュニケーションをとっているという。

「英語の勉強に苦労したんです。しかも、勉強しても勉強しても、ネイティブのようにはとてもなれない。日本人には、そもそも難しすぎるのではないかと思っていました。もはや魔法のようなものが必要なのでは、と」

売り上げが7倍に

これこそが翻訳機だった。実はソースネクスト創業から6年目に取り組もうとしたが無理だと諦めた。転機が訪れたのは移住から4年後、’16年のことだ。スマホの留守電をテキストで転送するサービスを始めていたが、その精度に驚いた。技術が進化していたのだ。

「翻訳機で重要なのは、まずユーザーが話す日本語をちゃんとした文字に起こすこと。それまでの課題は、日本語の認識能力の低さでした」

ここからは早かった。1年で1号機を世に送り出してしまうのだ。

「翻訳エンジンはそれぞれの言語で最も優れたものを選びました。同じ会社のエンジンを使う必要はありませんから」

これが驚くべき翻訳精度につながった。うまく言葉を拾えるようにマイクの性能にこだわり、面倒な契約は不要、買ったらすぐに使えるようにした。ユーザーからのヒアリングを繰り返し、翌年には画面を大きくし、使いやすくした2号機を送り出す。さらにカメラ機能をつけた3号機も発売。だが’20年、ポケトークだけで90億円を売り上げたタイミングで新型コロナがやってきた。旅行需要は消滅。売り上げの7割が消えた。ところが、思わぬ需要が見つかる。

「実はアメリカには、もともと英語が十分に話せない人が約2割もいたんです」

新型コロナ治療を行う病院で使われるようになると、追加注文の嵐となった。倉庫などのワーカーにもニーズがあった。法人需要で、売り上げはコロナ前のなんと7倍規模に。

「正直、これは予想していませんでした」

実はポケトークの事業に投資したいという声が以前から上がっていた。だが、ソースネクストに占めるポケトーク事業の売り上げが大きすぎた。ポケトーク事業を切り離すには、株主総会の決議が必要だった。ところがコロナ禍でポケトークの売り上げ比率が下がり、この問題がなくなった。松田はポケトークの分社化を決断する。’22年、会社を作り、後に100億円の資金を調達。それを元に開発が進められたのが、『ポケトーク字幕』やポケトークのアプリ化、リアルタイム通訳ソフト『ポケトーク-Sentio』だ。前述したように、話している言葉がどんな言語でもスラスラと画面に表示される。しかも、かなりの高精度だ。最近では、国際会議などでも使われる。

マーケットは全世界に及ぶ。すでに売り上げの半分は海外になっているが、こんな日本のスタートアップは珍しいという。

「これもシリコンバレーに移り住んでよかったことだと思いますが、とてつもないことだってできるんだ、という空気がここにはあるんです。実際、そういう例が間近にある」

子供を連れた散歩の途中でグーグルの創業者の一人、ラリー・ペイジと会話を交わしたこともある。天使のような笑顔を見せ、握手をしてくれた。

「ごく普通のきちんとした人が、とんでもない成功をしていることを知りました」

趣味は、野球。草野球でピッチャーを務め、40代では9奪三振の完投をしたことも。近年はプロ野球の始球式に登場、球速110km/hを出したこともある。

「帰国したら、今も必ず店頭に立ちます。いつも学びは大きいです。1時間近く売り場でクレームを入れてきた人もいましたが、最後に名刺を渡すと驚かれていました。でも、社長とわからないようにするのがポイントなんです(笑)。そうしないと本音は聞けませんから」

日本人の英語コンプレックスが消える日も、そう遠くないかもしれない。(文中敬称略)

『FRIDAY』2026年5月15・22日合併号より

取材・文:上阪 徹