フリーアナウンサー・神田愛花『この春、私は別れを受け入れました』
My first CHANEL
春は出会いと別れの季節。特に後者は、まだ一緒にいたい相手に限って突然訪れる。私はこの春、″担当さん″とお別れした。
世界中の女性の憧れ、CHANEL。ブランドの創設者、ココ・シャネルは、女性がコルセットをつけていた過酷な時代に、スポーツウェアの生地で作ったスーツなど動きやすさ重視の装いを提案。女性の社会進出を支え、ファッション界に革命を起こした。
私は高校時代にシャネルの伝記でその成り立ちを知り、″自分の稼ぎだけで生きていける目処がたった時に自力でMy first CHANELを購入しよう″と決めた。そして30代半ば、ようやくその時が訪れた。(ついに辿り着いた)という思いで、銀座のCHANELへ。その時、私を接客してくださった店員さんが、この春まで10年近く私のお買い物のサポートをしてくださった″担当さん″だった。
いくら憧れのブランドでも、接客が雑だったり店員さんが高飛車だったりすると買う気が失せる。私は支払う金額とサービスが比例していることに重きを置くタチで、比例していないと「ブランドも名ばかりか!」とか「すごいブランドで働いているからって自分まですごいと思うなよ!」という発想になり、(二度とここで買わないぞ!)となるほど心が狭い。
だが、その担当さんはちょっとオドオドしている私を気持ちよく接客してくださり、私の人生のテーマカラーであるピンク色のバッグを提案してくださった。一生の思い出になるピンクのMy first CHANEL。購入時のいい思い出がプラスされ、今でも揺るぎない記念バッグとしてクローゼットに君臨している。
私の生活レベルでは、高価なCHANELを身に纏う必要なんてまったくなかった。だが、その担当さんのおかげでCHANELが自分へのご褒美を買う場所、一流の商品と接客を知れる場所という存在になり、生涯お付き合いしていきたいブランドとして確立されていったのだ。
その結果、この10年で散々お買い物をした。どうしても欲しい! と思っていなくても、中の上くらい「欲しいなぁ」と思ったら購入した。というのも、もしかしたら店員さんたちは、売り上げで社内の評価が決まるのかも!? と思ったからだ。
そんな事実があると聞いたことはないが、もしそうだったら、自分の人生に彩りを与えてくれた担当さんへの恩返しをするべきだと考えた。そんな発想になる自分と、ホストクラブにハマる女性とが重なったが、一生使い続けられる名品たちが手元に残るのも事実なので、一石二鳥だと思っていた。
唯一無二の存在だったのに
だがこの4月、その担当さんが突然、店舗異動になったのだ。それも国際線の空港内の免税店に。
「えー!!」と思わず声が出た。(全然行けないじゃん!!) 空港内の店舗なんて、海外に行く時にしか寄れない。搭乗日に担当さんがいるとも限らないし、なにより旅行前に高級品を購入し、ずっと持ち歩くのなんてごめんだ!
ついに私とCHANELの関係に終止符が打たれる時がきた。これ以上はCHANELに出費するなという、神様のお告げかもしれない。一体いくら使ったんだ。浮気をするチャンス!? と、CHANEL以外で活力になるブランドを見つけるべく、銀座の街をブラブラしてもみた。だが気持ちが乗らなかった。
私にとってCHANELに代わるブランドなんてないのだ。自分がようやく一人前になった時、その勲章として初めて門を叩いたブランド。楽しい時も悲しい時も、共に歩んできたのはCHANELだった。そしてそこにはいつも担当さんがいて、私と名品たちを出会わせてくれた。
ちょうどいい機会だ。担当さんに感謝しつつ、一度これまでの自分とCHANELの関係を俯瞰してみようではないか。なんと贅沢でバカな時間だったんだと思えば、これっきりで構わない。贅沢ではあるけれどやっぱり自分の人生には必要な彩りだと思えば、また担当さんが戻って来た時に足を踏み入れればいい。
「別れは人を成長させる」。この春、私はその言葉を噛み締めながら、前に進む決意をした。夏休みと年末年始休み、あと何回かハワイにフラッと行く時だけ、空港の免税店で担当さんとプチはしゃぎをしようと思う。
かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中
『FRIDAY』2026年5月1・8日合併号より
イラスト・文:神田愛花
