やりがい搾取の反省から“理想的すぎる”環境へ――新ドラマ『銀河の一票』佐野亜裕美Pがミリアゴンスタジオと挑む制作スキーム改革
●「作品の中身を面白くすること」に注力できる
テレビ報道の在り方に一石を投じた『エルピス―希望、あるいは災い―』(22年)で数々の賞に輝いた佐野亜裕美プロデューサーが、今度は地上波連続テレビドラマの制作スキームに風穴を開けようとしている。
20日にスタートするカンテレ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』(毎週月曜22:00〜)は、メガヒット映画『国宝』を手掛けたミリアゴンスタジオとタッグ。クリエイターに寄り添い、“面白いものを作る”ための理想的な環境で作品づくりに挑んでいる――。

『銀河の一票』佐野亜裕美プロデューサー
○カンテレ&ミリアゴン両社が「制作著作」に
ギャラクシー賞テレビ部門大賞、放送文化基金賞テレビドラマ部門最優秀賞、日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門最優秀賞など、数々の栄冠に輝いた『エルピス』だが、その仕事を終えた後、テレビドラマのプロデューサーを辞めようと考えたこともあったという佐野氏。
この背景にあったのは、面白いものを作りたいと集結したチームで、「金銭的な面で相当苦労したので、やりがいの搾取になっていると思ってしまったんです」という深い反省だった。
そこから再び制作意欲が湧いてきたが、仮に作品が海外で売れたり、リメイク権などで成果を上げたりしても、それが次の制作費に直接還元されることがない現状がある中で、今回は、これまでとは違う枠組みを模索する必要があると感じていた。
そんな中で出会ったのが、後に大ヒット映画『国宝』の製作幹事としてその名を業界にとどろかせることになる「ミリアゴンスタジオ」を立ち上げたばかりの村田千恵子プロデューサー。かねてから佐野氏は、テレビ局のプロデューサーとして「作品の中身を面白くすること」と「出口をどう広げるか」の両方を考えなければならないことに難しさを感じながら、自身は前者に注力したいという思いがあった。
そこで、プロデューサーがクリエイティブに集中できる環境を作りたいというミリアゴンスタジオのミッションに共感。自身が設立した会社とミリアゴンスタジオで地上波ドラマ以外のドラマ・映画作品を開発するというパートナーシップを結んだのだ。
こうした流れから、『銀河の一票』ではカンテレとミリアゴンスタジオが制作費を出し合って初めてタッグを組み、両社が「制作著作」としてクレジットされている。佐野氏は「本当に理想的な環境すぎていいのだろうか?と思ってしまいます」と充実の制作体制で臨むことができたことに喜ぶ一方で、「プレッシャーにもなり、励みにもなっています」と気を引き締める。
○諦めるより「出口を広げて増やそう」の発想に
実写邦画興収歴代1位となったメガヒット映画『国宝』の企画・プロデューサーで、ミリアゴンスタジオ執行役員でもある村田氏は、この新しい試みについて、「まず佐野プロデューサーのクリエイティブがあり、それをより良い環境で成立させるためのビジネススキームを考えたいと思っていました。“これぐらいの人が見るから、逆算してこの予算の中で作れるものを”という考えで作品づくりをしていると、いつも何かを諦めなければいけなくなってしまうので、クリエイターの才能に対してもったいない。“こういうものを作りたくて、これくらいお金をかけたい。であれば、出口を広げて制作費を増やそう”というビジネススキームを考え続けていきたいです」と語る。
さらに、「海外では、OTT(配信サービス)各社が大きな予算でドラマを作ることができるので、才能がそこに集中してしまっているのを見てきました。日本は地上波を見ている視聴者が多く、たくさんの良いドラマが作られているので、うまく“中間地点”が見つけられれば」とも狙いを明かした。
こうした座組から、村田氏は「日本だけでなく海外でも見ていただけるように、しっかりとしたクリエイティブを実現したいと思っています」と意欲。佐野氏は「海外を意識することは、日本の観客を大切にしないということではなく、まず日本でちゃんと面白いと思ってもらえる、強度のあるものを作ったら、結果それが広がると信じてやりたいと思います」と続けた。
●黒木華への手紙、「人生を借りた」野呂佳代の起用

黒木華
政治家の不正を告発する文書をきっかけにすべてを失った与党幹事長の娘で秘書・星野茉莉(黒木華)が、政治素人のスナックママ・月岡あかり(野呂佳代)と出会い、東京都知事を目指して選挙に挑む“選挙エンターテインメント”の今作。
主演の黒木とは今回が初めての仕事で、佐野氏はオファーにあたって手紙を書いた。そこには、このドラマをなぜ作りたいのか、黒木が役者としてどう素晴らしいか、さらに「この業界、テレビドラマというものに対して、今自分がどう感じていて、それをどう抗っていきたいと思ってるか」をしたためたという。
佐野氏は「初めてのオファーは、会ったこともないのに“あなたのことが好きです”と言うようなものなので、思いを伝えるのが難しくて」とのことから、手紙という形を選ぶという。
TBS在籍時代、『20年後の君へ』(12年)というスペシャルドラマに主演した中井貴一に、番宣出演をお願いするため、時候の挨拶から始まる手紙を書いたところ、「なんだよ『拝啓〜』って(笑)」と爆笑されたという佐野氏。それでも結果的には出演を引き受けてもらえたことを大切な思い出として、その後も折りに触れて手紙を書いているそうだが、「勝率は半分ぐらい(笑)」とのことだ。
共演の野呂は、「彼女の人生を借りようと思いました」とキャスティングした。演じるスナックのママは、過去に「全てを失った」出来事を抱える人物。AKB時代の総選挙でも決して順風満帆ではなく、バラエティやドラマで引っ張りだこの今の位置へすぐにたどり着いたわけではない野呂の歩みが、そのまま役の説得力につながると直感した。
さらに、「野呂さんみたいな、ちょっと乱暴にいうと生っぽい魅力のある人が選挙カーの上に乗っていたら、自分だったら投票したくなるかもと思って」といい、演技の上手さだけでは出せないリアル感に期待を寄せている。

野呂佳代
○出産を経て「家族のシーン」に向き合えるように
佐野氏にとって『エルピス』から3年半ぶりの連ドラ。その間に出産を経て、物語を見る目に変化があったという。これまでは母と子の場面で“娘”側に感情移入していたのが、今は「さすがに母が半分ぐらいになりました」といい、今作でも「母親の目線で、“娘にこんなことを言わなければならなかった理由は何だろう”と考えるようになったことは、自分の中で結構大きいです」と感じている。
「自分自身がわりと家族といろいろ不和や葛藤を抱えていた人間なので」という背景もあり、これまでは自然と家族のシーンを避けがちだったという佐野氏。今作は比較的そうした場面が多いというが、それは蛭田氏の持ち味に加え、自身が新しい家族を持ったことで「ちょっと乗り越えられたところがあるなと思います」と明かした。
『大豆田とわ子と三人の元夫』ではTBSの藤井健太郎氏(『水曜日のダウンタウン』など)がプロデュースする楽曲が彩り、『エルピス』では元テレビ東京の上出遼平氏(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』など)が企画として参加するなど、佐野プロデュース作品ではエンディング映像にもこだわりを見せてきたが、「今回、そういうのはないんです」とのこと。ただし、「今までとは違いますが、ちょっと面白い試みはしています」と、何かしらの仕掛けがあることを示唆している。

●佐野亜裕美1982年生まれ、静岡県富士市出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『渡る世間は鬼ばかり』のADに。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9〜刑事専門弁護士〜』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。20年6月にカンテレへ移籍し、『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス―希望、あるいは災い―』、さらにNHKで『17才の帝国』をプロデュース。23年1月に映像コンテンツのプロデュースや脚本作り、キャスティングなどの支援を行う「CANSOKSHA」を設立。『カルテット』でエランドール賞・プロデューサー賞、『大豆田とわ子と三人の元夫』で大山勝美賞を受賞、『エルピス』で芸術選奨・新人賞(放送部門)を受賞している。
テレビ報道の在り方に一石を投じた『エルピス―希望、あるいは災い―』(22年)で数々の賞に輝いた佐野亜裕美プロデューサーが、今度は地上波連続テレビドラマの制作スキームに風穴を開けようとしている。
20日にスタートするカンテレ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』(毎週月曜22:00〜)は、メガヒット映画『国宝』を手掛けたミリアゴンスタジオとタッグ。クリエイターに寄り添い、“面白いものを作る”ための理想的な環境で作品づくりに挑んでいる――。

○カンテレ&ミリアゴン両社が「制作著作」に
ギャラクシー賞テレビ部門大賞、放送文化基金賞テレビドラマ部門最優秀賞、日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門最優秀賞など、数々の栄冠に輝いた『エルピス』だが、その仕事を終えた後、テレビドラマのプロデューサーを辞めようと考えたこともあったという佐野氏。
この背景にあったのは、面白いものを作りたいと集結したチームで、「金銭的な面で相当苦労したので、やりがいの搾取になっていると思ってしまったんです」という深い反省だった。
そこから再び制作意欲が湧いてきたが、仮に作品が海外で売れたり、リメイク権などで成果を上げたりしても、それが次の制作費に直接還元されることがない現状がある中で、今回は、これまでとは違う枠組みを模索する必要があると感じていた。
そんな中で出会ったのが、後に大ヒット映画『国宝』の製作幹事としてその名を業界にとどろかせることになる「ミリアゴンスタジオ」を立ち上げたばかりの村田千恵子プロデューサー。かねてから佐野氏は、テレビ局のプロデューサーとして「作品の中身を面白くすること」と「出口をどう広げるか」の両方を考えなければならないことに難しさを感じながら、自身は前者に注力したいという思いがあった。
そこで、プロデューサーがクリエイティブに集中できる環境を作りたいというミリアゴンスタジオのミッションに共感。自身が設立した会社とミリアゴンスタジオで地上波ドラマ以外のドラマ・映画作品を開発するというパートナーシップを結んだのだ。
こうした流れから、『銀河の一票』ではカンテレとミリアゴンスタジオが制作費を出し合って初めてタッグを組み、両社が「制作著作」としてクレジットされている。佐野氏は「本当に理想的な環境すぎていいのだろうか?と思ってしまいます」と充実の制作体制で臨むことができたことに喜ぶ一方で、「プレッシャーにもなり、励みにもなっています」と気を引き締める。
○諦めるより「出口を広げて増やそう」の発想に
実写邦画興収歴代1位となったメガヒット映画『国宝』の企画・プロデューサーで、ミリアゴンスタジオ執行役員でもある村田氏は、この新しい試みについて、「まず佐野プロデューサーのクリエイティブがあり、それをより良い環境で成立させるためのビジネススキームを考えたいと思っていました。“これぐらいの人が見るから、逆算してこの予算の中で作れるものを”という考えで作品づくりをしていると、いつも何かを諦めなければいけなくなってしまうので、クリエイターの才能に対してもったいない。“こういうものを作りたくて、これくらいお金をかけたい。であれば、出口を広げて制作費を増やそう”というビジネススキームを考え続けていきたいです」と語る。
さらに、「海外では、OTT(配信サービス)各社が大きな予算でドラマを作ることができるので、才能がそこに集中してしまっているのを見てきました。日本は地上波を見ている視聴者が多く、たくさんの良いドラマが作られているので、うまく“中間地点”が見つけられれば」とも狙いを明かした。
こうした座組から、村田氏は「日本だけでなく海外でも見ていただけるように、しっかりとしたクリエイティブを実現したいと思っています」と意欲。佐野氏は「海外を意識することは、日本の観客を大切にしないということではなく、まず日本でちゃんと面白いと思ってもらえる、強度のあるものを作ったら、結果それが広がると信じてやりたいと思います」と続けた。
●黒木華への手紙、「人生を借りた」野呂佳代の起用

政治家の不正を告発する文書をきっかけにすべてを失った与党幹事長の娘で秘書・星野茉莉(黒木華)が、政治素人のスナックママ・月岡あかり(野呂佳代)と出会い、東京都知事を目指して選挙に挑む“選挙エンターテインメント”の今作。
主演の黒木とは今回が初めての仕事で、佐野氏はオファーにあたって手紙を書いた。そこには、このドラマをなぜ作りたいのか、黒木が役者としてどう素晴らしいか、さらに「この業界、テレビドラマというものに対して、今自分がどう感じていて、それをどう抗っていきたいと思ってるか」をしたためたという。
佐野氏は「初めてのオファーは、会ったこともないのに“あなたのことが好きです”と言うようなものなので、思いを伝えるのが難しくて」とのことから、手紙という形を選ぶという。
TBS在籍時代、『20年後の君へ』(12年)というスペシャルドラマに主演した中井貴一に、番宣出演をお願いするため、時候の挨拶から始まる手紙を書いたところ、「なんだよ『拝啓〜』って(笑)」と爆笑されたという佐野氏。それでも結果的には出演を引き受けてもらえたことを大切な思い出として、その後も折りに触れて手紙を書いているそうだが、「勝率は半分ぐらい(笑)」とのことだ。
共演の野呂は、「彼女の人生を借りようと思いました」とキャスティングした。演じるスナックのママは、過去に「全てを失った」出来事を抱える人物。AKB時代の総選挙でも決して順風満帆ではなく、バラエティやドラマで引っ張りだこの今の位置へすぐにたどり着いたわけではない野呂の歩みが、そのまま役の説得力につながると直感した。
さらに、「野呂さんみたいな、ちょっと乱暴にいうと生っぽい魅力のある人が選挙カーの上に乗っていたら、自分だったら投票したくなるかもと思って」といい、演技の上手さだけでは出せないリアル感に期待を寄せている。

○出産を経て「家族のシーン」に向き合えるように
佐野氏にとって『エルピス』から3年半ぶりの連ドラ。その間に出産を経て、物語を見る目に変化があったという。これまでは母と子の場面で“娘”側に感情移入していたのが、今は「さすがに母が半分ぐらいになりました」といい、今作でも「母親の目線で、“娘にこんなことを言わなければならなかった理由は何だろう”と考えるようになったことは、自分の中で結構大きいです」と感じている。
「自分自身がわりと家族といろいろ不和や葛藤を抱えていた人間なので」という背景もあり、これまでは自然と家族のシーンを避けがちだったという佐野氏。今作は比較的そうした場面が多いというが、それは蛭田氏の持ち味に加え、自身が新しい家族を持ったことで「ちょっと乗り越えられたところがあるなと思います」と明かした。
『大豆田とわ子と三人の元夫』ではTBSの藤井健太郎氏(『水曜日のダウンタウン』など)がプロデュースする楽曲が彩り、『エルピス』では元テレビ東京の上出遼平氏(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』など)が企画として参加するなど、佐野プロデュース作品ではエンディング映像にもこだわりを見せてきたが、「今回、そういうのはないんです」とのこと。ただし、「今までとは違いますが、ちょっと面白い試みはしています」と、何かしらの仕掛けがあることを示唆している。

●佐野亜裕美1982年生まれ、静岡県富士市出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『渡る世間は鬼ばかり』のADに。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9〜刑事専門弁護士〜』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。20年6月にカンテレへ移籍し、『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス―希望、あるいは災い―』、さらにNHKで『17才の帝国』をプロデュース。23年1月に映像コンテンツのプロデュースや脚本作り、キャスティングなどの支援を行う「CANSOKSHA」を設立。『カルテット』でエランドール賞・プロデューサー賞、『大豆田とわ子と三人の元夫』で大山勝美賞を受賞、『エルピス』で芸術選奨・新人賞(放送部門)を受賞している。
