日本の「投資意識」の変革が呼び込む株高シナリオ…日本経済を再成長させる〈一億総株主化〉への展望【チーフ・ストラテジストが解説】
日本における「民間企業」の主体性を強化するためには、投資文化のさらなる定着が重要です。米国と比較して「資本」を利用する意識が遅れている日本において、〈一億総株主化〉へ向けた意識改革こそが日本経済を成長に導くカギであると著者は指摘します。本記事では、広木隆氏の著書『株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実』(日経BP)から一部編集・抜粋し、長期的な“成長戦略”としての一億総株主化の展望について解説します。
企業価値向上を「自分事」に…広がる株式報酬制
政・官・財のトライアングルの中で「財」、つまり民間の企業が尖っていくように形を変えていかなければなりませんが、その民間企業とは投資される側の企業と投資する側の機関投資家、双方です。
どうすれば企業が主体性を持って変わっていけるでしょうか。
「主体的に」とは「自分事として」行動するということにほかなりません。企業価値向上を「自分事」として捉えるには、インセンティブと成功体験が必要でしょう。
あっさり言えば、「株価が上がってよかった」と企業関係者が思えることです。その意味では企業が従業員に株式で報酬を渡す制度が広がっていることは明るい材料です。
日経新聞が報じた記事によれば、譲渡制限付き株式(RS)報酬など主な制度の導入数は2025年6月時点で全上場企業の6割に当たる約2,600社が導入し、およそ10年で3倍になったといいます。譲渡制限付き株式報酬を役員向けに導入するのは約1,690社、従業員向けは約740社あるそうです。
このような流れの先に「一億総株主化」が実現するのでしょう。その意味では我が国の発想は、まだまだ米国に遅れています。
「投資」を利用する米国、「目先の対策」に留まる日本
「さすが米国だ」と思わされるニュースが2025年末にありました。米政府が発表した新生児向けの投資口座「トランプ口座」です。米政府が口座に1,000ドルを出し、保護者や企業の上乗せ拠出も認めて米株指数連動ファンドなどで運用するというのです。
「富を増やす方法として常に株式に関心を持ってきたのが米国だ」と米投資信託協会(ICI)のエリック・パン最高責任者が語っていますが、アメリカという国はまさに「資本」というものを徹底的に利用しようという発想が根付いているのでしょう。
それに引き換え我が国の政策はなんとも「しょぼい」と言わざるを得ません。政府・与党・野党がすったもんだした結果、出てきた策が所得税の非課税枠「年収の壁」を178万円に引き上げるというものです。
こども家庭庁も、閣議決定された2025年度補正予算案で、子ども1人当たり2万円を給付する「子育て応援手当」に3,677億円を計上しました。物価高対策として子育て世帯の生活を支援するというものです。
そんな目先の「バラマキ」ではなく、もっと長期的な視点に立った政策を発想できないものでしょうか。例えば、米国と同じことを日本でもやればよいのです。
少子化対策から考える、日本に「投資文化」を根づかせるアイデア
178万円の減収規模は財務省の想定でおよそ年6,500億円。前述の子どもに2万円を配るのが3,600億円、合わせて約1兆円です。
日本の新生児の出生数は68万人。ひとり10万円配るなら680億円で済みます。100万円配ったって6,800億円で済むのです。
それを米国同様、インデックス・ファンドで運用する。18歳まで、もしくは義務教育を終えるまで換金・譲渡できないとする。NISA口座で運用して非課税にする。こうして日本に投資を根付かせる。すると、いままで投資に関心のなかった層も投資の効果や恩恵を感じて自らも拠出して運用を始めるでしょう。
10万円×68万人=680億円は初期原資ですが、その後の値上がりは政府負担になりません。むしろ、金融教育の導入機会や長期で見れば税収増(キャピタルゲイン課税)にもつながります。 フローの財政負担は一度きりでストック効果は民間に蓄積する。はるかに筋の良い政策でしょう。
国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」や、その他の最新の意識調査によれば、日本人がこどもを産まない理由の第一位は、
経済的理由=お金がかかるから
というものです。そこをバラマキでなく投資で解決する。非常に優れた少子化対策であり、成長戦略ではないでしょうか。
将来の話ですが、今後、政府が何らかのバラマキ策の必要に迫られた場合、同様の発想で、日銀が購入したETFの出口政策として国民にETFを配るというのもありでしょう。
とにかく日本に「エクイティ・カルチャー」を根付かせること、それが将来、日本経済と日本の社会にとって大きなリターンを生むと思います。
日本の資本主義は、今まさに変革期
今回のCGコード改訂による企業改革の進展も、俯瞰した観点から見れば日本の資本主義の転換点のひとつとしてとらえることができるでしょう。
大袈裟かもしれませんが日本の資本主義はいままさに生まれ変わろうとしています。それはCX(キャピタル・トランスフォーメーション)と呼ぶことができるくらいの迫力を持ったものになる可能性を秘めています。
日本の資本市場とその主役である日本企業は、いろいろな点で悲しいほど立ち遅れていました。しかし、それだけ成長の伸びしろが大きいとも言えます。
ここからドラスティックに変化・進化を遂げれば世界中の投資家の日本を見る目が変わります。その変革の熱量を揚力に転換していくことで日本株の上昇余地は相当大きいものとなるでしょう。
広木 隆
マネックス証券株式会社
チーフ・ストラテジスト
