「南国ムード」街路樹のヤシの木、高木化で管理困難…昭和に各地で植栽も伐採の動き
各地の駅前や大通りにそびえるヤシの木が岐路に立たされている。
昭和時代、観光振興に役立て、地域のシンボルにしようと植えられたが、老齢化した高木の維持管理が難しくなり、徳島市は一部の伐採を決めた。専門家は「親しまれた景観と安全確保のバランスが大切だ」と指摘する。(徳島支局 南野々子)
徳島市は伐採
徳島市のJR徳島駅から観光施設「阿波おどり会館」まで続く約700メートルの大通りや駅、会館前などには、高さ20メートル以上の「ワシントニアパーム」(通称・ワシントンヤシ)が約110本そびえる。列車やバスで駅前に降り立つと、必ず目にする風景だ。
徳島のヤシは1930年(昭和5年)の旧徳島県庁舎完成時、米国から種子を持ち帰った県民から県が苗を買い取り、旧県庁舎周辺に植えたと伝わる。53年に四国4県で開催された国体に合わせ、街路樹として、選手や観光客の目を引く駅前周辺に移されたという。
樹齢が90年を超え、高さが30メートル近くに達するヤシもある。高所作業車を使っても手入れが難しくなり、枝葉が落下するリスクや、南海トラフ地震発生時の揺れや液状化で倒木する可能性があることから、市や県は毎年、状況を確認してきた。
市はこのうち、会館前の広場に植わる8本について今年度中の伐採を決定。伐採した跡地は広場として再整備される予定だという。市にぎわい交流課の担当者は「会館周辺は地震発生時に液状化しやすいエリアにあたり、重大事故が起きる前に対応することが重要だと判断した」と説明する。
ヤシに愛着を感じている住民は多い。地元の商店街理事長の福田典彦さん(73)は「子どもの頃から親しんできた徳島の風景。何とか、次の世代に残してほしい」と話した。
植え替え
徳島のヤシは「南国ムード」を演出する先駆例の一つとなった。高度経済成長期に入ると、ハワイへの海外旅行が憧れとなる中、大阪や東京から列車で行くことができ、気候が温暖な九州などにヤシが植えられた。
南九州大の北川義男名誉教授(81)(造園学)によると、60年代に新婚旅行先として宮崎が人気を集め、宮崎市内にヤシが植えられた。北川名誉教授は「異国情緒を演出するため、亜熱帯性のヤシを活用し、地域の魅力を高めたかったのだろう」と指摘する。
宮崎市では、国道沿いの約15キロにワシントンヤシ約850本が並び、管轄する国土交通省宮崎河川国道事務所が2017年から植え替えを進めている。枯れ枝の落下で車のガラスが破損する事故が起きるなど安全管理が課題だった。1本当たり約250万円の費用がかかり、植え替え完了まで60年かかるという。
鹿児島市では、海岸に近い市道などに約390本のワシントンヤシが植わる。維持管理費が負担になっていることから、市は撤去や樹高の低いヤシ類への植え替えを検討。市公園緑化課の担当者は「南国イメージとも結びついており、住民の理解も必要になる。他都市の事例を参考にしながら対応を決めたい」と話す。
和歌山県白浜町は22年度、海水浴場近くに植えられていた19本のヤシのうち12本を伐採した。一部の木が電線の高さまで伸び、危険と判断したという。
景観とバランスを
大阪市立大(現・大阪公立大)の杉本キャンパスでは17年、倒木リスクを理由に、時計台前広場に植えられていたワシントンヤシ26本が伐採された。1950年代後半に卒業記念として植えられ、大学のシンボル的な景観だった。
伐採翌年の2018年9月、台風で市内の街路樹1740本が倒れたことを踏まえ、大阪公立大の担当者は「伐採の判断は間違いではなかった」としている。
北川名誉教授は「ヤシは、観光イメージや歴史と深く結び付いた樹木。その地域を代表する景観となっている場合が多く、伐採や植え替えの判断については、行政が住民アンケートなどで合意形成を進めることが重要だ」と指摘する。
国交省が点検指針
老木化する街路樹への対応は全国的な課題となっている。
高度経済成長期、増加する自動車による騒音や排ガス対策として、イチョウやケヤキなどが植えられた。
街の景観維持や日差しを遮る役割を果たしてきたが、老木化に加え、台風などの相次ぐ災害で弱っているものも多いとみられる。
国土交通省によると、街路樹の倒木は年間平均約5200本に及ぶ。国交省は3月30日、自治体向けの街路樹の点検指針を公表。倒木の危険性や影響に応じて優先度を3段階に分け、最も高い樹木には「おおむね年1回」の定期巡回を求めている。
