最近の歌舞伎座はダブルキャストが多く、若手にもチャンスがある(中川右介/作家)
映画「国宝」のロングランが続いているが、それに便乗して、京都・南座では映画の劇中劇『曽根崎心中』が上演され賑わっていた。中村壱太郎と尾上右近が、お初と徳兵衛を交互に演じ、芝居の後、2人のトーク付き。冒頭、客席に「『国宝』を見て、今日初めて歌舞伎を見に来たかたは手を挙げて」と呼びかけると、かなり手が挙がっていたから、松竹の狙いはうまくいっている。
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肝心の芝居は『曽根崎心中物語』と「物語」を付けてあるように、かなり変えてある。主役の若い2人が美しいことを前提としての、宝塚っぽい演出だった。
東京の歌舞伎座も、中村時蔵、坂東巳之助、中村隼人ら若い世代が堂々と主役。南座の2人も含め、全員30代だ。この世代が「花形歌舞伎」ではなく、「大歌舞伎」として大役に挑んでいるのは頼もしい。團十郎・菊五郎(八代目)への世代交代がなされたと思ったら、もう次の世代の時代になりつつある。團・菊世代はうかうかしていられない。
昼は『加賀見山再岩藤』で、これは1月に新国立劇場で上演された『鏡山旧錦絵』の続編にあたる。異なる劇場で続けて上演されたのは偶然なのか意図的なのかは分からないが、観客としては嬉しい趣向だ。尾上松緑と巳之助が鳥井又助と岩藤の亡霊の二役を、中村萬壽と時蔵が尾上を、それぞれダブルキャストで演じている。萬壽と時蔵は父子で同じ役を競っている。最近の歌舞伎座はダブルキャストが多い傾向で、若手にチャンスを与えている。
巳之助と時蔵の回に見た。巳之助は善人と悪人の二役で、これまでは線が細い印象だったが、悪役の岩藤の亡霊では図太さが出ていて、役者としてひとまわり大きくなった。時蔵も「菊五郎(八代目)の次」というポジションから完全に脱却し、物語の主導権を握って、ぐんぐんと引っ張る。
■夜の部に感じた次世代の台頭
夜の部は『三人吉三廓初買』。冒頭の「大川端庚申塚の場」だけが毎年のように上演されるが、通しは少ない。和尚は松緑と巳之助のダブルキャストだが、お嬢は時蔵、お坊は隼人。みな「大川端」は経験しているが、松緑と時蔵以外は通しでは初めて。脇役に、尾上左近と市川染五郎という20代の役者が出ており、次の世代も台頭していることを印象づける。
巳之助の回に見たが、若い役者たちが演じるので、不良少年の焦燥感が生んだ悲劇だと刺さってくる。ただ、歌舞伎というよりストレートプレイみたいで、そこが受けるのかもしれないが。
(作家・中川右介)
